広辞苑にも載っていない香料の役割あり【専門家が解説!香料の基礎知識 第1回】

2023/08/08
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目次

本連載で扱う項目

  1. 香料とは
  2. 調香師
  3. 香料会社
  4. 香料の歴史
  5. 香料産業の現状と将来

Chematelsの新連載「専門家が解説!香料の基礎知識」をお届けします。香料メーカーで長らく研究開発・企業戦略・海外市場開拓など香料全般に関わってきた藤田豊さんが、香りのプロフェッショナルだったから語れる香料の話をお届けします。第1回は、芳香を添えるためだけに限らない香料の役割について解説します。

歌や小説にも出てくる「香り・匂いの記憶」

百人一首の歌に、紀貫之が詠んだ「人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける」があります。ずいぶん昔に高校で「花といえば桜のこと」と教えられましたが、この歌での花は梅でしょう。人の心は分からないものだが梅の花の香りは昔のままだと、昔を振り返った一句です。

このように香り・匂いには、私たちを瞬時に過去に引き戻す作用があります。古今和歌集、それに『伊勢物語』でも歌われている、よみ人知らずの「五月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする」は、まさにそのような効果を詠んだ歌です。この効果は「プルースト効果」と呼ばれます。フランスの作家、マルセル・プルーストの長編小説『失われた時を求めて』の中に「語り手が紅茶の中に混ざっていた一片のマドレーヌをスプーンですくったのがきっかけとなり、幼少期に家族で過ごした田舎町の記憶が鮮やかに蘇ってくる」場面があることから、名付けられました。

匂いを感じて、避けることも、寄ることも

ヒトは情報の多くを視覚と聴覚から得ているといわれます。だからこそ、オンラインでの会議が成立するわけです。では、ヒトにとって、嗅覚はそれほど大事ではないのでしょうか。散歩しているときに、バラやキンモクセイの香りを感じて、どこから漂ってくるのだろうかと辺りに目を向けることがあります。うなぎ屋さんの前を通れば、つい食欲をそそられます。

匂いの効能は、それだけではありません。傷んだ食べ物を識別する効能があります。口に入れてからではもう遅いのであって、その前に腐敗臭を感じ遠ざけなければなりません。匂いがその手掛かりとなります。例えば、メタンを主成分とする都市ガスや、プロパンなどを主成分とするプロパンガスは本来無臭ですが、ガス漏れを気づかせるため、わざわざ悪臭を付けています。嗅覚では、もともとは危険を察知する感覚としての作用が重要だったと思われます。

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図1:都市ガス(右)とLPガスの(左)のタンク

生物界全体に目をやると、花は甘い香りを放って昆虫を呼び寄せ、受粉を手伝ってもらっており、香りを種の保存に活用しています。また多くの動物では、フェロモンの作用で雌雄が引き寄せられます。おそらくヒトの体臭にもそのような効果は残っているはずであり、香水はそれを補強する道具といえるかもしれません。

香水は、香料をエタノールで希釈したものです。香料は、人為的に商品に匂いを付与するための工業製品であり、現代社会では、数多くの商品に使われています。香料は、食品や飲料に使われるフレーバーと、化粧品や日用雑貨品に使われるフレグランス、とに大別することができます。前者は口に入れる商品に使われる香料であり、後者はそれ以外の商品に使われる香料ということになります。

『広辞苑』での「香料」、「芳香をそえる」だけでは不十分

ここまで、「香り」と「匂い」という二つの言葉を使ってきたので、意味を整理しておきます。

「香り」は、良いイメージの場合に使われ、「匂い」は中立な場合に使われることが多くあります。

「におい」には「匂い」「臭い」の二つの漢字があり、「臭い」は悪いイメージの場合に、また「匂い」は中立的な場合に使われます。最近は中立的な場合に「におい」とひらがな表記されることも多くありますが、本連載では「匂い」を用います。

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図2:瓶詰めされた香料

「香料」を『広辞苑』で調べると、「食料品・化粧品などに芳香をそえるために加える物質。」と出てきますが、香料の使用目的は、「芳香をそえるため」だけでなく、先ほどガス付臭剤の話で説明したように「危険を知らせるため」もあります。

香料の定義としては「食料品・化粧品・日用雑貨品などに匂いを付けるために加える物質」としたほうが、より正確になります。

次回のテーマは「調香師」の予定です。

藤田 豊(Yutaka Fujita)

1955年生まれ。大阪大学理学部高分子学科卒業。小川香料(株)にて、研究開発部で香料開発に従事した後、本社企画室社で社内の研究開発体制を刷新し、さらに国際部や海外駐在で同社の海外事情展開に携わる。2020年、定年退職後、香料や食品添加物についての講演会、学習会などで活動中。