「宅配こそ問題」とメディアは誤解する【元トラックドライバーが解説! 2024年問題の真実 第2回】
2023/11/09元トラックドライバーでライターの橋本愛喜さんに「物流・運送業界の2024年問題」の真相を解説してもらっています。第2回は、2024年問題に対するメディアや世間の「誤解」について。橋本さんがズバリ問題の本質を指摘します。
目次
本連載で扱う項目
- 第1回 問題の要点と長時間労働の要因
- 第2回 メディアや世間の誤解
- 第3回 ズレ感ある国の政策パッケージ
- 第4回 荷主至上主義に振り回される現場
- 第5回 解決に必要なたった二つのこと
第1回「把握しない荷主、運転手の長時間労働を助長」で紹介した通り、人手不足などが懸念される「物流・運送業界の2024年問題」は、2023年に入ってメディアで多く報道されるようになりました。
しかし実は、多くの報道に対し、方々の現場から毎度「違和感しかない」「なんであんな報道をしているんだ」という声が聞こえていました。
ほとんどのメディアが、2024年問題を「宅配の問題」として報じていたからです。
結論からいうと、2024年問題に宅配はほとんど関係ありません。
輸送総量に占める宅配の比率は7%足らず
例えば、電子商取引(EC:Electronic Commerce)サイトでレトルトカレーを買うとしましょう。世間の2024年問題のイメージは「ECサイトで注文したレトルトカレーが届かなくなる」かもしれません。しかし、実態はそうではなく、本当のところは「ECサイトで注文しようとしたレトルトカレーが“作れなくなる”」なのです。
なぜ2024年問題が宅配とほとんど関係ないかをお話しましょう。
そもそも、宅配というのは物流の総輸送量でいうと、わずか7%にもなりません。
2021(令和3)年度分の国土交通省「自動車輸送統計年報」を見ると、営業トラックの輸送総量は約26億トン。そのうち宅配を含む「取合せ品」は1億8000万トンで7%。この「取合せ品」には宅配以外の業種も含まれているので、宅配が輸送総量に占める比率は7%よりはるかに少なくなります。

図1:業態別の営業用車輸送量内訳
(出所:国土交通省「自動車輸送統計年報」第59巻第13号を参考に編集部作成)
宅配と長時間労働問題はほぼ筋違い
宅配業界の構造からも2024年問題が遠いものだと分かります。
皆さんが宅配を利用する際、どこを利用するでしょうか。大手の宅配企業や郵便局ではないでしょうか。
これらは「大企業」ですので、中小企業以上に社会に対して模範的でいることが求められます。必然的に、働き方改革関連法で定められたルールを守ることが至上命題となります。
もちろん大企業も効率化を促進させるなどの努力は必要ですが、比較的資金力も人材力も、また政治力もある彼らは、新規制や新ルールを守れるのです。
しかし、規制やルールを守ると、当然ながら運べなくなる荷物が出てきます。大手は、その運べなくなった荷物を、「下」に流すのです。
その「下」の企業は、現在「個人事業主」の配達員を増やして対応しています。個人事業主は「社員」ではないので、この2024年問題はやはりほとんど関係ありません。
何より、宅配は配達時間が「朝から夜まで」とある程度、決まっているので、2024年問題の最大の改善すべき点である「長時間労働」は大きな問題になりません。
これらのことから、宅配はほとんど2024年問題に関係ない、といえるわけです。
危ういのは企業間輸送ドライバー
では、本当の当事者は誰なのか。
それは、普段の生活ではなかなか見えない「企業間輸送のトラックドライバー」です。
企業間輸送というのは、例えば化学系でいうと、原料メーカーや工場、契約倉庫の間での輸送を指します。

図2:深夜の自動車道路を走る複数のトラック
先ほどのレトルトカレーの例でいえば、カレーの製造工場にニンジンやジャガイモ、牛肉などの原材料を運んだり、その牛肉になる牛の肥料を運んだり、製造したカレーを物流センターやスーパーに運んだりするのが、企業間輸送のトラックドライバーです。
特に長距離トラックドライバーは1週間、なかには2週間、地元に帰らず運転席の後ろにある寝台で車中泊をしながら全国を走っており長時間労働になりがちです。
この長時間労働になる大きな原因になっているのが、第1回でお話した、荷主都合による「荷待ち」なのです。
繰り返しになりますが、「2024年問題」を解決するには、やはりまず顧客である荷主、特に「着荷主」が「この問題は企業間輸送の問題だ」と認識する必要があります。
しかし、毎度講演会でお話すると、いまだに「2024年問題=宅配の問題」とお考えの荷主さんが多くいらっしゃるのです。
「もうトラックを降りる」の声が次々と
現在、私のもとには60人ほどのトラックドライバーから「2024年を機にトラックを降りる」との報告がきています。
その理由はまたの機会にお話しますが、働き方改革がきっかけでドライバーが働きにくくなり、人手不足対策でより人手が足りなくなっては本末転倒もいいところです。
そうならないためにも、荷主さんにはもっと真剣に2024年問題に向き合ってもらいたいと、現場を取材して強く思うのです。
次回のテーマは「ズレ感ある国の政策パッケージ」の予定です。ご期待ください。
橋本 愛喜(Aiki Hashimoto)
フリーライター。大阪府生まれ。工場経営者、トラックドライバー、日本語教師を経てライターに。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上の工場へ配達。現在はブルーカラーの労働環境、国際文化ギャップ、ジェンダー、差別、誹謗(ひぼう)中傷などに関する社会問題を中心に執筆。メディア出演・講演なども行っている。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書、2020年)。
