技能継承に悩む企業を新たな技術が救う【AIでサクサク!製造業の課題解決 第2回】
2023/04/11製造業の課題解決を促進できるよう、人工知能(AI:Artificial Intelligence)の活用事例を紹介するChematelsの本連載「AIでサクサク!製造業の課題解決」。第2回のテーマは「技能継承」です。ベテラン社員の技術を若年層に継承することに多くの企業は課題を抱えていますが、AIがどう変革するかを見ていきます。
連載の目次
- 第1回 深層学習の「画像認識能力」で品質が向上
- 第2回 技能継承に悩む企業を新たな技術が救う
- 第3回 革新的! 工程の熟知が必要だった生産計画を自動化
- 第4回 設備保全、時代は「定期」から「予知」へ
- 第5回 MIで材料開発のスピードが飛躍的に向上
若手人材の確保に苦戦
製造業で、若い世代の人材確保がうまくいっていないのをご存知でしょうか。
経済産業省・厚生労働省・文部科学省が出している『2022年版ものづくり白書』によれば、34歳以下の就業者数は2021年までの約20年間で121万人も減少しており、製造業全体の25.2%しかいません。新規学卒者の割合もここ数年は低下傾向にあります。
図1:34歳以下と65歳以上の就業者の推移(製造業)。2011年は東日本大震災の影響により集計結果が存在しない
経産省・厚労省・文科省『2022年版ものづくり白書』をもとに筆者作成
その一方で増加しているのは65歳以上の社員です。2002年は4.7%の割合でしたが、その後は上昇傾向にあり2021年は8.7%となっています。製造業では高齢化が進み、若い世代が減り続けているという現状が浮かび上がってきます。
若年者の採用がうまくいかず定着もしないとなれば、「ベテラン社員の技術をいかに後世にわたり会社に遺していくか」が至上命題となります。
技能継承のカギとなるAI
工場での日々の業務は熟練の経験や技術によって支えられています。特に化学プラントでのオペレーションは複雑です。何百、何千というセンサーから得られたデータを元に温度や圧力、流量などを細かに調整しなければなりません。必然的にベテラン社員でないと遂行できない仕事でした。しかし、ベテラン社員もいつかは引退するので若年者の人材確保も必要です。技術をどう継承するかに課題がありました。
その状況を一変させようとしているのが、AIの導入です。2021年にENEOSとPreferred Networks(PFN)が、AIを用いて石油化学プラントのブタジエン抽出装置を2日間にわたり自動運転させることに成功しました*1。また、2022年には横河電機とJSRが世界で初めて化学プラントを35日間にわたり自律制御させることに成功したと発表*2しており、プラントではAIが積極的に活用されています。
AIの導入による効果は人手不足の解消や安全性の向上だけではありません。AIシステムに日々の業務を落とし込む過程で、長年の経験と勘を形式知化できるため、技能継承が円滑に進むこともあるのです。
AIによりノウハウを円滑に伝える
AIが技能継承に役立っている事例として、千代田化工建設の「油種切替AIシステム」があります。
このシステムは原油油種の切り替え時に、温度、圧力、流量、液面などの重要因子を予測しつづけ、反応などの最適化を担う「最適化AI」が多くの組み合わせの中から最も良いパラメータを提示するものです。
導入の過程では油種切替時における「優れた運転」を明確に数値化し、作業の標準化につなげています。また、ベテラン社員の運転操作をAIが評価することで若手社員との比較を定量的に分析することができ、ノウハウを伝えるのに役立ちます。
図2:切替運転の評価
(出展:千代田化工建設)
若手社員に円滑にノウハウを継承するには、熟練技術者の技術を“見える化”することも大切です。AIシステムの導入がその一助となるでしょう。
第3回は「革新的! 工程の熟知が必要だった生産計画を自動化」の予定です。ご期待ください。
【参考文献】
*1
Preferred Networks 2021年12月2日発表「国内初、AI技術による石油化学プラント自動運転に成功」より
*2
JSR 2022年03月22日発表「世界初 AIによる自律制御で化学プラントを35日間連続制御」より
堀内 孝浩(ほりうちたかひろ)
ライター 大学卒業後、食品メーカーにて工程管理、設備管理、製造オペレーターなどを経験。現在は製造業の分野を中心にライターとして活動しており、「文系でも分かりやすい」をモットーに製造業の魅力を伝えている。
