企業の総合力で勝負する香り開発【専門家が解説!香料の基礎知識 第3回】

2023/09/07
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目次

本連載で扱う項目

  1. 香料とは
  2. 調香師
  3. 香料会社
  4. 香料の歴史
  5. 香料産業の現状と将来

Chematelsの連載「専門家が解説!香料の基礎知識」をお届けします。香料メーカーで長らく研究開発・企業戦略・海外市場開拓など香料全般に関わってきた藤田豊さんが、香料の話をお届けしています。今回のテーマは「香料会社」。香料開発に携わる社員は、前回「香りを創る『調香師』は技も感性も磨く」で取り上げた調香師のほかにもいます。

化粧品用にも食品用にも求められる創造性

第1回「広辞苑にも載っていない香料の役割あり」で、フレーバーとフレグランスの区別の話をしました。フレーバーが使われている商品には、炭酸飲料や缶コーヒーなどの飲料、チューインガムやクッキーなどの菓子、アイスクリームなどの冷菓、カニ風味蒲鉾やシチューなどの加工食品などがあります。また、フレグランスが使われているのは、香水・化粧品・石鹸・シャンプー・コンディショナー・入浴剤・洗剤・柔軟剤・芳香剤・線香などの商品です。

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図1:香料生産のプロセス
⁠(出所:日本香料工業会ホームページを参考に編集部作成)

フレーバーとフレグランスとを比べると、フレグランスのほうが創造的なものが多くあります。その理由として、フレグランスは化粧品や日用雑貨品の製品イメージを高める目的で使われることが多いのに対し、フレーバーは加工食品の製造工程での加熱や殺菌過程で失われた香りを補うために食品本来の香りの再現を追求することが多いからということを挙げられます。

とはいえ、フレーバーでも創造的な匂いがないわけではありません。例えば、コーラはさまざまなフルーツやスパイスをミックスした風味となっていますし、栄養ドリンクはトロピカルフルーツのミックス風味です。食習慣はかなり保守的なので、日本にコーラが入ってきた当初は薬臭いと敬遠されたといいます。

人間の鼻を頼りに測定する「ハナクロ」も

第2回「香りを創る『調香師』は技も感性も磨く」で、匂いを創っているのは調香師だという話をしましたが、正確にいうと匂いを創っているのは香料会社です。現在の調香は、もはや調香師ひとりでできるものではなくなっています。

天然物などの匂い成分とその割合を調べているのは、現在では分析技術者です。ガスクロマトグラフィー(ガスクロ)や質量分析計(マススペクトロメーター)といった装置を駆使して微量成分まで調べ上げています。調香師が自らの鼻を頼りに内容成分を推測することを、ガスクロをもじって、「ハナクロ」といったりします。分析能力では、ハナクロはガスクロにまったく太刀打ちできませんが、調香師には、匂いを嗅いだときにその成分や割合をある程度想像できる能力が必要です。

日本のシャンプーやコンディショナーなどのヘアケア製品の香調は、フローラル系やグリーン系や明るく爽やかな香りが好まれ、甘く濃厚な香りはあまり好まれません。しかしながら、その中でも時代の流行があって、世界で流行したその系統の香水の香りをアレンジしたものが多くあります。そうした香りを実現するためには、常に香りの流行を追って調査している必要があります。

関係社員全体で調香師の役割を担う

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図2:チーム全体で調香師

この調査は調香師一人一人が行うのではなく、香料会社内の開発研究部門の中で専門としている研究開発者が行うものです。分析などから面白そうな未知物質が見つかれば、合成研究者が実際に合成してみることもあります。

できあがった香料の匂いの評価は、香料だけの匂いでは判断できません。実際に使用される商品を作り、食べたり使ったりして初めてその効果が分かります。そのため、香料会社では最終商品を試作し、評価する機能・設備も備わっています。実際にアイスクリームや石鹸を試作し、食したり、身体を洗ったりして評価するのです。

こうして目的に合った香料に仕上がっているかどうかを判定しています。さらに、このようにして創作した香料を顧客に対してどのように紹介するかといった見せ方も重要です。開発の最終段階では、社内での試行錯誤の過程と世の中のトレンドをうまく組み合わせ、プレゼンテーションに結びつけることが大事な業務でとなります。

いまや、香料会社での開発に関わる人たち全体で調香師の役割を担うような状況になってきています。

次回のテーマは「香料の歴史」の予定です。

藤田 豊(Yutaka Fujita)

1955年生まれ。大阪大学理学部高分子学科卒業。小川香料(株)にて、研究開発部で香料開発に従事した後、本社企画室社で社内の研究開発体制を刷新し、さらに国際部や海外駐在で同社の海外事情展開に携わる。2020年、定年退職後、香料や食品添加物についての講演会、学習会などで活動中。