企業の生産性向上にSDGs視点は不可欠【For the SDGs 化学産業の競争力と共生力 第4回】
2022/06/02
連載の目次
- 第1回 影響力が大きいからこそ役割も大きい化学業界
- 第2回 中小企業も過去の豊富な経験を生かせる
- 第3回 スギや藻類などのバイオマスが日本の環境貢献と産業振興のカギに
- 第4回 企業の生産性向上にSDGs視点は不可欠
- 第5回 科学技術・イノベーションこそSDGs達成への原動力
「持続可能な開発目標」(SDGs:Sustainable Development Goals)に向け、化学産業の貢献のしかたについての視座を提供するChematelsの好評連載「For the SDGs 化学産業の競争力と共生力」。第4回は、化学業界の生産プロセスと経済性をSDGs視点で切り取ってみます。
SDGsが創出する市場機会価値は年間12兆ドルとも
現在は「企業の存在意義」が問い直されている時代です。新型コロナウイルスによって、世界中のビジネスを取り巻く環境は激変しました。さらに日本では、多くの企業が少子高齢化による人材不足や消費者ニーズの多様化などに直面し、事業の継続性において課題を抱えています。
他方、企業がSDGsを達成することは、大きな経済効果と雇用を生みだすと期待されています。環境省によると、SDGsが創出する世界の市場機会価値は年間12兆ドル、日本円にするとおよそ1500兆円にもなり、2030年までに創出される雇用は世界で約3億8000万人と推計されています。
企業には「社会の一員」と「従業員の働き場」の側面がある
いまこそ、安易なコスト削減ではなく、「企業の社会的責任」を基本とした、“企業主体”のSDGs指針に基づく目標達成が期待されています。企業には「社会の一員」と「従業員の働き場」という側面があります。このような中でSDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」となりうるものです。企業が日本国内のみならずグローバルに世界の仲間とSDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」を掲げ、行動することが評価される時代が来ています。
投資家が企業を環境・社会・統治の視点で評価する時代に
また企業と投資家の関係性も強化されています。国連の推奨もあり、企業経営を環境(Environment)・社会(Social)・統治(Governance)の視点から考えることが重要であるとの認識が強まりました。投資の意思決定において、それらを重視する「ESG投資」が一般的になりつつあります。
企業にとっての羅針盤「SDGコンパス」
SDGsに向けての具体的な推進のツールとしては、経営戦略にSDGsを整合させ、SDGへの貢献の測定・管理に関する指針である「SDGコンパス」があります。非営利団体のGRI(Global Reporting Initiative)、それに国連グローバル・コンパクト、また持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD:World Business Council for Sustainable Development)の三者が作成したものです。
SDGs Compass コンパスでは、企業がSDGsに向けて取り組む根拠として、次の5点を挙げています。
・1. 将来の事業機会の見極め
・2. 企業の持続可能性に関わる価値向上
・3. ステークホルダーとの関係強化、政策展開への対応
・4. 社会と市場の安定化
・5. 共通言語の使用と目的の共有
企業はSDGコンパスを通して、売り上げ・利益の目標値だけでなく、実現したい社会を広義に捉えることができます。これにより自社の目指すべき姿が明確になり、目的を見失わず、事業を継続することが可能となります。
化学企業はSDGsを考慮した製造プロセス構築を
化学産業においては、過去に公害が発生し大きな社会問題となったことがあり、また製品や副産物が環境に悪影響を与える場合もあることから、とりわけ環境対策が必要です。この考えに基づき、昨今では国際的動向を踏まえた規制合理化のための措置などが講じられています。
さらに、法律による規制だけでなく化学製品を扱う事業者が環境、安全、健康を確保するために活動し、その活動の成果を公表する「レスポンシブル・ケア」を指針として、SDGs視点から社会とコミュニケーションを図る活動をしている企業もあります。
