中小企業も過去の豊富な経験を生かせる【For the SDGs 化学産業の競争力と共生力 第2回】
2022/05/19
連載の目次
- 第1回 影響力が大きいからこそ役割も大きい化学業界
- 第2回 中小企業も過去の豊富な経験を生かせる
- 第3回 スギや藻類などのバイオマスが日本の環境貢献と産業振興のカギに
- 第4回 企業の生産性向上にSDGs視点は不可欠
- 第5回 科学技術・イノベーションこそSDGs達成への原動力
「持続可能な開発目標」(SDGs:Sustainable Development Goals)に向け、化学産業の貢献のしかたについての視座を提供するChematelsの連載「For the SDGs 化学産業の競争力と共生力」。第2回は、「企業とSDGs」の関係に注目してみます。とりわけ中小企業の視点から、企業はSDGsにどう向き合えばよいかを考えてみます。
企業にとってSDGsはメリットの源泉にもなる
SDGsは2030年までに「達成すべき状態」を示したものですが、全ての企業に対し、幅広い分野の課題について、技術革新を活用して取り組み、持続的発展のため解決することを求めています。その実現には、国連開発計画によれば世界で年間5~7兆ドルの新規資金が必要になると言われています。
逆に、そこに大きな潜在市場があると考えることもできます。
企業は、包括的な取組においてSDGsを利用することで、以下のようなメリットを得ることを期待できます。
1. 新たな事業機会の獲得
課題解決のための新製品・サービスの開発で売上・利益の向上を狙える。
2. 社会的責任の遵守
省エネルギーや、廃棄物削減などによる省資源、また地域貢献などを実現する。
3. 企業信用度の向上
知名度や自社好感度の向上で人材確保や市場価値向上を図れる。
4. 取引先との関係維持
ネットワーク活用して取引先企業との良好な関係を維持・向上。
5. 業績向上
経営者・社員一丸となった意識改革と活動で、業績向上を期待できる。
大事なのは、単に「いまできること」から既存事業の延長線として将来を見通すのではなく、「あるべき姿」から逆算して「いま何をすべきか」を戦略的に見直し、ビジネスチャンスを創造していくことです。
化学企業はSDGsの影響を受けやすい
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製造業全体の売上高260兆円程のうち化学産業の売上高は約87兆円とされ、自動車を中心とする輸送用機械器具製造業に次いで第2位を誇ります。
企業数は2019年時点で上場企業数185社、非上場企業数1万3659社で、国内企業総数400万社程のうちでは極めて少数です。
また、化学業界の特徴としては、業界内での取引が多いことや、製品は基礎製品と機能性製品に大別され、川上では石油関連の基礎材料を、川中ではプラスチックスなどの中間材料を、川下では自動車部品や電子部品などの各製造業の機能性材料を製造しており範囲が広いことなどを挙げることができます。
とくにSDGsとの関連では企業間取引(B to B:Business to Business)を主として多種多様な業種へ材料を提供し、景気動向や市場動向、さらには政治情勢により業績が左右されやすいといった特徴もあります。SDGsをめぐる動向や進展が自社の戦略のみならず、事業に広範に影響することになります。
多くの課題に取り組む中小企業、豊富な経験をSDGsに生かせる
「中小企業白書2021」によると、中小企業は企業全体の99.7%を占めます。また総務省「平成26年経済センサス-基礎調査」によると、従業員は4794万人のうち70.1%を占めています。これを製造業に限定すると、中小企業の数は274万社で製造業全体の99.2%、従業員は620万人で全体の65.3%に相当します。
また、売上高については、財務省「法人企業統計調査年報」によると2016年第4四半期の全体259.4兆円のうち中小企業で126.4兆円を占めています。中小企業は日本企業を支える重要な戦力といえます。
こうした状況下で、日本の中小企業の多くが慢性的な人手不足や後継者問題、資金、設備老朽化などに直面し、厳しい環境に置かれています。特に、日本の企業の特徴として、系列企業内に中小企業が組み込まれていることが多く、取引先を自由に選びづらいなど、独自に諸改革を推進できない事情もあります。
化学系の中小企業でもこれらの構造的な課題に違いはありません。ただし、特に製品開発力の点では研究者・技術者を抱える余力はなく、化学品を扱うため法規制や廃棄物対応への投資をしたり技術開発に時間を割いたりする余裕もないといった実態があります。
しかし一方で化学系をはじめとする中小企業には、 過去の生産性向上やISO取得、公害防止などでの成功経験が化学系企業には豊富にあります。また、取引先や市場関係との協働的な改善活動でも実績が多数です。SDGsへの取り組みでも、これらの実績を活用することができます。
特に、近年はデジタル化の技術を安価かつスピーディに導入できる時代になっているので、この潮流に乗って省力化・自動化を推進しつつ、余力をSDGsに向けるといった考え方もできます。
SDGs推進を阻害する要因も
企業がSDGsを推進するに当たって陥りがちな問題もあります。その一つが「SDGsウォッシュ」です。うわべだけのSDGsの取り組みを「SDGsウォッシュ」といい、「実態以上にSDGsに取り組んでいるように見せかけること」を指します。
過去には、環境破壊の事実や製品の危険性などを隠蔽したり、うわべでは対策実行をしている姿勢を見せておきながらごまかしを企てたりした企業もあります。これらは現在でも、特に廃棄物問題や公害の対策で、よく目にする実態です。
しかし、多くの企業は決してSDGsへの意識を持ってないわけではありません。SDGsを実施できない、もしくは「SDGsウォッシュ」に陥ってしまう要因としては、次のようなことが考えられます。
1. 課題解消の技術面や予算面のハードル
安価で効果的な設備が見当たらないなど。
2. 物理的に解決が困難
装置の設置スペースがない、周辺環境自体に制約がある、など。
3. マンパワー不足
充てられる要員が足りない。
これらに対し、対応策として以下のようなことが考えられます。
1. 業界の共通課題として取り組む
業界団体や系列の上層企業を活用して共同で取り組む。
2. 地域的な課題として取り組む
監督官庁や地域行政の支援を取り付けて対策を進める。
3.産学連携で取り組む
技術的に高い課題などに対し、地域での産学協同を試みる。
4. 支援制度を活用する
資金面の課題に対し、中小企業基盤整備機構や自治体など各種支援機構のプロジェクトを活用する。
5. 要員を外部から工面する
NPO法人や人材派遣団体に依頼する。業界内で相互融通を試みる。
次回は「スギや藻類などのバイオマスが日本の環境貢献と産業振興のカギに」です。どうぞご期待ください。
鹿子島 達志(Tatsushi Kagoshima)/ SCE・Net
1949年生まれ。九州大学工学部卒。鐘淵化学工業(株)(現カネカ)他2社を経験。生産技術や調達部門にて多くの大型海外工場建設の責任者として従事。マレーシアにエンジ会社のMD(社長)として2年間駐在。化学工学会のコストエンジニアリング部会員で活動、SCE・Net会員。現在、生産技術コンサル業のイーグレテック代表。
