生分解性プラスチックとマイクロプラスチック問題【バイオプラスチックの基礎知識 第5回】
2021/08/24
循環型社会の実現に向け、開発が加速するバイオプラスチック。本連載ではその開発状況や現状の課題、今後の可能性についてお伝えしてきました。最終回となる今回は、マイクロプラスチック問題について取り上げます。
海洋プラスチックごみ問題に対する有効性は?

海洋域でのプラスチック廃棄物の管理問題に対して危機意識が高まっています。特に、マイクロプラスチック問題を中心に生分解性プラスチックの役割に注目が集まっていますが、果たして生分解性プラスチックは真の解決策となるのでしょうか。
環境への放出が避けられない、化粧品のスクラブ剤などに使用されるプラスチックマイクロ粉末(直径5㎜以下)や、組織的な廃棄物管理では対応が難しい使い捨てプラスチック製品(ストロー・カトラリー等)を生分解性プラスチック素材に変えていくことは、散乱ゴミやマイクロプラスチックの発生を確実に抑制する有効な手段の一つです。
ただ、海洋プラスチックゴミを含めた廃棄プラスチックの全体量と、それらから2次的に発生するマイクロプラスチックの量を勘案すると、生分解性プラスチックの効果は限定的であると言わざるを得ません。
生分解性プラスチック製品は、環境中にその廃棄物が散逸したとしても、一定期間が過ぎれば、木材などと同様に分解して、堆積物として残りません。そのためプラスチック廃棄物管理の有望な解決策として、近年再び大きく注目を浴びています。
しかし、微生物による分解は、分解する場所における微生物の種類や状態、温度・湿度などの環境条件に大きく影響されるため、好ましい条件が整備された管理下でないとその効果を最大限に発揮することはできません。さらにその維持管理は容易ではありません。
また、生分解性である事自体が、プラスチック使用時の耐久性、機能性を損ねることにつながれば、廃棄物管理の主流であるリサイクルやリユースとの整合性が取りにくいため、使い捨て前提の用途以外では、使用範囲が限定されてしまいます。
さらに産業構造的な問題もあり、通常のプラスチックより高コストである事も汎用化を阻む大きな要因となっています。今後も、生分解性という機能的な特長を有効に活用できる農園芸用や、回収・リサイクルの困難な使い捨て用途に特化した分野での活用が主でしょう。
センセーショナルな情報に惑わされていないか?

マイクロプラスチック問題が、社会的に大きな関心を浴び、多くの危険性が指摘されています。確かに、海岸区域でのマイクロプラスチック(マイクロビーズ)の散見、思いもかけない場所(魚介類や鯨類の体内、海上・大気中など)からの発見、マイクロビーズ表面での有害物質蓄積の検出結果など、センセーショナルな学術論文、報告書が多く発表されています。
ただ、その内容は必ずしも論理的であるとは言い難いです。例えば、マイクロプラスチックの危険性が発信された初期には、ポリ塩化ビフェニル(PCB)等の毒性物質の高濃度吸着等が問題視されました。しかしプラスチック表面は親油性であることから、油性の強いPCBなどが吸着することは、いわば当然のことです。他の油性物質に比べて、特にPCBの吸着量が多いのかどうか? あるいは、実際の自然環境条件下で、吸着濃度がどの程度上昇するのか? 比表面積の大きいマイクロプラスチックと一般のプラスチック表面の面積当たりの吸着量(密度)について差があるのか? などについて、詳しい検証や数値的な考察がなされた情報は、著者の調べた範囲では見当たりません。
今後の課題として、徒に、センセーショナルな情報に惑わされず、環境全体への影響度を勘案した、マイクロプラスチックの影響のアセスメントとそれに対応した対策・施策の策定を期待したいと思います。
猪股 勲(Isao Inomata)/ SCE・Net
東京大学工業化学修士課程修了。三菱ケミカル(株)で、石油化学関連の技術開発・事業開発、企画業務に従事。その後、日本バイオプラスチック協会に奉職。石油化学全般、バイオプラスチック、プラスチック廃棄物管理、気候変動などの環境問題に広く精通。2015年よりSCE・Net所属。ITIコンサルタント事務所チーフコンサルタント。
