ミドリムシって、そもそもどんなやつ?【ミドリムシと藻類が切り拓く未来 第1回】
2022/04/12
連載の目次
- 第1回 ミドリムシって、そもそもどんなやつ?
- 第2回 ミドリムシ燃料が地球温暖化を止める?
- 第3回 石油に頼らないプラスチックスを!
- 第4回 地球をクリーンにするスーパー藻類たち
- 第5回 石油価格が上がればミドリムシが元気になる
(タイトルは変更となる場合があります)
ミドリムシ(ユーグレナ)は、ちょっとした水たまりにもいる身近な生物です。しかし、その特殊な性質を生かし、食品から燃料、新素材まで、さまざまに利用していこうという動きが盛んになってきました。この連載「ミドリムシと藻類が切り拓く未来」では、ミドリムシとその仲間でもある藻類の可能性について解説していきます。
動物と植物のいいとこ取り
ミドリムシは、最近では英語名の「ユーグレナ」(Euglena)と呼ばれることもあります。体長0.1mm以下のこの小さな藻類*1が多くの人に知られているのは、理科の教科書で目にしてきたからではないでしょうか。たいていの場合、ゾウリムシやミカヅキモ、ミジンコなどと一緒に、顕微鏡による観察図が紹介されています。
ただし、これらのラインアップはすべて横並びではありません。ゾウリムシとミジンコは動物、ミカヅキモは植物に分類されるのに対して、ミドリムシだけはどっちつかずの不思議な存在だからです。

図1:ミドリムシの拡大図(筆者作成)
拡大図を見てください。大きく目立つのは鞭毛で、これを器用に動かして水中を移動することができます。もちろん、植物性のミカヅキモなどにはできない芸当ですから、ミドリムシは動物の仲間といっていいのです。
ところが、「ミドリ」ムシといわれるだけに体内には多くの葉緑体を持ち、植物と同じように光合成を行います。このため、動物性プランクトンとは違って、餌を捕食しなくても生きていくことができるのです。
ちなみに、英語名の「ユーグレナ」は、「美しい眼点」という意味のラテン語から来ており、その由来は鞭毛の付け根近くにある赤い眼点にあります。昔はここが目の働きをするのではないかと考えられていましたが、実際に光を感じるのは近くに局在する感光性のタンパク質のほうで、むしろ眼点は光を遮ってしまいます。しかし、そのおかげで光の来る方向を知り、そっちに向かって進んでいけるそうですから、なかなか賢いですね。
これだけの機能を持ちながら、全体で細胞は一つという無駄のないつくり。だからこそ、条件がそろえば大発生することができるのです。
ビタミン、ミネラル、不飽和脂肪酸まで、栄養素の宝庫
動物と植物、両方の性質を備えているため、ミドリムシには他の多くの生物にはない大きな特色があります。それは、小さな体に多様な栄養を含んでいるというものです。その一覧を図にしておきます。

図2:ミドリムシに含まれる多様な栄養素
まず重要なのは、ドコサヘキサエン酸(DHA)や、エイコサペンタエン酸(EPA)といった動物性の栄養素です。一時期、健康食品として大きなブームになったクロレラは、葉緑素をもつ単細胞の藻類という点ではミドリムシに近い仲間であるものの、植物性であるためDHAやEPAを持っていません。つまり、ミドリムシは植物と動物の両方から摂れる栄養素をバランスよく備えた完全食品といえるのです。
もう一つ、動物性の部分を持つからこその強みがあります。
私たちは普段、多くの野菜を食べるので誤解していますが、本来、植物の細胞壁は硬く*2、消化しにくいことから、食料にするのは大変です。それは、野生の草を食べるウシやヒツジを見れば明らかで、彼らは口にしたものをすり潰す頑強な歯と、4つの胃という特殊な体内構造に進化することで、なんとか、食べた草を消化できるようになりました。それでも反芻といった面倒くさい作業をしなければならないのですから、植物から栄養を得るのは簡単ではないのです。
これは当たり前で、果実のような「動物に食べさせて種を運ばせる部分」ならともかく、大事な幹や茎や葉をむやみに食べられたら植物だって困ります。だから、少しでも細胞壁を丈夫にし、自らを守ろうとするのです。
しかし、そんな抵抗も空しく、人間たちは品種改良などによって細胞壁の弱い植物の品種を次々と作り出してきました。それが今の野菜なのですから、ありがたく食べなければいけませんね。
それでも、植物である限り野菜を完全に消化するのは難しく*3、多くの場合、煮たり、焼いたり、細かく切ったりといった調理が必要になります。しかし、動物でもあるミドリムシは吸収を妨げる細胞壁を持たないため、私たちはミドリムシに含まれる栄養の90%以上を吸収できるのです。
ミドリムシの持つ栄養でもう一つ注目したいのは、拡大図にも見えるパラミロンと呼ばれる顆粒です。酵母やオーツ麦などに含まれるβ-グルカンの一種で、食物繊維として機能するだけでなく、ブドウ糖(グルコース)が長く連なった多糖類であることから、疲労回復などさまざまな健康効果が期待されています。パラミロンを多く摂取できるのはミドリムシ由来の食品だけであり、今後の研究によっては、もっと多くの働きが見つかるかもしれません。
*1:藻類
主に水中に生息する酸素発生型光合成を行う生物の総称で、正式な分類用語ではありません。葉緑体をもつプランクトンや海藻類がその代表です。
*2:植物は細胞壁が硬く
究極なのが「木」で、微生物や菌類を除けば、木を栄養源にできるのは特殊な酵素をもつシロアリぐらいです。法隆寺など木造建築が千年以上持つことを考えれば、植物を食べるのは大変そうだとわかるのではないでしょうか。
*3:野菜を完全に消化するのは難しく
排泄した便の中から、自分が口にした魚や肉の痕跡を見つけるのは難しいですが、ニンジン、ゴボウ、トウモロコシから葉物まで、野菜はけっこうそのまま出てきます。
石川 憲二(いしかわけんじ)
ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。
