スギや藻類などのバイオマスが日本の環境貢献と産業振興のカギに【For the SDGs 化学産業の競争力と共生力 第3回】
2022/05/26
連載の目次
- 第1回 影響力が大きいからこそ役割も大きい化学業界
- 第2回 中小企業も過去の豊富な経験を生かせる
- 第3回 スギや藻類などのバイオマスが日本の環境貢献と産業振興のカギに
- 第4回 企業の生産性向上にSDGs視点は不可欠
- 第5回 科学技術・イノベーションこそSDGs達成への原動力
「持続可能な開発目標」(SDGs:Sustainable Development Goals)に向け、化学産業の貢献のしかたについての視座を提供するChematelsの連載「For the SDGs 化学産業の競争力と共生力」。第3回は、「バイオ燃料」や「バイオ原料」を題材に、化学産業が抱える環境課題と解決可能性について見ていきます。
「気候変動に具体的な対策を」と「つくる責任つかう責任」は化学産業の重要目標
化学産業では、多種の原料から多様な化学品が製造され、ほぼすべての業界に提供されています。また製品のほとんどは石油由来の原料から製造されています。その工程は高温・高圧・極低温など、さまざまな条件下での化学反応を経るので、化学産業はエネルギー消費型で、二酸化炭素(CO2)を多く排出する産業といえます。
国のデータによれば、石油消費量の約23%が化学品原料向けに使用されています。また、化学産業は、製造業および建設業の約 16%、日本全体の約4%の二酸化炭素を排出しています。そのため、SDGsにおいては、目標13「気候変動に具体的な対策を」が化学産業の重要課題といえます。
国が2030年度の目標に掲げた「温室効果ガスを2013年度から46%削減」などの実現に向け、日本化学工業会が「特段の対策のない自然体ケース(BAU:Business As Usual)と比べて 650万トンt-CO2の削減」を行動計画に掲げるなど、日本の化学産業は産業全体として取り組んでいます。
ただし、化学産業の取り組むべきSDGsは目標13だけではありません。多種多様な製品を生産するため、化学業界は危険物を含む製品の安全性確保や廃棄物処理の問題を抱えています。過去の大きな被害を起こした公害問題の反省から、その対策に取り組んでおり、SDGsの観点では目標12「つくる責任つかう責任」も大きく関わっています。そこで日本の化学産業は、製品ライフサイクルにおける化学物質の管理、機能性素材・技術による環境負荷の少ないプロセスの開発、また再利用や資源化技術による廃棄物の削減などを継続して推進してもいます。
注目されるバイオマス資源、食糧との競合などの課題も
化学産業の環境課題の多くは、化石資源である燃料および原料の大量消費と、生産製品の非再生性に基づいています。これらの問題解消のため、再生可能な資源としての生物を由来とした、いわゆる「バイオマス資源」の活用が近年、注目されています。化石資源由来のエネルギーや製品をバイオマスで代替することによって、二酸化炭素の排出削減に大きく貢献することができます。

表1:バイオマス資源の分類と具体例
バイオマス資源を活用する上での課題もあります。バイオマスが穀物などの場合に食糧と競合してしまうことはその一つです。トウモロコシや大豆などについては世界の農地減少や価格高騰などの懸念が指摘されており、これに対して非可食性のバイオマスが利用され始めています。
また、原料の安定的な確保も課題の一つです。化学産業がこれらの課題にどう取り組むかが、将来の産業や経済を大きく左右することは確実です。
生分解性などが特徴、バイオマス由来の化学品への期待も
バイオマスからの化学品の原料として、従来の穀物やパーム油などからの糖類や油脂類に加えて、最近はサトウキビカスや木質類などを由来とする非可食性バイオマスが利用されています。これらの原料からつくられる化合物は、「バイオプラスチック」もしくは「バイオポリマー」と呼ばれ、生分解性を特徴としています。また、二酸化炭素を取り込んでいた生物を由来とするため理論上は二酸化炭素の排出量を増やしません。
バイオプラスチックの多くは機能性ポリマーとして、二次電池、太陽電池、風力発電装置などといった再生可能エネルギーの利用に欠かせない装置の素材向けに提供されるなどしています。中でも、豊富な国内産のスギを原料とする素材は「改質リグニン」と呼ばれ、各地の農林業の振興への期待もあります。これらはSDGsの目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に貢献します。
改質リグニンをはじめとする未利用バイオマスの利用への期待を図で示します。

