ズレ感ある国の政策が現場の首を絞める【元トラックドライバーが解説! 2024年問題の真実 第3回】

2023/11/30
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好評いただいているライター橋本愛喜さんのChematels連載「元トラックドライバーが解説! 物流・運送業界の2024年問題」。第3回となる今回は、橋本さんが国の政策の数々を「ズレ感あり」とばっさり斬ります。

目次

本連載で扱う項目

規制緩和が「荷主至上主義」を招いた

物流業界が完全な「荷主至上主義」であることは、第1回「把握しない荷主、運転手の長時間労働を助長」と第2回「『宅配こそ問題』とメディアは誤解する」のお話でお分かりいただけたかと思います。

実は、荷主と運送業界とのパワーバランスがここまで顕著になったのには、あるきっかけがあります。

1990年以降に行われた「規制緩和」です。

それまでトラックドライバーという職業は、「ブルーカラーの花形」といわれていました。
⁠過酷な労働ではあるけれど、走った分だけしっかり稼げていたのです。

しかし、そうした中、国は1990年、運送事業への参入を従来の許可制から認可制にし、さらに1996年、保有しなければならない車両の最低台数を下げるなどして、運送業界への新規参入における規制を大幅に緩和しました。

これにより、それまで4万8000強だった運送事業者数は6万2000台にまで急増。ちょうど同じころにバブルがはじけ、同業同士の「荷物の奪い合い」が起きるようになりました。

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図1:トラック運送事業者数の推移。退出事業者数には、合併・譲渡により消滅した企業を含む
⁠(出所:国土交通省資料を元に編集部作成)

けれども、運送業は「労働集約型産業」のため、仕事に付加価値が付けづらい業種。それぞれの運送企業が他社と差別化する手段は、「付帯作業のサービス」や「運賃の値下げ」くらいしかありません。

これらのサービスを皆が負けじと一斉に行うようになれば、その「サービス」はやがて「暗黙のルール」へと変わっていきます。

こうして過剰な状況となったなか、荷物の奪い合いを強いられた業界は、完全な荷主至上主義になっていったわけです。

ひとたびパワーバランスが確立してしまうと、立場の弱い運送業界は自力で荷主至上主義から脱却することはできず、国の助けが必要になります。

そもそも、この荷主至上主義になった大きなきっかけが、先の「規制緩和」にあることを鑑みると、疲弊する現場のための対策を講じるのは国の責任でもあるといえるでしょう。

「2024年問題」へ、国は政策パッケージを出すものの…

しかし、その国が打ち出す対策は現場に寄り添ったものになっておらず、むしろ打ち出せば打ち出すほど現場の首を絞めてしまっている現状があります。

中でも「2024年問題」対策において、その傾向が顕著です。

それは、政府が発表した物流の2024年問題対策案である「物流革新に向けた政策パッケージ」からもよく分かります。

トラックドライバーへの「働き方改革関連法」施行に5年猶予が与えられたというのは、これまでにもお伝えした通りですが、国が初めて「2024年問題」に対する閣僚会議を開いたのは、なんと2023年の3月31日。「スピード感をもって対応するように」と言いながら、岸田文雄首相がこの政策パッケージを発表したのは、6月2日です。

「これまで4年も猶予期間があったなか、国はいままで一体何をしていたのか」
⁠「なにが『スピード感をもって』だ」

こういう声が、現場から多く聞こえてきます。

もはや遅きに失したとしかいいようがないのですが、さらにそのパッケージの中身自体も「〇〇の拡充」や「△△の促進」など、抽象的なものばかり。当事者であるトラックドライバーのためになっていないものが多く散見されるのです。

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図2:政府の「物流革新に向けた政策パッケージ」
⁠(出所:内閣官房 我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議2023年6月2日公表「『物流改革に向けた政策パッケージ』のポイント」)

「机組」の打ち出す「高速道路制限速度引き上げ」に現場は唖然

その例は枚挙にいとまがないのですが、中でも現場のトラックドライバーや運送業者を唖然とさせたのが、「高速道路の制限速度の引き上げ」です。

この「パッケージ」のなかには、大型自動車の高速道路における現行の制限速度である時速80キロを引き上げようとする案が盛り込まれています。

「何キロに引き上げる」という明言は、いまのところ避けられていますが、この案は、トラックに乗ったことのない識者たちの「速度を上げて早く目的地に到着すれば、ドライバーも家に今までより早く帰れる」という発想によるものなのでしょう。

ところが、当事者であるトラックドライバーにとって、速度を今以上に引き上げることは、それだけ集中力を要すことになるため、大きな負担になるのです。

言わずもがな、速度を上げれば交通事故のリスクも上がるのですが、それだけでなく、荷台に積んである荷物が荷崩れを起こしやすくなることも見逃せません。荷物に傷がつけば、トラックドライバーが責任を取らされたり、弁償させられたりするケースも往々にしてあるのです。

運送企業がたとえ「わが社はドライバーの安全のために時速80キロを社速とする」と定めても、国が制限速度を引き上げたことによって、荷主から「国がいいと言ってるんだから、速度を上げて早く運んで来い」と指示される可能性も生じます。

さらに、速度を上げることで燃費が非常に悪くなることも忘れてはなりません。近ごろ続いている異常なほどの燃料費高騰は運送側にとって大きな経済的負担となるものですが、増えた負担をケアしてくれる荷主は果たしてどれくらいいるでしょうか。

お気付きのように、この制限速度の引き上げも「規制緩和」です。

国はこれまでこの「規制」を、ドライバーや現場、ひいては業界のためにやってきたはずなのですが、都合よく緩めたり厳しくしたりできる規制に、いったい何の意味があるのでしょうか。

働き方改革は、当然トラックドライバーの労働環境のために行われるもののはずですが、結果的に国は「ドライバー」ではなく「荷物」の心配しかしていないというのが現状なのです。

現場を知らない、トラックに乗ったことがない「机組」の法政策によって現場が疲弊している現状を、荷主の方々、それに広く皆さんにも、ぜひ知っておいていただけたらと思います。

参考文献
⁠1. 全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業 現状と課題 2023」
⁠ https://jta.or.jp/wp-content/themes/jta_theme/pdf/yusosangyo2023.pdf

2. 内閣官房 我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議2023年6月2日公表「『物流改革に向けた政策パッケージ』のポイント」
⁠ https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/buturyu_kakushin/pdf/seisaku_package.pdf

橋本 愛喜(Aiki Hashimoto)

フリーライター。大阪府生まれ。工場経営者、トラックドライバー、日本語教師を経てライターに。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上の工場へ配達。現在はブルーカラーの労働環境、国際文化ギャップ、ジェンダー、差別、誹謗(ひぼう)中傷などに関する社会問題を中心に執筆。メディア出演・講演なども行っている。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書、2020年)。