科学技術・イノベーションこそSDGs達成への原動力【For the SDGs 化学産業の競争力と共生力 第5回】

2022/06/09
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連載の目次

「持続可能な開発目標」(SDGs:Sustainable Development Goals)に向け、化学産業の貢献のしかたについての視座を提供するChematelsの好評連載「For the SDGs 化学産業の競争力と共生力」。最終回となる第5回は、科学・技術イノベーションとSDGsの深い関連性を見ていきます。

日本のイノベーション力はいまも健在

世界経済フォーラム(WEF)の国際競争力ランキングにおける2019年の日本の総合順位は、2019年は全141カ国中6位と高い順位を維持しています。その中で、「イノベーション能力」は7位です。

このランキングで日本は、「労働力の多様性」のスコアが低い一方で、「研究開発投資額」や「特許出願件数」などのスコアは高いことなどが見えます。これらから全体的に、日本はまだ国際競争力もイノベーション能力も維持しているといえるでしょう。

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図1:WEF国際競争力ランキンク゛における日本の国際競争力。2017年の総合順位はWEFか゛旧来の評価手法から出し直したもの。2017年は136、2018年は140、2019年は141の国と地域による
⁠(出所:世界経済フォーラム(WEF)「The Global Competitiveness Reports」を参考に編集部作成)

日本の研究開発費総額はというと、経済協力開発機構(OECD)の推計では、米国、中国に続く第3位の規模であり、2018年は約18兆円でした。また研究者数については2019年では約68万人となっており、中国、米国に次ぐ第3位です。すなわち、イノベーションを支える資金力人材においても日本は潜在力を有しています。

既存の科学技術分野に依存する自国産業の傾向も

では、日本の産業は新規の科学技術分野と既存の科学技術分野のどちらへの依存度が高いといえるでしょうか。

科学技術・学術政策研究所の「科学技術指標2021」によると、医薬品、電子産業、航空・宇宙といったハイテクノロジー産業における日本の貿易収支比は、主要国の中でも低い数値であり、輸出額を輸入額で割った貿易収支比は直近データの2019年度で0.74。つまり、輸入超過です。一方、化学品と化学製品、電気機器、機械器具、自動車、その他輸送などを指すミディアムハイテクノロジー産業の貿易収支比は2020年では2.59。こちらは輸出超過であり、主要国の中で第1位を維持しています。

つまり、日本の産業構造の現状は、まだまだ既存の科学技術に依存しているといえます。

科学技術・イノベーションとSDGsのビジョンには共通性がある

2021年4月、日本の科学技術政策の基本的な枠組みを定める「科学技術基本法」が「科学技術・イノベーション基本法」に改正されました。従来の基本法では「科学技術の水準の向上」のみを目的としていましたが、それに「イノベーションの創出の促進」が加えられました。

この「イノベーションの創出」について、科学技術・イノベーション基本法では次のように定義を明記しています。

「科学的な発見又は発明、新商品又は新役務の開発その他の創造的活動を通じて新たな価値を生み出し、これを普及することにより、経済社会の大きな変化を創出することをいう」

科学技術・イノベーション基本法の方針は、科学技術・イノベーションにより実現が期待される新たな価値・サービスの目標となりうるものですが、同時にSDGs が示すこれからの社会の共通価値・ビジョンと通じるものでもあります。同法の目的にも、「人類社会の持続的な発展に貢献すること」が記されています。

科学技術・イノベーション視点でSDGsへの取り組みに注目

そこで、科学技術・イノベーションの観点からSDGsの動向を見てみます。すると、SDGs達成の鍵となる企業連携を促したり、SDGsを新たなビジネスの機会に結びつけたりたりするための科学技術・イノベーション関連の活動がさまざまあることが分かります。

例えば、SHIP(SDGs Holistic Innovation Platform)という活動では、「SDGs の達成をイノベーションの機会として捉え、企業の技術・ノウハウで世界中の課題の解決を目指す、オープンイノベーション・プラットフォーム」が構築されています。

また、企業戦略では「共有価値の創造」とも呼ばれるCSV(Creating Shared Value)が、また金融面では第4回で説明したとおり、環境・社会・統治の観点からの企業への投資を意味する「ESG 投資」が注目されています。

国連ではSTIフォーラム(Multi-Stakeholder Forum on Science, Technology and Innovation for the SDGs) が設置され、科学関係のコミュニティもSDGsに対してさまざまな取り組みを行っています。

これからの化学産業のキーワードは脱炭素、健康的生活、バイオマス利活用…

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図2:持続可能な開発目標(SDGs)における17の目標を表したロゴマーク

化学産業の将来像には、SDGsが掲げる脱炭素社会の実現が挙げられます。また医薬品分野を含む健康的な生活に貢献する姿も将来像に描くことができます。

それに中長期的には、第3回で紹介したようにバイオマス資源の利活用というイノベーションも未来への可能性として挙げることができます。すでに市場に出ている生分解性プラスチックやバイオ燃料も含め、バイオ関連分野の世界市場は約1.6兆ドル(約200兆円)ともいわれ、日本はその10%の確保を目指しています。

一方、化学産業の収益構造については、基礎・石油化学セグメントと機能性化学セグメントは、ほぼ同規模です。世界の中ではシェアの劣る機能性材料では、誘電材料、調光・発光材料、超高性能ポリマー、超高性能触媒、ナノカーボンといった素材イノベーション開発の強化と加速化が特に望まれています。

「For The SDGs 化学産業の競争力と共生力」は今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。

鹿子島 達志(Tatsushi Kagoshima)/ SCE・Net

1949年生まれ。九州大学工学部卒。鐘淵化学工業(株)(現カネカ)他2社を経験。生産技術や調達部門にて多くの大型海外工場建設の責任者として従事。マレーシアにエンジ会社のMD(社長)として2年間駐在。化学工学会のコストエンジニアリング部会員で活動、SCE・Net会員。現在、生産技術コンサル業のイーグレテック代表。