MIで材料開発のスピードが飛躍的に向上【AIでサクサク!製造業の課題解決 第5回】
2023/05/25
Chematelsの連載「AIでサクサク!製造業の課題解決」の最終回をお届けします。研究開発の分野では「マテリアルズ・インフォマティクス」(MI:Materials Informatics)の活用が進んでいます。MIとは、機械学習をはじめとする人工知能(AI:Artificial Intelligence)を活用して材料開発を行うこと。MIを取り入れれば、製造業の要とも言える材料開発のスピードを飛躍的に向上できます。
連載の目次
機械学習で探索範囲外の組成を発見
ここでは物質・材料研究機構と東京大学の共同研究グループによるMIの事例を紹介します。
研究グループは機械学習を用いて、熱電材料の出力性能を従来比で40%も向上させることに成功しました。温度差を利用して熱を電気に変換する熱電材料は、IoT(Internet of Things)デバイスの自立電源として有用であり、普及が期待されている材料です。
これまでの熱電材料は希少な元素や毒性のある元素が含まれていたり、使用できる温度帯が狭かったりといった欠点がありました。物質・材料研究機構の研究者は、アルミニウム、鉄、シリコンという汎用元素のみの熱電材料をすでに開発しています。

図1:機械学習を用いた材料開発。プロセス(左)と、中温域での出力因子を40%程度向上させた事例(右)
(画像提供:国立研究開発法人物質・材料研究機構)
今回の同研究グループは、従来の材料より広範囲の温度帯で使用できる新たな組成を発見しました。そのために活用したのが機械学習です。組成、出力性能、温度を学習させた機械学習により、従来の実験では範囲外だった組成の探索を行い、発見に至ったそうです。
同研究グループは、「本成果により、熱電材料の開発における機械学習の有用性が明らかになったことで、今後は実験のみでは探索が困難な、より複雑な組成を有する新規材料の発見にも期待がもたれます」と評価しています。
MIが研究開発プロセスを変える
MIには材料開発プロセスを高速化したり、大量で複雑なデータを分かりやすく可視化したりという効果が期待できます。
企業の材料開発者は、目的とする材料の機能や特性を叶えるには、どのような構造・組成にするとよいかを探究することが多くあります。
例えば、蓄電池の材料を開発する場合、「大容量化したい」「寿命を長くしたい」などの目的があります。その目的を達成するために、企業の開発者は材料の構造・組成を考えていくのが一般的です。
しかし、実験にはさまざまな条件が考えられ、数多くある実験条件の中から最適なものを選び出すのは骨が折れる作業です。この「材料作成 → 材料特性評価 → 人間による考察」というプロセスに、機械学習を導入してみるとどうなるでしょか。
機械学習は、人間が行っていた考察を数学的に代替します。統計学と異なり、与えられたデータを学習し、予測をするために使われる手法が機械学習です。人間が評価結果から次の実験条件を出していましたが、機械学習が自動的に次に挑戦する条件を決定してくれるのです。
工業素材は日本の輸出産業の要です。世界的に、データを活用した研究開発によりイノベーションが生まれている中、日本も世界シェアを維持するために材料の革新が欠かせません。この点が、材料革新のスピード向上をもたらすMIに注目の集まる理由でもあります。
「AIでサクサク!製造業の課題解決」は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
堀内 孝浩(ほりうちたかひろ)
ライター 大学卒業後、食品メーカーにて工程管理、設備管理、製造オペレーターなどを経験。現在は製造業の分野を中心にライターとして活動しており、「文系でも分かりやすい」をモットーに製造業の魅力を伝えている。
