【化学業界の基礎知識 -SCM編-】第3回 業界ごとに異なるサプライチェーンと管理方法
2022/03/22
連載の目次
- 第1回 物流よりロジスティクスより大きなサプライチェーンマネジメント
- 第2回 成功の鍵はサプライチェーンの可視化
- 第3回 業界ごとに異なるサプライチェーンと管理方法
- 第4回 転ばぬ先のリスク対策
- 第5回 今後のサプライチェーンマネジメントに情報共有と技術導入は必須
各業界におけるサプライチェーンマネジメント(SCM)を分析するときのポイントは?
各業界のサプライチェーンマネジメント(SCM:Supply Chain Management)を分析する場合、次のことが重要となります。
1. 仕事のやり方が、業界特有か一般的か。
2. 市場のあり方が、閉鎖的か開放的か。
3. 顧客層が、不特定多数か否か。
4. 製品が、標準品か特製品か。
5. 生産方式が、大量生産か受注生産か。
これらについて、各業界の対応のしかたが異なります。しかも、近年は物流手段や情報技術の進展で、様変わりも起きており、各業界のサプライチェーンマネジメントの見直しが必要となっています。
以下で、日本における主要業界のサプライチェーンマネジメントの概要を見ていくことにします。
自動車業界のSCMはどういったもの?
品種の多種多様さ、サプライヤーの多さ、製品の消費者ニーズ直結性などを背景としたものです。
自動車業界は、自動車部品業界も含めると、国内の年間売上高約100兆円の規模です。就業員数は約44万人で、関連業界を含めると540万人です。その特徴としては、多種多様な原材料、部品、製品が生産に必要であること、またサプライヤーが国内外に約200社以上あること、さらに製品が消費者ニーズに直結していることを挙げることができます。
これらの、規模の大きさと複雑さから、適正なSCMが構築されてなければ生産計画や販売計画が十分に機能しません。
代表的な生産システムとしてはよく知られる「トヨタカンバン方式」があり、自動車業界のSCMを構築する要素となっています。現在はデジタル化された「電子カンバン方式」の導入も進んでいます。
今後は、モノのインターネット(IoT)や人工知能(AI)を、SCM全般に活用した全体最適化がされていくことになりそうです。この点については、第5回「今後のサプライチェーンマネジメントに情報共有と技術導入は必須」で詳しく説明します。

半導体業界のSCMはどういったもの?
垂直統合型から水平分業型へ、そして最近は垂直統合型に回帰しつつあります。
日本の半導体産業の規模は、年間売上高6.3兆円、就業員数12.6万人程で、さほど大きくありません。1980 年代後半には世界シェア 50%強でしたが、現在は10%以下となっています。
2000年代初頭、従来の垂直統合型から水平分業型へとSCMのモデルが変化しました。現在は、再び垂直統合型へ回帰するという見方があります。
今後は、半導体のアプリケーションであるAI、第5世代移動通信システム(5G)、IoT、自動運転などをめぐる競争力向上のため、新時代のSCMを構築していく必要も出てきそうです。海外企業との協業によるグローバルな展開の重要性が増してきています。
医薬品業界のSCMはどういったもの?
製造や流通の「適正さ」が求められる中でのプロセス管理となります。
日本の医薬品業界は、年間売上高12.4兆円、就業員数7.3万人程の規模です。国別の市場規模としては、米国、中国に次ぐ世界3位の位置にあります。
市場には2種類の販売形態があります。一つは「医療用医薬品」であり、約90%を占めます。残りの約10%が、店頭で販売される「一般用医薬品」です。
医薬品業界が抱えるSCMの主な課題は、薬事法に基づいた「適正製造規範」GMP(Good Manufacturing Practice)と、「適正流通基準」GDP(Good Distribution Practice)という管理基準への対応です。生産から消費に至る一連のSCMのプロセスを管理する必要があります。そのポイントは「可視化」と「トレーサビリティ」(情報の追跡可能性)ですが、取り組みは遅れています。電子カルテの導入など、医療情報の基礎データを集積するシステムの構築が求められます。
化学業界のSCMはどういったもの?
在庫が生まれやすい点が特徴であり課題です。
化学業界の規模は、年間売上高31.2兆円で、就業人数は18.5万人程です。決して小さくありません。
化学メーカーはいわば素材メーカーですので、サプライチェーンの上流に位置します。そのため、下流側の企業が最小限の在庫や短いリードタイムを前提としたSCMの運用を行おうとすると、対する素材メーカーの製造リードタイムは一般的に長いので、そこに需要と供給のギャップが生まれます。このギャップを埋めるために、素材メーカーは在庫を持たざるを得ません。
多くの日本の化学メーカーは、海外の大手メーカーとは異なり、商社依存度が高くなっています。海外子会社を含む外部との情報連携強化による需要見込みの精度向上、計画業務の標準化・システム化による企業内のリードタイム短縮、また在庫の適正化への取り組みなどが、SCMでの課題となっています。
廃棄物処理業界のSCMはどういったもの?
「川下から川上へ」というモノの流れが伴う点に特徴があります。
廃棄物処理業界の市場規模は約5.3兆円、また就業人数は約6万人程です。
廃棄物処理プロセスは「収集運搬 → 中間処理 → 最終処分もしくは再利用」といったものです。消費者が出した廃棄物が川下から川上へと流れていくので、「リバースチェーン」ともいいます。このプロセスの管理は、RCM(Reverse Chain Management)といえます。
従来の最終処理では、焼却や埋立てをするのが一般的でした。近年は、産廃物の発生抑制(Reduce)、再生利用(Recycle)、再使用(Reuse)の「3R」を目的とした循環物流が、環境対応面からも必要不可欠となってきています。この循環物流は、人体の血液の流れにえて「静脈物流」とも呼ばれています。従来の物流は「動脈物流」といわれています。
RCMのポイントは、他の業界にもいえることですが、モノと情報の流れをITで管理することにあります。合わせて、SCMにおける設計、調達、生産、流通、販売、さらにRCMにおける回収、廃棄、再利用までの全プロセスを全体最適化する、いわゆる「グリーンサプライチェーンマネジメント」(GSCM:Green Supply Chain Management)の考えが強まっています。
自分の関わっている業界のSCM分析を!
今回の記事で紹介したように、業界ごとにサプライチェーンマネジメントの特徴があります。その特徴を分析しておくことが現在の仕事に取り組む上での土台となりますし、今後のその業界の課題を把握する上でも起点となります。
次回は第4回「転ばぬ先のリスク対策」の予定です。ご期待ください!
鹿子島 達志(Tatsushi Kagoshima)/ SCE・Net
1949年生まれ。九州大学工学部卒。鐘淵化学工業(株)(現カネカ)他2社を経験。生産技術や調達部門にて多くの大型海外工場建設の責任者として従事。マレーシアにエンジ会社のMD(社長)として2年間駐在。化学工学会のコストエンジニアリング部会員で活動、SCE・Net会員。現在、生産技術コンサル業のイーグレテック代表。
