鉛もニッケル水素も健在―自動車を支える2次電池【時代を支える電池の基礎知識 第3回】

2022/08/04
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連載の目次

Chematelsの連載「時代を支える電池の基礎知識」。第3回は2次電池、特に自動車に用いられる2次電池を中心に解説します。

充電で繰り返し使える2次電池

2次電池の特徴は、充電により繰り返し使えることです。図1に示すように、1次電池は電極の化学反応を利用して電気を取り出す放電のしくみを持っていますが、この操作を行なうと電極は元の状態には戻りません。一方、2次電池は放電の後、電極に逆向きの電流を与えることで、電極を元の状態に戻すことができ、必要なときに電気を取り出すことができます

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図1:2次電池のしくみと動作

現在も自動車用に使われている鉛蓄電池

最初に工業的に実用化された2次電池は、鉛蓄電池です。現在も自動車用バッテリーとして利用されています。図2に示すとおり、鉛蓄電池の構造は負極に鉛、正極に二酸化鉛を用いたものであり、電解液には希硫酸が使用されます。放電時には、正極側で二酸化鉛が硫酸鉛に変化し、負極側では鉛が硫酸鉛に変化します。

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図2:鉛蓄電池の構造と放電反応
⁠(出所:左図 電池工業会ホームページより引用、右図 『スッキリ!がってん! 二次電池の本』を参照)

放電時の反応を以下に示します。

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放電を続けると硫酸が消費されますので、濃度が低下します。充電時には、逆の化学反応が起こり、正極では二酸化鉛、また負極では鉛が生成し、元の状態に戻ります。

鉛電池の構造は、図2に示すように、電槽という樹脂製の箱の中に正極板と負極板が交互に配置され、その間にセパレータが設けられショートを防いでいます。一つの電槽には6対の電極板が取り付けられており、2Vの電圧を持つ6個の単電池が直列に接続されていますので、電槽1個では12Vの出力が得られます。

制御弁式鉛蓄電池の開発で液漏れ問題が解決される

初期の鉛畜電池では、自動車の振動などにより電解液の洩れが発生したり、充電時に電解液が減少したりする問題がありました。そのため、電解液の補充が必要でしたが、密閉型の制御弁式鉛蓄電池が開発され、問題が解決されました。

1980年代半ばに開発されたこの密閉型電池では、セパレータがガラス繊維でできており、液漏れの心配がありません。また、充電時に発生するガスを電池内部で消費するしくみを備えていますので、液の補充も不要となりました。

さらに、内圧上昇を回避するための制御弁が設けられていますので、より安全な設計となっています。

電池容量が大きく、急速充電が可能なニッケル水素電池

ニッケル水素電池は1990年に商品化された電池で、正極に水酸化ニッケル、負極に水素吸蔵合金を用いたアルカリ電解液型2次電池です。エネルギー密度が高く、優れた充放電特性を示すだけでなく、安全性も高いので、幅広い用途に適しています。

中でも、ハイブリッド自動車への適用により、一気に市場が拡大しました。充放電のしくみを図3に示します。

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図3:ニッケル水素電池のしくみ

放電時の反応は以下のとおりです。

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放電前の負極の形はMHで表記されていますが、これは金属[M]に水素が吸蔵されている状態を表しています。放電時には、負極に吸蔵された水素原子と水酸イオンが反応して、水に変化するとともに電極に電子を供給します。

正極のオキシ水酸化ニッケルは電子を受け取りながら水と反応し、水酸化ニッケルと水酸イオンが生成されます。放電においては、片側の電極で水が生成し、反対側の電極で水を消費するため電解液の増減は起こりません。

充電時の反応は、放電時とまったく逆になります。負極では電極反応により水を水素イオン[H<sup>+</sup>]と水酸イオン[OH<sup>-</sup>]に分解します。水素イオンは電極で電子を受け取って水素原子となり、電極である水素吸蔵合金として蓄えられます。

正極では水酸イオンと電極の水酸化ニッケルが反応し、水酸化ニッケルからオキシ水酸化ニッケルを生成しながら水が生成し、電極に電子が供給されます。

正極では水酸化ニッケルNi(OH)2とオキシ水酸化ニッケル(NiOOH)の反応が起こりますが、どちらの材料もそれ自体に電子導電性がないため、導電助剤の添加や集電体の工夫が必要となります。水酸化ニッケルの表面に、電子伝導性のオキシ水酸化コバルトCoOOHを形成させて、その導電性を高めています。

ニッケル水素電池の構造を図4に示します。これは巻回型と言われるもので、正極活物質と負極活物質をセパレータの両側に配置させて中心部に巻き付けた構造です。活物質には水酸化カリウムKOH水溶液を含浸させています。ここで水素吸蔵合金[M]はレアメタルの混合物で、水素を安定的に取り込み、放出させることができる金属です。

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図4:ニッケル水素電池の構造
⁠(出所:電池工業会ホームページより引用)

ニッケル水素電池の公称電圧は1.2Vであり、ニッケルカドミウム電池と同程度ですが、電池容量が大きく、急速充電が可能で、大電流の放電に適しています。自動車以外の用途には、乾電池代替用、電動工具、産業機器、自然エネルギーの電力貯蔵などがあります。

ちょっと寄り道「水素吸蔵合金のMH」とはどんなもの?

ニッケル水素電池で用いられる水素吸蔵合金について、補足します。

水素吸蔵合金は水素を取り込むことができる金属です。レアメタルの一種であるランタン(La)やレニウム(Re)などの希土類元素はNiなどと合金をつくり、La Ni5や Re Ni5の形で水素吸蔵合金となることが知られています。これはAB5型と呼ばれますが、他にチタンなどの遷移金属合金であるAB2型の合金も存在します。

これらの合金金属が水素を吸蔵する原理は、固溶現象として理解されます。固溶現象とは、合金金属の固体結晶中に水素原子が入り込み、結晶を構成する原子の間や結晶原子と置き変わることで、安定な状態を作り出す現象を意味します。

ただ、ランタンなどの希土類元素は、資源的に限られているだけでなく、金属単体への精製方法も難しいことから、コストも課題の一つです。そこで、ミッシュメタルと呼ばれる精製されていない希土類元素がそのままの形で使用されることも多くあります。水素吸蔵合金のMHのMは、このような混合物としての意味も持っています。

次回テーマは「リチウムイオン2次電池」の予定です。

参考文献

  1. 関勝男『スッキリ!がってん! 二次電池の本』(2015年、電気書院刊)
  2. 板子一隆・工藤嗣友『これだけ!電池』(2015年、秀和システム刊)
  3. 電池工業会ホームページ
    https://www.baj.or.jp

中尾 眞(Makoto Nakao)/ SCE・Net

1948年生まれ。東京大学大学院化学工学修了。旭硝子(株)にて研究開発部、化学品営業部などに在籍し、イオン交換膜法食塩電解技術関連の開発・営業およびPEM燃料電池開発に従事。2006年より(公社)化学工学会SCE・Netの活動に参加し、現在代表幹事を務める。