問題解決と豊かさ求める限り「香りの貢献」は続く【専門家が解説!香料の基礎知識 第5回】

2023/10/12
Image

目次

本連載で扱う項目

  1. 香料とは
  2. 調香師
  3. 香料会社
  4. 香料の歴史
  5. 香料産業の現状と将来

Chematelsの連載「専門家が解説!香料の基礎知識」の最終回をお届けします。テーマは「香料産業の現状と将来」。香料メーカーで長らく研究開発・企業戦略・海外市場開拓など香料全般に関わってきた藤田豊さんが香料業界のこれからを展望します。

薬酒問屋から芳香原料商、現在の香料会社へ

前回の香料の歴史をテーマとした第4回「香りの歴史たどり畑から工場へ」で、塩野香料の創業が1808(文化5)年、小川香料の創業が1893(明治26)年であると示しました。

少し詳しく説明すると、江戸時代からあった薬種問屋が明治期に、現在の製薬会社につながる薬種商と、現在の香料会社につながる芳香原料商に分かれていきます。塩野屋吉兵衛商店が和漢薬真珠などの薬種問屋として1808年に創業し、1908年(明治41年)に主業を芳香原料商に転じます。その間、1878年(明治11年)に、分家として薬種問屋塩野義三郎商店が設立され、それが現在の塩野義製薬です。

一方、芳香原料商小川商店は、1893年(明治26年)創業ですが、こちらは1781年(天明元年)創業の武田長兵衛商店(現・武田薬品工業)からの暖簾分けによるものです。

国内市場規模2000億円、多品種少量生産の香料業界

香料の国内生産額は、日本香料工業会のデータによると2022年では1992億6600万円であり、おおよそ2000億円といえます。また世界市場規模は、正確な統計数字が見当たらないものの、だいたい300億ドル前後であろうといわれています。

香料は基本的には受注生産の製品であり、典型的な多品種少量生産が業界の特徴です。しかも市場規模が小さく原料数が多いことから参入障壁が高く、安定した業界であるといえます。

しかしながら、柔軟剤の匂いが強すぎると「香害」が騒がれたのは最近のことですし、無添加表示商品の一つとして無香料表示商品の存在も目立ってきています。

香料は、なくてもよいのでしょうか。香料業界はこれからも企業間取引を主とする業界として生き残っていけるのでしょうか。

香料を含む食品添加物の誤解をただす

フレーバーともよばれる食品香料は、食品添加物の一つです。食品添加物は、消泡剤や水素イオン指数(pH:potential of Hydrogen)調整剤のように食品製造時に必要だったり、保存料や酸化防止剤のように品質保持に必要だったりします。それだけでなく、凝固剤や膨張剤のように食品に食感を持たせる、香料や酸味料などのように風味をよくする、着色料、漂白剤などのように見た目のおいしさを演出するといったさまざまな役割があります。いずれも食品製造には欠かせないものです。

ところが、消費者庁が2017年に行ったアンケート調査では、図1のとおり、過半数の消費者が「無添加」表示食品を好んでいるという結果になりました。

Image

図1:「無添加」志向の根強い消費者
⁠(出所:消費者庁「平成29年度食品表示に関する消費者意識調査報告書」を元に編集部作成)

さらに、その理由を尋ねると、図2のとおり、「安全で健康に良い」と感じている人が圧倒的に多かったようです。

Image

図2:「安全で健康に良さそう」だから「無添加」選ぶ
⁠(出所:消費者庁「平成29年度食品表示に関する消費者意識調査報告書」を元に編集部作成)

そこで、消費者庁は2021年3月に「食品添加物表示制度に関するガイドライン検討会」を立ち上げ、表示すべき事項の内容と矛盾し、内容物を誤認させるような「無添加」などの表示をなくすために、ガイドラインを策定することにしました。そして2022年3月、「添加物不使用表示ガイドライン」が策定され、移行期限の2024年3月末までに、任意表示の自主点検や見直しが求められている状況です。

「食品添加物は危険」という誤解から生まれる悪循環を断ち切ることにつながるガイドラインとなるか、注目です。

Image

図3:「食品添加物=危険」という誤解が悪循環を生む

地球と人間の諸問題を香料が解決する

現代社会が抱える最大の問題は、地球人口増に伴う食料・エネルギー問題と、二酸化炭素排出による地球温暖化問題ですが、両者を同時に解決することはなかなか大変です。人口増に対応して食料を増産しようとすれば農地を確保しなければならず、それは多くの場合、森林破壊を伴うからです。

その解決策として、人口肉の製造などの「農業の工業化」が考えられています。人工肉は「植物肉」と「培養肉」に大別されますが、少なくとも植物肉の加工には、香料・調味料・色素などの食品添加物が必要です。

また、最近は香料会社で機能性香料として、塩分あるいは糖分を控えても美味しさを感じるフレーバーが開発されています。人々が抱える健康問題の解決に香料が寄与する例といえます。

ヒトはただ生きているのではなく、社会的・文化的な動物として生きています。文化的な生活を享受するために、香料はこれからも必要とされるに違いありません。

「専門家が解説!香料の基礎知識」は今回が最終回です。ご愛読ありがとうございました。

藤田 豊(Yutaka Fujita)

1955年生まれ。大阪大学理学部高分子学科卒業。小川香料(株)にて、研究開発部で香料開発に従事した後、本社企画室社で社内の研究開発体制を刷新し、さらに国際部や海外駐在で同社の海外事情展開に携わる。2020年、定年退職後、香料や食品添加物についての講演会、学習会などで活動中。