全固体電池への期待も―電気自動車と電池の将来【時代を支える電池の基礎知識 第5回】
2022/09/01
連載の目次
- 第1回 電池の歴史と市場
- 第2回 電池の基本、1次電池
- 第3回 自動車を支える2次電池
- 第4回 リチウムイオン2次電池
- 第5回 電気自動車と電池の将来
電気自動車(EV:Electric Vehicle)は電池を駆動源とした自動車です。これまで、内燃機関の補完動力として電池を用いるハイブリッド車(HV:Hybrid Vehicle)が普及していましたが、電気力のみで走行するEVが急速に広まっています。ここでは、EVの現状に触れるとともに、電池の将来について述べてみます。
中国が電気自動車大国に、日本での伸びは小さい
電気自動車が市場に登場したのは2000年代の後半です。米国テスラ社が「モデルS」を市場に登場させ、日本でも三菱自動車、それに日産自動車が続きました。
世界の状況としては2015年、中国が産業中期戦略「中国製造2025」を発表し、電気自動車を中心とした新エネルギー車を国家産業競争力の核心的利益として育てていく方針を打ち出しました。その結果、2017年に中国市場での電気自動車販売台数は約58万台となり、世界の4割を占める状況となりました。
また2017年、米国カリフォルニア州が、無公害車(ZEV:Zero Emission Vehicle)を一定比率以上販売することを義務づける「ZEV規制」を制定し、2045年までに内燃機関による自動車の販売禁止を打ち出しました。
2021年には世界の電気自動車販売台数は600万台を超え、全世界の自動車販売台数の約10%を占めています。なかでも、中国での販売台数の伸びは大きく、200万台を上回っています。
日本でも電気自動車は浸透してきてはいますが、米国や中国とは少し違った動きを示しています。図1に日本における販売台数の推移を、他の次世代自動車と比較して示します。電気自動車は普及してきているものの、伸びが他国に比べて小さいことが分かります。日本では走行距離や充電時間が重視されており、ハイブリッド車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)に対する電気自動車の優位性が認知されていないことが理由と考えられます。

図1:国内の次世代自動車の販売台数推移。ハイブリッド車の目盛りは他車種の10倍である点に注意
(出所:日本自動車工業会ホームページ「次世代自動車・工場CO2排出」を元に編集部作成)
市販車1kWhでの走行距離は約6km
電気自動車の特徴を普通乗用車と比較すると、以下のようにまとめることができます。
長所
- 二酸化炭素を排出しないので環境に優しい
- ランニングコストが安い
- 災害時に蓄電池として活用できる
短所
- 販売価格が比較的高い
- 充電に時間がかかる
- 走行継続距離が比較的短い
電気自動車に求められる特性について、市販の日産自動車「リーフ」を取り上げ説明します。図2にリーフの説明資料を基にEV用リチウムイオン2次電池の性能をまとめました。

図2:電気自動車用リチウムイオン2次電池の性能例
(出所:日産自動車ホームページ「日産リーフ」航続距離・バッテリーの情報を参考に作成)
リーフには2種類の機種があり、長距離走行用で電池容量が60kWh、走行距離は国際調和排出ガス・燃費試験法(WLTC:Worldwide harmonized Light duty driving Test Cycle)モードで450kmの「e+タイプ」か、短距離走行用で電池容量が40kWh、走行距離322kmの「Gタイプ」を選択できます。なお、WLTCモードとは国際的な走行モードのことで、市街地、郊外、高速道路の走行に当たり、時間配分を一定に揃えた走行を意味しています。
このデータによれば、e+タイプでは1kmの走行に要する電力として161Whが必要となり、1kWhでの走行距離は約6kmとなります。また、充電時間については、急速充電では約60分、普通充電では約24.5時間を要します。
電気自動車用リチウムイオン電池では安全性などを重視
電気自動車に用いられる電池材料は、汎用のリチウムイオン2次電池と大きく変わりませんが、安全性と出力密度とコストが重視されています。
正極についてはニッケル・マンガン・コバルト(NMC:Nickel-Manganese-Cobalt)3元系とリン酸鉄(LFP:LiFePO4)系が主に使われています。NMC系はこれら3つの元素のうちニッケルの比率を50%以上に増やしたもので、高価格であるコバルト材料費の低減を図っています。また、LFP系は、起電力自体は大きくありませんが、発火危険性の少ない安全性を高めた材料です。
負極材は大半が黒鉛材料(グラファイト)ですが、一部では低結晶性のハードカーボンも用いられています。
待望される全固体電池の実用化と普及
脱炭素の潮流の中で、電気自動車の重要性はますます高まっています。現在の電気自動車に使われているリチウムイオン2次電池は、走行距離や充電時間などの点で基本的な課題を抱えています。当面はこれらの課題解決が中心となりますが、将来的には既存の概念を超える電池の開発が求められています。その有力な候補といえるのが、全固体電池です。
全固体電池は、リチウムイオン2次電池の基本原理を活用した進化技術と考えられます。リチウムイオン2次電池で用いる有機電解液に代わって、固体電解質を用いることを特徴にしています。全固体電池の基本構造を図3に示します。

図3:全固体電池の概念
陽極と陰極にはリチウムイオン2次電池と同様、リチウムイオンを吸蔵できる電極活物質が用いられますが、電解質には無機個体電解質を用います。無機電解質は不燃性ですので、本質的に安全性が確保されています。さらに、高出力の電極材料を用いることにより、急速充電が可能な電気自動車を実現できる可能性があります。
現在、全固体電池は研究開発段階にありますが、すでに硫化物系電解質が優れたイオン伝導性を示すことが報告されています。この電解質はリチウム・ゲルマニウム・リン・硫化物(LGPS:Li10GeP2S12)からなり、イオン導電率が従来のリチウムイオン2次電池で用いられる有機電解質よりも高いレベルにあります。
さらに、可塑性があるので、プレス操作で粒子同士を接合することが可能です。この特性を利用すると、電池の基本要素である正極・負極、固体電解質をプレス操作で一体成型できる可能性があります。
しかし、全固体電池の実用化にはまだまだ多くの課題が残されています。例えば、高性能で安全性の高い固体電解質の開発や、電極層と電解質との接合技術などが挙げられます。
自動車メーカーは近い将来に電気自動車の本格的な普及が到来することを想定して開発を進めていますので、電気自動車を支える電池についても画期的な技術が登場すると信じています。
「時代を支える電池の基礎知識」は今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。
参考文献
- 関勝男『スッキリ! がってん! 二次電池の本』(2015年、電気書院刊)
- 日本自動車工業会ホームページ「次世代自動車・工場CO2排出」
https://www.jama.or.jp/operation/ecology/next_gen_vehicle/index.html - 日産リーフ主要諸元(日産自動車)
- 池谷知彦 「燃えない電池、全固体電池に期待」(電気新聞2020年7月13日)
中尾 眞(Makoto Nakao)/ SCE・Net
1948年生まれ。東京大学大学院化学工学修了。旭硝子(株)にて研究開発部、化学品営業部などに在籍し、イオン交換膜法食塩電解技術関連の開発・営業およびPEM燃料電池開発に従事。2006年より(公社)化学工学会SCE・Netの活動に参加し、現在代表幹事を務める。
