石油に頼らないプラスチックスを!【ミドリムシと藻類が切り拓く未来 第3回】
2022/04/26
連載の目次
- 第1回 ミドリムシって、そもそもどんなやつ?
- 第2回 ミドリムシ燃料が地球温暖化を止める?
- 第3回 石油に頼らないプラスチックスを!
- 第4回 地球をクリーンにするスーパー藻類たち
- 第5回 石油価格が上がればミドリムシが元気になる
ミドリムシをはじめとする藻類は、食品やヘルスケア製品に役立つ栄養素から石油代替燃料にもなる油分まで、多様な物質を効率的に生産できます。この能力をもっと活用すれば、私たちの生活に役立つさまざまなものをつくってもらえそうです。
品種改良のしやすさもミドリムシの強み
最初に、前回、お話ししきれなかった内容を少し補足しましょう。ミドリムシはシンプルな構造を持つ生物であることから光合成などの生命活動を無駄なく行えるのですが、もうひとつ、「品種改良がしやすい」という人間にとってはありがたい強みがあります。
例えば、トウモロコシやサトウキビからバイオ燃料を生産するとき、油分や糖質をできるだけ多く含む品種が必要になりますが、そのためには何代にもわたって改良を続けなければなりません。種から育つ植物の場合、この作業に、早くても10年くらいはかかるのです。
これに対して、ミドリムシは細胞分裂を繰り返して増殖し、1カ月で約10億倍にもなるという驚異の繁殖力を誇ります。この特長を利用するのです。前回、紹介したユーグレナ社では、次の手順により短期間で品種改良を成功*1させる方法を確立しました。
- 個々のミドリムシの油脂含有量を観測する
- 観測値に基づき、油脂含有量の多いユーグレナ変異体だけを選抜・取得する
- 有効な変異体だけを培養していくことで効率的に油脂を生産する
もちろん、この方法を応用すれば、特定の栄養素を、より効率的に生産できる個体だけを集めることが可能であり、将来的には目的ごとの“スーパーミドリムシ”を誕生させていけるのです。

図1:ミドリムシの品種改良
(出所:ユーグレナ社「Susntainable Times Vol.09」を参考に編集部作成)
開発が進む藻類プラスチック
ここからは、栄養素や燃料に続く「藻類プラスチック」の話です。
従来のプラスチックは石油、中でもナフサと呼ばれる成分を主な原料にしています。ナフサは原油から8%程度しか取れない*2上、他の石油化学製品の原料にもなるので、決して豊富な資源ではありません。このため、いずれは価格の上昇や枯渇といった事態も考えられるのです。
また、石油由来のプラスチックは燃やせば二酸化炭素を排出し、地球温暖化の要因になりかねませんし、燃焼せずに廃棄すると、自然界では分解されないまま永遠にごみとして漂い続けてしまいます。そういう観点からも、代替プラスチックの開発が急がれているのです。
そこで、これらの問題を一気に解決する手段として、生物由来のバイオマスプラスチックに注目が集まってきました。ここでも先行したのはトウモロコシやサトウキビなどの農作物を原料にしたもので、含まれる糖質の発酵で得られる乳酸を化学反応させる方法でプラスチックの生産に成功しています。
主成分であるポリ乳酸(PLA:PolyLactic Acid)は室温環境下ではほとんど分解しないため、通常のプラスチックと同様に長期間の使用が可能です。しかし、土中などに埋めると加水分解と微生物による生分解が進行し、最終的には二酸化炭素と水になりますので、環境への影響は少ないといえるでしょう。
ただし、ここでも食料生産とのバッティングが起きることから、藻類からプラスチックをつくる研究が進んできました。方法はいくつかあります。
たとえば、産業技術総合研究所で開発しているのは多糖類パラミロンとワックスエステルという油脂の化学反応でつくられる長鎖アルキル基/アセチル基導入パラミロンを主成分としたプラスチックで、アルキル基とアセチル基どちらの成分もミドリムシの体内で生成されるため無駄がありません。試作された製品は衝撃性や曲げ強度では改良の余地が残るものの、耐熱性は従来のプラスチックを上回っており、生分解性などを含めた機能改善への研究が続けられています。
ユーグレナ社がエプソンやNECなどと共同で開発している「パラレジン」*3も期待したいものの一つです。やはり、ミドリムシ由来のパラミロンを主体にしたバイオマスプラスチックで、多様な機能を付与することが技術的に可能であり、既存のプラスチックの代替が期待されます。例えば、ABS樹脂という合成樹脂 *4に類似した性質にすることもできるといいます。

図2:パラミロン(上左)からつくったパラレジン(上右)と成形サンプル(下)
藻類由来のプラスチックは他にも多くの企業や機関で研究されており、「藻類プラスチック」で検索できますから、興味のある人は、一度、調べてみてはいかがでしょうか。
*1:品種改良を成功
ユーグレナ社と東京大学、理化学研究所、科学技術振興機構などの共同研究によるもので、2016年に成功しました。
https://www.euglena.jp/news/n20160524/
*2:8%程度しか取れない
ナフサは粗製ガソリンとも呼ばれ、燃料用のガソリンと合わせて30%程の収量がありますが、化学原料に回せるのはこのくらいです。
*3:パラレジン
詳しくはパラレジンジャパンコンソーシアムの公式サイトを参照にしてください。https://pararesin.euglab.jp/
*4:ABS樹脂
アクリロニトリル(Acrylonitrile)、ブタジエン (Butadiene)、スチレン(Styrene)共重合合成樹脂の総称。
石川 憲二(いしかわけんじ)
ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。
