【化学業界の基礎知識 -SCM編-】第4回 転ばぬ先のリスク対策
2022/03/29
連載の目次
- 第1回 物流よりロジスティクスより大きなサプライチェーンマネジメント
- 第2回 成功の鍵はサプライチェーンの可視化
- 第3回 業界ごとに異なるサプライチェーンと管理方法
- 第4回 転ばぬ先のリスク対策
- 第5回 今後のサプライチェーンマネジメントに情報共有と技術導入は必須
サプライチェーンのリスクにはどんなものがある?
①地震などの自然災害、②火災などの事故・事件、③機密漏洩などの人的問題、④公害など法的リスク、⑥戦争や紛争などの政治・経済リスクが挙げられます。
これらのリスクが現実化したときの損失には、①サプライチェーンの一時的な途絶によるビジネス機会の喪失、②サプライチェーンの一時的な寸断による事業活動縮小、③サプライチェーンを復旧できないことによる顧客離れと業績悪化などが考えられます。
最近は、サプライチェーンもグローバル化、またIT化していて、ウィルス感染、サイバー攻撃などリスクが広域化し、環境問題や、人権問題なども影響も増加しています。
サプライチェーンのリスクにどう対処すればよい?
「サプライチェーン・リスクマネジメント」(SCRM:Supply Chain Risk Management)という手法が確立されています。具体策は次の項目で詳しく紹介します。
サプライチェーンを阻害するリスクは上記のように多く存在しますが、ビジネスの競争環境においてはある程度のリスクをとることが必要になります。従って、効率性とサプライチェーンの安定性のバランスを全体最適の考えに基づいて図ることが求められます。すなわち、リスクに関する社会や取引先の要求、また契約、法律・規則などにおける要請を満たし、リスクを未然に防止し、発生時には迅速に回復させる管理能力が求められます。逆に、こうした対応ぶりを示せると関係先から信頼を得ることができます。

SCRMの具体策はどういったもの?
サプライチェーンのリスク管理には、リスクの特定、評価、処理、監視の4つのプロセスが含まれます。主要商品のチェーンの各ノード、つまりサプライヤー、プラント、倉庫、輸送ルート毎にリスクを特定し、リスクの規模や影響度を評価し、処理し、リアルタイムで監視します。
例えば、原料や部品の品質不良あるいは異物混入といったリスクでは、最終製品になって市場に出てから初めて気づくというケースがありますが、そうならないために定期的な監視や、異常・変化の早期検知が必要です。
また、被災時の対応マニュアルをつくるなど具体的な対応計画を策定しておくことが重要です。SCRMは一過性の手順ではありません。継続的なリスク管理のしくみが必要であり、教育と周知徹底が大事になります。
リスクに対してどのように備えておくべき?
事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)を立てておくことが大切です。
災害や事故などの発生時に、その被害を最小限に抑えて事業の継続または早期復旧を図るための計画を、事業継続計画(BCP)といいます。災害や事故発生直後は、普段の事業を行えません。そうした中で的確にBCPを発動できるようにしなくてはなりません。
BCPには以下のような主要項目があります。
1. 事業の中断や停止による会社への影響度を測る。
2. 継続または早期復旧する上で優先度の高い業務項目を絞る。
3. 復旧時間の目標を決める。
4. 事業継続に必要な資源(人・商品・サービス・情報)への発動基準を決める。
とくに4のためには、誰であっても発動できるよう、発動基準を明確にしておく必要があります。
平時の状況変化に対応するにはどのような力が必要?
レジリエンシー(Resiliency)をもつことが重要となります。
レジリエンシーは「回復力」ともいいます。これは、変化に直面しても持続、適応、または変革することのできる能力を指します。
レジリエンシーを強化するため具体策として、次のような例があります。
1. 供給先の分散化と、原料・製品の標準化
サプライヤー1社のカスタム品や唯一の供給ルートに依存するよりも、標準化されたマルチソース(複数の供給源)の商品を採用する。
2. 水平連携 (横連携)を図る
グループ企業や取引先だけでなく、代替品の調達先として競合先や異業種とのダイナミックな連携も視野に入れ、関係性を築いておく。
3. 柔軟なロジスティクスを検討する
貨車、トラック、航空機のように、複数の輸送手段の選択肢を考えておく。
4. 事業中断保険の採用や積極的な取引関係管理
相手先との相互理解を深めたり、信頼関係を築いたりしておく。
5. 製品の代替、および他の形態により下流側のサプライチェーンを管理する
顧客の支援を得ることも考える。
SCRM関連の規格はある?
国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)のISO28000シリーズがあります。
2001年9月11日に発生した米国同時多発テロ事件を契機に、国際輸送に関するセキュリティ対策が進展しました。ISO28000シリーズは、国際間のサプライチェーンあるいは、その部分を構成するロジスティクスに携わる企業や組織におけるセキュリティマネジメント規格で、テロリストなどへの対応を意図しています。
同シリーズには例えば、ISO28002:2011「サプライチェーンのためのセキュリティマネジメントシステム」があります。また、2012年5月には、事業継続に関する国際標準規格として、ISO22301:2012「社会セキュリティBCMS要求事項」が出ています。
BCP関連の資料として役立つものは?
経済産業省や同省の外局である中小企業庁などの政府機関が発表しているBCPのガイドラインが参考になります。
特に、中小企業庁は「BCP策定・運用状況の自己診断チェックリスト」を提供しており、完成度の高いBCPを策定するための参考にできます。
不確実性や未知性を伴うリスクにどう対応すればよい?
リスクの存在を意識した企業文化をつくることと、SCRMやBCPによって強力な防御体制を構築しておくことが最善策といえます。
不確実性は今日のビジネスでは至るところにあります。商品サイクルの短期化、景気変動の増大、そしてサプライチェーンの地理的分散と複雑化が進み、ローカルな中堅以下の企業でさえも、遠い海外の環境変化に大きな影響を受けるようになっています。そのため、その企業にとって経験したことのない未知のリスクの発生が予想されます。しかも、そうしたリスクは、予測が不可能ないし非常に困難なものだったりします。
こうしたリスクの軽減は、リスクを意識した企業文化をつくり、SCRMやBCPによって強力な防御を構築することによって達成されます。
今後のサプライチェーンに求められることは?
リスク管理のレベルを上げることです。
以前は、調達先や取引条件を検討するとき、もっぱら品質や価格が重視されていました。今後はこれらだけでなく、迅速な復旧を図れるか、また迅速な代替手段を利用できるかといったリスク管理上の課題を考慮し、そのレベルを上げることがビジネス競争上の差別化につながります。
サプライチェーンのリスク対策はやるべきことがたくさん!
サプライチェーンの複線化を含めた、リスクの分散化が求められます。また、グループ企業の範囲を超えた水平連携(横連携)の促進も大切です。そして、対処のしかたを個別に行うのでなく標準化させることも求められます。他にも、有事において何を優先すべきかを踏まえた戦略の策定や、BCPなどによるリスク管理の強化が鍵を握ります。
次回は第5回「今後のサプライチェーンマネジメントに情報共有と技術導入は必須」の予定です。ご期待ください!
鹿子島 達志(Tatsushi Kagoshima)/ SCE・Net
1949年生まれ。九州大学工学部卒。鐘淵化学工業(株)(現カネカ)他2社を経験。生産技術や調達部門にて多くの大型海外工場建設の責任者として従事。マレーシアにエンジ会社のMD(社長)として2年間駐在。化学工学会のコストエンジニアリング部会員で活動、SCE・Net会員。現在、生産技術コンサル業のイーグレテック代表。