化学産業の企業は、製品づくりに必要な生産プロセスをこうした観点から考えていくことが求められます。
ポイントは、化成品の「ライフサイクル」を見極めたプロセス設計、それに固体・液体・気体と多様な形状をとる廃棄物の適正な処理と管理です。廃棄物処理法には「事業者は、事業活動に伴って生じた廃棄物を、自らの責任において適正に処理しなければならない」とあります。
これを実行するためのキーワードが「3R」、つまり廃棄物を減らす“Reduce”、繰り返し使う“Reuse”、資源として再利用する“Recycle”です。SDGsの目標12「つくる責任、つかう責任」に基づき、持続可能な生産消費形態を確保する視点で生産プロセスを設計・構築することが必要です。
例えば、過去に自動車排出ガスや光化学スモッグなどによる数々の公害問題を乗り越えてきた化学企業の技術と人材の力を、旧来のコストを重視した生産性向上から、環境保全や廃棄物3R対応、省資源などへ振り向けることがSDGs視点の「新たな生産性」の向上につながります。これらの技術は化学産業にとって今後の大きなビジネスにもつながるものと考えられます。
日本の労働生産性、化学分野は検討するも全体的に低調
国際的な専門家ネットワーク「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」(SDSN:Sustainable Development Solutions Network)は2021年、SDGsに関する165カ国の総合的なパフォーマンスを、「SDG指数総合点」(SDG Index scores)として数値化しています。達成率が高い上位20カ国は、18位の日本を除いてすべて欧州諸国です。
一方、日本生産性本部が公表した「労働生産性の国際比較2021」によると、日本の時間あたりの労働生産性は経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中23位で、主要先進7カ国の中では最下位でした。日本の人たちが他国の人たちと同じ時間働いても、さほど多くの成果を生み出せていないということです。
産業別に労働生産性の水準を示したデータでは、日本の労働生産性が米国の労働生産性を超えている産業は化学のみです。大半の産業において労働生産性が米国を下回っていることが分かります。

図1:日本の産業別労働生産性水準の米国との比較。2017年のデータ
(出所:日本生産性本部2020年5月発行「生産性総合研究センター生産性レポートVol.13 産業別労働生産性水準の国際比較」を参考に編集部作成)
労働環境の改善が企業の生産性向上につながる
企業のSDGs達成は、社会の一員として求められていると同時に、従業員にとっての誇りに思える働き場としても求められています。企業は、従業員がその企業で働く意味を考え、従業員に誇りに思ってもらえる働き場をつくっていかなければなりません。SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」には「働きがいの」4項目、つまり人材育成制度、評価処遇・配置、業務・組織管理、福利厚生が掲げられています。
またSDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」は、企業の持続可能性につながります。
もし企業がこれらの取り組みに後ろ向きだと、対外的にアピールできないだけでなく、社内的に従業員のモチベーションを維持できないことや、優秀な人材を確保できないことにつながりかねません。
特に、優秀な人材の確保は、企業にとって最重要の経営課題の一つです。資源に乏しい日本では人材こそが有望な資源であり、企業力の基盤となります。
企業がSDGsに向けて取り組むことは、地球と社会、そして企業自体の「持続」を実現する重要な営みとなります。
「手段の目的化」を引き起こす危険性があることに注意しながら、SDGsに対する高い認識と前向きな姿勢を保つことが企業経営者たちに求められています。
次回は「科学技術・イノベーションこそSDGs達成への原動力」です。どうぞご期待ください。
鹿子島 達志(Tatsushi Kagoshima)/ SCE・Net
1949年生まれ。九州大学工学部卒。鐘淵化学工業(株)(現カネカ)他2社を経験。生産技術や調達部門にて多くの大型海外工場建設の責任者として従事。マレーシアにエンジ会社のMD(社長)として2年間駐在。化学工学会のコストエンジニアリング部会員で活動、SCE・Net会員。現在、生産技術コンサル業のイーグレテック代表。
