把握しない荷主、運転手の長時間労働を助長【元トラックドライバーが解説! 2024年問題の真実 第1回】
2023/10/26ライターとして多数メディアで活躍中の元トラックドライバー橋本愛喜さんに、いま話題の「物流・運送業界の2024年問題」の本当のところを解説してもらいます。連載の第1回目は、2024年問題のポイントを伝え、この問題を顕在化させる長距離トラックドライバーの長時間労働問題の要因に橋本さんが迫ります。Chematelsへの“直送解説”をぜひご覧ください。
目次
本連載で扱う項目
- 第1回 問題の要点と長時間労働の要因
- 第2回 メディアや世間の誤解
- 第3回 ズレ感ある国の政策パッケージ
- 第4回 荷主至上主義に振り回される現場
- 第5回 解決に必要なたった二つのこと
2025年も2030年も続く問題
2023年になってようやく運送業界以外でも関心が集まるようになった「2024年問題」。最近では「残り何カ月」といった報道をよく目にします。
しかし、2024年問題は、「ノストラダムスの大予言」のようにその一瞬を通過すれば胸をなでおろせるものではありません。2025年も2030年も、これから先ずっと続くことなのです。運送業界からは「2024年問題といわず、物流崩壊元年としたほうがいい」といった声も上がります。
つまり2024年問題は、一時的な対策で済むものではありません。これからの物流のあり方を変える大きな改革が必要、と考えるべきものなのです。
重大性を知っていただいたうえで、改めて2024年問題がどんなものなのかを説明しましょう。
「5年間の猶予」終了が2024年4月
2019年、ほとんどすべての業種で施行された「働き方改革関連法」。これにより年間の時間外労働は720時間までに制限されました。
しかし、トラックドライバーをはじめとする職業ドライバーには、長時間労働の改善に時間がかかるということから、施行までに5年間の猶予が与えられました。そのタイムリミットが来年2024年の4月に迫り、物流業界は大きな変革を迫られているわけです。
ちなみに、2024年から施行される職業には他に医師、建設業、そして「鹿児島県・沖縄県の砂糖製造業に従事する人たち」がいます。医師や建設業は、職業ドライバーと同じく長時間労働の問題を抱えている業種。「砂糖製造業はなぜ」と思われるかもしれませんが、季節的な業務量の変動が著しいという労働事情があるようです。
長時間労働の要因とは…「荷待ち」に着目
話を運送業に戻しましょう。
トラックドライバーに対する働き方改革が他業種と違うのは、施行時期だけではありません。時間外労働の制限が、一般則の年間720時間ではなく「年間960時間」とされています。多くの他業種よりも240時間も長い設定ですが、そうせざるを得ない原因があります。
長距離トラックドライバーの場合、一度地元を離れるとなかなか帰って来られないというのも一因ですが、なにより長時間労働の大きな原因となっているのは、荷主に強いられる「荷待ち」にあります。
荷主の「待たせている」という意識が少ない
荷待ちの平均は1.34時間とされていますが、これはあくまでトラックドライバー全体の平均値。業界や企業を絞ると「半日待つ」という人もザラにいます。私がいままで取材してきた人たちでの最長は、なんと「21時間半」でした。
しかし、このような状況下であっても、荷主には2024年問題を「運送側の問題」と捉える人が非常に多いのです。
実際、2023年4月、経済産業省・国土交通省・農林水産省による「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では、衝撃的なデータが出されました。
自社に来るトラックの荷待ち時間を「把握している」荷主の割合ですが、どのくらいか想像できるでしょうか。
10~20%です(図1)。

図1:荷待ち時間・荷役時間の把握状況
(出所:経済産業省・国土交通省・農林水産省2023年4月27日発表「荷主事業者の物流情報の把握状況等に関する実態調査結果」をもとに編集部作成)
長時間労働の最も大きな原因の一つとされている荷待ち時間を、法律の施行1年前になっても荷主が把握していないのです。
2022年10月の時点で、時間外労働が960時間を超えるドライバーが「いる」と答えた事業者は29.1%もいる状態です。しかも、これほど問題視されている中で、前年度の27.1%から増加しているのです(図2)。

図2:時間外労働時間960時間超ドライバーの有無
(出所:全日本トラック協会 2023年3月発表「第5回働き方改革モニタリング調査について」をもとに編集部作成)
荷主と運送企業のパワーバランスの現状に鑑みると、2024年問題はもはや運送業界側の問題ではなく、荷主側の意識の問題といっても過言ではありません。
ですので、2024年問題の解決には、何よりも先に「荷主の意識改革」が必要になります。今後も荷物が滞りなく運べる社会をつくるために、少しでもドライバーに関心を向けてくれる荷主さんが増えることを願っています。
次回のテーマは「メディアや世間の誤解」の予定です。ご期待ください。
橋本 愛喜(Aiki Hashimoto)
フリーライター。大阪府生まれ。工場経営者、トラックドライバー、日本語教師を経てライターに。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上の工場へ配達。現在はブルーカラーの労働環境、国際文化ギャップ、ジェンダー、差別、誹謗(ひぼう)中傷などに関する社会問題を中心に執筆。メディア出演・講演なども行っている。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書、2020年)。
