電子機器に搭載―現代社会を支えるリチウムイオン2次電池【時代を支える電池の基礎知識 第4回】
2022/08/18
連載の目次
- 第1回 電池の歴史と市場
- 第2回 電池の基本、1次電池
- 第3回 自動車を支える2次電池
- 第4回 リチウムイオン2次電池
- 第5回 電気自動車と電池の将来
現代社会に欠かせない電子機器の多くにはリチウムイオン2次電池(Lithium-ion Battery、以下LiB)が搭載されています。LiBはリチウムの材料特性を最大限に生かすために、主要部材である正極、負極、電解液を特別に開発したものです。ここでは、LiBの開発経緯、発電のしくみ、発火問題対策などを解説します。
1991年に誕生し、ノーベル賞の対象にもなったLiB
LiBはリチウムをイオンのままの状態で使う2次電池ですが、その原点はリチウム1次電池にあります。リチウムの標準電極電位は−3.045Vであり、リチウムを負極に用いると大きな起電力が得られることが知られていました。1次電池は国内では1976年に商品化されましたが、負極には金属リチウムが用いられ、電解液には非水有機溶媒が採用されていました。
実用性の高い2次電池の開発は1980年ごろより盛んになりました。開発のポイントは、充放電の際にリチウムが金属として析出しないように、“イオンの状態のまま”取り扱うことでした。
この開発指針に沿って、まず正極活物質としてリチウムイオンを吸蔵できる金属酸化物のコバルト酸リチウム(LiCoO2)が見出されました。続いて負極についても、黒鉛がリチウムイオンを吸蔵できる構造であることが見出されました。その結果、充放電に際して、正極と負極のどちらもイオンの状態で作動することが可能な電極システムが開発されました。非水溶媒に電解質を溶かした非水電解液についても改良が加えられた結果、1991年、ソニーによりLiBとして商品化されました。
2019年のノーベル化学賞は、リチウムイオン電池開発に貢献したスタンリー・ウィッテンガム氏、ジョン・グッドイナフ氏、吉野彰氏の3人に授与されました。授賞理由は「LiBの開発」でしたが、より詳しくいうと、電極活物質として層状化合物を使用することで、リチウムをイオンの状態で取り扱うことを可能とした電池の基本概念について、それぞれの分野での貢献を評価したものでした。
発電に深く関わるインターカレーション
LiBの発電のしくみは、充放電におけるリチウムイオンのインターカレーションという現象と深く関わっています。図1にLiBの発電原理を示します。

図1:リチウムイオン2次電池の発電原理
(出所:村田製作所「私たちの生活を変えるリチウムイオン電池 第1回」図版を参照に作成)
放電時の電極の反応は下記の式で表されます。

ここで放電前の状態は、正極はLi1-xCoO2として、また負極はLixC6として表されていますが、リチウムイオンが電極材料の層間に挿入されている状態を表しています。この状態をインターカレーションと呼びます。正極と負極は共に層構造の結晶をしており、その間にリチウムがイオンの状態で挟みこまれています。
1次電池のようにリチウム金属を負極に用いた場合には、充放電に際してリチウムが溶解と析出を繰り返す結果、デンドライト状(樹枝状)に成長し、先端の突出部が反対の電極に接触することになります。
一方、インターカレーション型電極では、リチウムイオンが層状結晶の層間に閉じ込められた構造をとりますので、充放電を繰り返しても、イオンのまま存在することができます。従って、充放電に際して、デンドライト状の成長が起こらず、電極が短絡接触することはありません。
エネルギー密度が高く、急速充放電可能
LiBの特徴は高性能であることです。具体的には、公称電圧が3.6Vと高いだけでなく、エネルギー密度が高く、急速充放電が可能であることです。また、長時間放置しても放電ロスが少なく、充電を繰り返すことによる悪影響が少ないことも利点です。代表的な性能を図2に示します。

図2:リチウムイオン2次電池の構造と代表性能
(出所:左図 電池工業会より引用、右表『2次電池の本』を参照)
LiBの形状としては、円筒型、角型、ラミネートパッケージ型などがあり、用途に応じて使われています。代表的な形状の円筒型電池を図2に示しています。
自動車用途などのラミネートパッケージ型ではアルミ箔にプラスチックをラミネートし、電池セルを包み込んでいます。
電池の構成部材については、正極にはリチウム含有金属酸化物であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)などが用いられます。一方、負極にはグラファイトなどの炭素材が用いられています。
また電解液には、電解質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)などのリチウムイオンを含む、有機電解液が用いられています。有機電解液は水溶液と比べると、導電率が2、3桁劣るという欠点がありますが、導電率を高めるために、電解質を高濃度で溶解させることができるプロピレンカーボネート(PC:Propylene Carbonate)やエチレンカーボネート(EC:Ethylene Carbonate)を用いています。
その他の部材として、セパレータには多孔性のポリプロピレンが用いられ、また集電材として正極にはアルミニウム箔、そして負極には銅箔が用いられています。
さらに、安全対策として正の温度特性をもつPTC(Positive Temperature Coefficient)素子や、電流遮断機構が設けられています。これらは、何らかの理由で大電流が流れた場合に、電流量を減らしたり、遮断したりする機能を有しています。
発火問題への対策も
LiB は1991年に商品化されると急速に広まり、多くの機器に採用されました。しかし、初期にはさまざまな原因で発火事故が発生し、社会不安まで起こりました。
LiBの発火事故における多くの原因は短絡(ショート)です。電池セルを製造する段階で、微小な異物の混入や、電極を集電体に巻き込む際の巻きズレが原因となり、短絡が起こります。短絡すると瞬間的に大電流が流れ、熱も発生しますので、可燃性の有機電解液の発火につながります。
短絡を含めて発火原因を整理しますと、過充電、外部短絡、内部短絡、加熱に分類されます。これらは電池セル自体の不具合が原因となる場合が多いですが、適合しないアダプターの使用といった他の機器との複合的な問題も原因となります。
発火問題への対策として、電池セル本体については、上限充電電圧、放電下限電圧、充放電時の最大電流、使用温度領域が仕様の形で条件設定されています。電池を使用する機器についても、同様の使用条件が設定されています。
LiBの安全性をさらに高めるために、新しい電極材料の開発や、システムの開発が継続して行なわれています。
次回テーマは、「電気自動車と電池の将来」の予定です。
参考文献
- 関勝男『スッキリ!がってん! 二次電池の本』(2015年、電気書院刊)
- 中山将伸「リチウムイオン電池では,なぜ非水系液体中でイオンが移動できるのか?」(2006年発表)
- 高橋仁美「リチウムイオン電池搭載製品の発火事故事例」
https://www.nite.go.jp/data/000116585.pdf - 電池工業会ホームページ
https://www.baj.or.jp
中尾 眞(Makoto Nakao)/ SCE・Net
1948年生まれ。東京大学大学院化学工学修了。旭硝子(株)にて研究開発部、化学品営業部などに在籍し、イオン交換膜法食塩電解技術関連の開発・営業およびPEM燃料電池開発に従事。2006年より(公社)化学工学会SCE・Netの活動に参加し、現在代表幹事を務める。
