香りを創る「調香師」は技も感性も磨く【専門家が解説!香料の基礎知識 第2回】

2023/08/24
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目次

本連載で扱う項目

  1. 香料とは
  2. 調香師
  3. 香料会社
  4. 香料の歴史
  5. 香料産業の現状と将来

Chematelsの連載「専門家が解説!香料の基礎知識」。香料メーカーで長らく研究開発・企業戦略・海外市場開拓など香料全般に関わってきた藤田豊さんが、香料の話をお届けしています。今回は、香料の専門職「調香師」について解説します。

匂いそのものの表現は多くない

「今朝、散歩中にクチナシの花の香りを感じたよ。近所の庭に植えられていて、毎年この季節になると感じるなあ」とか「駅前に新しくできたカレーショップの店の匂いがたまらないねえ、今度一緒に行こうよ」といった類の会話を耳にすることがあります。でも、これを聞いた人が、「クチナシの花の香り」や「カレーの匂い」を知らなければ、どんな匂いなのか見当がつかないでしょう。発生源の物の名前を言わずに、匂いを表現するのは意外に難しいものです。

そもそも匂いそのものを表現する言葉は、「香ばしい、芳しい、臭い」くらいで数が少ないのです。多くの場合、「オレンジの香り」や「青草の匂い」のように、誰でも知っていそうな物の名前で表現します。あるいは、「甘い」「苦い」など味覚表現や、「青臭い」「明るい」など視覚表現から借用します。

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表1:匂いについての表現

このように、匂いを他人に分かるように説明するのは難しく、また逆に言葉で表現された匂いのイメージが皆に同じ匂いとして共有されているかは、はなはだ疑問です。その難しい匂いのイメージを具現化しているのが、「調香師」と呼ばれる匂いづくりのスペシャリストです。

依頼者の「こんな香り」をトライ・アンド・エラーで叶える

調香師は、例えば、化粧品メーカーからの「長く待ちわびていた春がやってきた、その時に感じる新たな希望や喜びを表わす軽快な香りの香水を創りたい」といった依頼に対して、それに合った香料を創らなければなりません。そのため、社内で、また顧客との間で、何度もトライ・アンド・エラーを繰り返すことになります。

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図1:香料開発のトライ・アンド・エラー

日本語ではフレーバーを創る人もフレグランスを創る人も「調香師」と呼ばれますが、英語では「フレーバリスト(Flavorist)」と「パーヒューマー(Perfumer)」とに区別されます。これは、日本語の「香料」が、英語では、食品香料の「フレーバー(Flavor)」と、香粧品香料の「フレグランス(Fragrance)」とに区別されることに対応しています。香料会社の名前は、日本語では「〇〇香料株式会社」が多く、英語では「〇〇 Flavor & Fragrance Inc.」が多く見られます。

技術者であり芸術家でもある

化学の世界では、研究だけでなく工業でも、物質を細かく分けることが多くあります。石油化学工業では、原油を分留してガソリン、灯油、軽油、重油などに分けています。

ところが、香料産業では、まったく逆です。天然香料や合成香料などのさまざまな原料を、数十から数百種、混ぜて調合香料、いわゆる香料を創っているのです。その観点からすると、調香師は技術者であると同時に芸術家であるといえますし、香料産業は化学と芸術が融合した業界であるといえます。

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図2:香水(香料)の構成

香料会社で調香師を目指す人は、まず基本的な天然香料や合成香料といった原料の匂いを数百種類にわたり覚えることから始めます。香料会社で使用している原料の数は数千種類に上りますが、まずは骨格として大事な原料を覚え、その特徴をどのように表現するかも併せて学びます。

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図3:天然香料の原料植物

さらに次の段階では、基本骨格となる香料の組み合わせを覚えなくてはなりません。この訓練を数年間にわたり受けると、新たな匂いを嗅いだとき、だいたいどんな匂いの組み合わせなのかが分かるようになります。そして、そこから先は、調香師の感性がモノをいう世界ということになるのです。

次回のテーマは「香料会社」の予定です。

藤田 豊(Yutaka Fujita)

1955年生まれ。大阪大学理学部高分子学科卒業。小川香料(株)にて、研究開発部で香料開発に従事した後、本社企画室社で社内の研究開発体制を刷新し、さらに国際部や海外駐在で同社の海外事情展開に携わる。2020年、定年退職後、香料や食品添加物についての講演会、学習会などで活動中。