地球をクリーンにするスーパー藻類たち【ミドリムシと藻類が切り拓く未来 第4回】

2022/05/10
Image

連載の目次

植物より効率よく光合成を行うミドリムシや藻類は、地球温暖化の要因とされる二酸化炭素の排出を削減するのに大きな力を発揮しそうです。さらに、水の安全・安心のための切り札としても、大いに期待されています。

SDGsはブームではなく永遠のテーマ

近頃、テレビなどでやたらもてはやされている言葉に「SDGs(エスディージーズ)*1」があります。持続可能な開発目標を17項目にまとめたもので、キャッチーではあるものの、個人的には「変なブームに終わらなければいいな」と、少し危惧しています。なぜなら、環境問題に関心のある人たちにとって「持続可能な社会の実現」は30年以上前からの常識的な課題であり、そのための取り組みが熱心に続けられてきたからです。しかし、そこにはあまり触れることなく、いまになって突然「SDGsが大事なのです!」と騒ぎ立てるマスコミには、浮ついた姿勢しか感じられませんね。

持続可能な社会を実現するための取り組みの中でも重要なのが地球温暖化対策です。二酸化炭素、メタン、フロンなど温室効果ガス*2の排出削減は、全人類にとっての急務といえます。特に、大気中の二酸化炭素濃度は産業革命以前より49%も増加しているだけに、排出量の抑制や、何らかの方法による回収が求められているのです。

前々回の記事では、ミドリムシや藻類が生み出すエネルギーをできるだけ利用することで、化石燃料の使用を減らしていけるのではないかという話をしました。今回は、もっと踏み込んで、二酸化炭素の回収・利用の可能性についても検証してみましょう。

ミドリムシを利用した二酸化炭素処理のしくみを描いてみた

火力発電所や製鉄所、セメント工場などから大量に排出される二酸化炭素を処理する方法としては、図のように地中貯留、海洋貯留、化学変換(固定)、バイオマス利用などがあります。

Image

図1:二酸化炭素の主な処理方法(筆者作成)

これらのうち、もっとも大規模にできるのは「貯留」で、例えば採掘が終わった炭鉱の深部に残る石炭層は二酸化炭素の吸着に有効です。しかし、発電所や工場をそのそばにしか建てられないのであれば不便であり、根本的な解決には至りません。

化学変換については、どれだけ少ないエネルギーで処理できるかが課題になります。化学反応を促すのにたくさんの燃料を使うようでは本末転倒ですからね。

そこで、バイオマス利用、特に藻類の持つ高い光合成能力に期待がかかっています。植物より効率よく二酸化炭素を吸収し、新しい燃料や有益な物質を生産できれば、理想的な処理プラントになるからです。

そこで、筆者なりにミドリムシ培養施設を組み込んだ「二酸化炭素を出さない」発電所や工場のイメージを考えてみました。

Image

図2:ミドリムシ生産プラントと二酸化炭素処理のイメージ(筆者作成)

ポイントは、一つの方法に頼らず、複合的な手段で二酸化炭素を処理していくところです。また、大気から窒素を除いた酸素濃度の高い空気*3を送り込むことで燃焼温度を上昇させ、エネルギー効率を高めるという工夫もしています。

植物の場合は、周囲に二酸化炭素を噴射しても、そのすべてを吸収してくれるわけではありません。しかし、ミドリムシなどの水中で培養できる藻類であれば、池やプールのような開放型のオープンポンドへの噴出量を調整することで、二酸化炭素をできるだけ無駄なく光合成に使ってもらうことができるのです。

さらに、バイオリアクターと呼ばれる閉鎖型の培養槽であれば、しくみは化学プラントと同じですから、もっと細かい環境設定ができ、二酸化炭素の処理能力は高まるでしょう。

Image

図3:バイオリアクターの例(筆者作成)

汚染物質を吸収する品種で環境破壊を防げ

ミドリムシなどの藻類は光合成により養分を生み出せますが、成長のためには栄養塩類と呼ばれる物質も欠かせません。植物における肥料と同じで、窒素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛、モリブデンなどが含まれます。

これらは他の多くの生物にとっても貴重な栄養素であるものの、下水中では水質汚染物質として扱われ、そのまま海に流れ込むと生態系を乱してしまいます。そこで、藻類たちの登場となります。

ミドリムシなどの微細藻類は繁殖スピードが速いため品種改良しやすいということを前回の記事で説明しました。この強みを生かして特定の物質を吸収しやすい種を育てれば、より効率的に下水処理ができるのです。また、水中の有機物を吸収して栄養にできるミドリムシの能力を生かして、地下水に混ざった油分、つまり石油を除去しようという試みも始められており、彼らの活躍の舞台は広がっています。

ミドリムシや藻類たちの生態には、まだわからないことも多く、もしかすると他の汚染物質を処理してくれる品種が存在するかもしれません。そういう意味からも、ミドリムシや藻類は環境問題解決の切り札になると期待されているのです。

*1:SDGs
⁠Sustainable Development Goalsの略称。一般的には「エネルギー問題や環境問題を解決するための考え方でしょ」と捉えられているようですが、17項目の中には「貧困をなくそう」とか「ジェンダー平等を実現しよう」といったものも含まれており、総論すぎてわかりにくいといった気もします。ちなみに、エネルギーについて言及しているのは、目標7の「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」だけです。

*2:温室効果ガス
⁠実は水蒸気も温室効果ガスに含まれ、大気の温室効果の約5割を担っています。しかし、こっちを減らすわけにはいかないので、約2割を占める二酸化炭素の排出削減が求められているのです。

*3:酸素濃度の高い空気
⁠大気中に約8割含まれる窒素は燃焼に役立たないうえ、高温になりすぎると窒素酸化物(NOx)が生成されて大気汚染の原因になります。さらに排気中から二酸化炭素を分離するときにも邪魔になるので、最初から酸素だけを使うプラントが考えられています。ただし、そうしたプラントでは燃焼温度が高くなり過ぎるうえ、酸素の反応性が高いため装置が傷みやすいといった問題もあり、まだ研究段階です。

石川 憲二(いしかわけんじ)

ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。

公式サイト http://www.ne.jp/asahi/happy/golucky/