ミドリムシ燃料が地球温暖化を止める?【ミドリムシと藻類が切り拓く未来 第2回】
2022/04/19
連載の目次
- 第1回 ミドリムシって、そもそもどんなやつ?
- 第2回 ミドリムシ燃料が地球温暖化を止める?
- 第3回 石油に頼らないプラスチックスを!
- 第4回 地球をクリーンにするスーパー藻類たち
- 第5回 石油価格が上がればミドリムシが元気になる
(タイトルは変更となる場合があります)
前回は、ミドリムシ(ユーグレナ)の生み出すさまざまな物質のうち、食品向けに有効な栄養素について説明しました。しかし、この生物から得られるものは食用資源だけではありません。中でも注目されているのが、石油に代わる新燃料です。
バス、船舶からジェット機まで
燃料として一般的な都市ガス(天然ガス)、プロパンガス(液化石油ガス)、ガソリン(ナフサ)、灯油・ジェット燃料(ケロシン)、ディーゼル燃料(軽油)などの主成分は、炭素と水素から成る炭化水素です。それぞれの違いは1分子あたりの炭素原子の数でしかなく、少ないほど揮発性が高く、多いほど粘度が増して重い油になります。

表1:炭化水素燃料の分類(内容筆者作成)
言うまでもなく、これらの炭化水素燃料は化石燃料*1由来であることから、大量に使用すると地球温暖化の要因になりかねません。このため、今後はさまざまな形で利用が制限されていくとみられ、代替エネルギーの開発が急がれています。
そこで注目されるのがバイオ燃料です。トウモロコシやサトウキビといった安い穀物を発酵させてつくるバイオエタノールなどのバイオアルコールはその一つで、ガソリンに混合する形で自動車燃料として実用化されています。また、植物油を改質してつくるバイオディーゼル燃料も徐々に普及が進んできました。

図1:化石燃料とバイオ燃料
バイオ燃料は、原料となる植物が光合成により二酸化炭素を吸収することから、カーボンニュートラル*2実現の切り札として期待されています。しかし、穀物由来のものは食料との競合から、あまり大々的に生産できません。そこで新たな原料として着目され始めたのが、ミドリムシなどの藻類なのです。
ミドリムシ由来の燃料の研究・開発において、最も先頭を走っているのは、世界で初めてミドリムシの屋外大量培養に成功した日本のバイオベンチャー企業「ユーグレナ」*3です。2010年頃から石油代替燃料の実用化に向けたプロジェクトをエネルギー会社やインフラ企業、自動車会社などとスタートさせ、2020年には「サステオ」の名称で燃料の供給を始めました。
サステナブル(持続可能)な燃料という意味が込められた「サステオ」には、現在、2種類の製品があります。一つはバイオディーゼル燃料で、ミドリムシから生産される油脂を使用済みの食用油に混合することで、バスや船舶の燃料となる軽油と同等の性能を実現しました。もう一つはジェット燃料で、既存の燃料に最大50%混合することができ、石油の使用を大幅に減らせます。
生産効率は穀物バイオ燃料の300〜800倍!
新しいバイオ燃料としてミドリムシなど藻類由来のものに期待が集まる理由は、食料に影響を及ぼさないからだけではありません。注目すべきは生産性の高さでしょう。
藻類バイオマスエネルギー研究の第一人者である筑波大学生命環境系研究フェローの渡邉信氏*4によると、単位面積で比べた場合、藻類バイオ燃料の生産効率はトウモロコシなど穀物のものに比べて300〜800倍以上にもなるそうです。つまり、それだけ低コストでつくれるわけで、この点は代替燃料としての競争力の高さにつながります。
それにしても、なぜ、藻類によるオイルの生産性は高いのでしょうか。第一の理由は、植物に比べて構造がシンプルであるため、活動に伴う「無駄」が少ない*5からだと考えられます。また、水流によって移動できることから、生産プラントを工夫することで効率よく光合成を行わせることもできます。
藻類は地球最古の生物の一つであり、最も早い時期から光合成を始めて地球の大気をつくったといわれています。ちなみに、石油の原料もほとんどが藻類であり、それだけでも多くのエネルギーを生み出せることがわかるでしょう。そんな彼らの持つ力を最大限に発揮させてあげれば、必ず人類のために役立つはずです。
*1:化石燃料
石油や天然ガス、石炭などの総称。地中に堆積した動植物などの死骸が変成してできるため、こう呼ばれます。
*2:カーボンニュートラル
二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量から、植林・森林管理などによる吸収量を差し引き、合計を実質的にゼロにすること。2050年までの実現が目指されています。
*3:ユーグレナ
ミドリムシなど微細藻類の研究開発、生産、関連商品の製造・販売などを行っている企業で、2005年に設立された。
https://www.euglena.jp/
*4:渡邉信氏
MoBiol藻類研究所という企業の社長も務め、藻類バイオマスエネルギーの事業化を進めています。詳しくは以下の記事を参照にしてください。
『日本を産油国にする』と宣言して顰蹙を買った藻類バイオマスエネルギーが、再び注目される3つの理由」(PRESIDENT Online)
*5:活動に伴う「無駄」が少ない
多くの植物では光合成を行うための葉が重なって生えており、それだけでも光合成では無駄になっていることがわかります。ミドリムシのような単細胞生物では、光合成のできる個体だけが生き延びるので、自然に最適化されていきます。
石川 憲二(いしかわけんじ)
ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。