図1:未利用バイオマスの利用への期待
日本でも普及が望まれるバイオマス燃料
バイオマスを原料とした燃料のことを「バイオマス燃料」といいます。また、バイオマスから得られるエネルギーを「バイオマスエネルギー」といいます。
バイオマス燃料が燃焼するときに放出される二酸化炭素は、光合成によって大気中から吸収されていたものであるため排出量の増加につながりません。バイオマス燃料のメリットは再生可能であることや二酸化炭素排出量を削減できることであり、これらはSDGsの目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」に貢献するものです。

図2:化石燃料とバイオマス燃料の違い
代表的なバイオマス燃料としてはバイオディーゼルやバイオエタノールがあります。海外では国の奨励策もあり大いに使用されていますが、日本では使用量が少ないのが実態です。日本で普及が進んでいない主な原因としては、単価が高いことや燃焼機関改造が必要な場合があることなどがあります。海外同様の進展が望まれます。
なお、国内で保湿剤や保存料などに使われるグリセリンのほとんどは、バイオディーゼルの副製品である粗グリセリンを精製したものです。バイオマス燃料と化成品の深い関係が、こうした例からわかります。
日本の「産油国」入りも夢ではない! 藻類バイオマスの将来性
新たな再生可能エネルギー資源として、微細藻類が産生するオイルなどの「藻類バイオマス」にも注目が集まっています。藻類バイオマスは、植物由来の糖質・でんぷん、また、非可食バイオマスに次ぐ「第三世代のバイオマス」ともいわれています。
微細藻類には石油の代替物質となる炭化水素を発生させる種があります。こうしてつくられるバイオマス燃料は、植物由来のバイオマス燃料に比べて桁違いの生産効率性を持ち、またトウモロコシなどと違って食品利用との競合もほぼないため、次世代のバイオマス燃料として大変に注目されているのです。

図3:各種植物と微細藻類の油脂生産性
(出所:Drzins, A., Pienkos, P. and Edye, L.(2010). Current Status and Potential for Algal Biofuels Production(IEA-task39, 2010)をもとに編集部作成)
藻類バイオマスのメリットを整理すると、次のようになります。
・潜在的なオイル生産能力が油脂植物の数十~数百倍と高い
・生産するための耕作地が不要
・食糧とほぼ競合しない
このようなメリットがあるため藻類バイオマスは世界で注目されています。今後、日本も大量培養技術を確立すれば、「産油国」になることも夢ではありません。
経団連も化学業界の「実行計画」としてバイオマス利活用を明記
経済団体連合会(経団連)の「化学業界の『低炭素社会実行計画』」では、中長期を見据えたの革新的技術の開発として次のものが挙げられています。
・化石資源を用いない化学品製造プロセスの開発(2020年目標)
・バイオマス利活用:非可食バイオマス原料から機能性バイオプラスチック等の化学品の製造(2030年目標)
また、エネルギー関連では、地球温暖化対策の観点から「BPT(Best Practice Technologies)の普及により、更なるエネルギー効率の向上を図る」ことも2020年目標に掲げられています。
今回、取り上げたバイオ原料やバイオ燃料の普及は、こうした目標を達成する上でも重要になるといえます。
次回は「企業の生産性向上にSDGs視点は不可欠」です。どうぞご期待ください。
鹿子島 達志(Tatsushi Kagoshima)/ SCE・Net
1949年生まれ。九州大学工学部卒。鐘淵化学工業(株)(現カネカ)他2社を経験。生産技術や調達部門にて多くの大型海外工場建設の責任者として従事。マレーシアにエンジ会社のMD(社長)として2年間駐在。化学工学会のコストエンジニアリング部会員で活動、SCE・Net会員。現在、生産技術コンサル業のイーグレテック代表。
