生分解性プラスチックの開発と課題【バイオプラスチックの基礎知識 第2回】
2021/07/13
循環型社会の実現に向け、開発が加速するバイオプラスチック。本連載では、その開発状況や現状の課題、今後の可能性についてお伝えしていきます。
連載の目次
第2回:生分解性プラスチックの開発と課題
第3回:バイオマスプラスチックの開発と課題
第4回:政府の取り組み「バイオプラスチック導入ロードマップ」
第5回:生分解性プラスチックとマイクロプラスチック問題
生分解性プラスチックとは
前回の記事では、バイオプラスチックには2種類あること、つまり「生分解性プラスチック」と「バイオマスプラスチック」の総称が「バイオプラスチック」であることをお伝えしました。今回、焦点を当てるのは前者の生分解性プラスチックについてです。
生分解性プラスチックは、生体内で非酵素的に分解され、その分解過程でも生体に悪影響を与えない事から正確には「生体適合性プラスチック」と呼ばれます。さらに医療用プラスチックと、一般生分解性プラスチックに分けることができます。
医療用プラスチックは、手術用縫合糸を始めとする外科治療用の素材や、再生医療用の素材などとして使用されるものです。一般生分解性プラスチックは、使用後に、自然環境中の微生物などにより酵素的に分解され、最終的に水と二酸化炭素に完全に分解されるものです。ここでは、一般用生分解性プラスチックについて、説明します。

(画像はイメージ、以下同)
現在、市場にはさまざまな生分解性プラスチックがありますが、「分解されること」がその条件であり、原料は必ずしもバイオマスである必要はありません。化石資源(主に石油)から合成されているものもあります。
再生可能なバイオマス原料から作られているものでは、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA、微生物産生系ポリエステル)、ポリグリコール酸(PGA)、カゼイン、変性澱粉、低置換度セルロースアセテートなどが代表的です。
一方、石油由来のものとしては、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンテレフタレートアジペート(PBAT)、ポリブチレンサクシネート(PBS)などがあります。
PBS は、近年、三菱ケミカルとタイ企業の折半出資子会社 PTT MCC Biochem Company Limited(PTTMCC Biochem社)が、主用原料となるコハク酸のバイオ原料化を実施し、再生可能資源由来に変わりました。※1
生分解性プラスチックの課題は?
プラスチック製品の廃棄物対策は、従来から多くの取り組みが進められてきましたが、依然として、解決されていません。特に近年は最終滞留場所となる、海洋プラスチックゴミの脅威が叫ばれています。
生分解性プラスチック製品は、散乱ゴミとなって廃棄されても、一定期間を経ると、環境下で分解されることから、その活用が期待されてきました。しかし、生分解性プラスチックは、その機能維持のための化学構造の制約とコスト条件、つまり性能と経済性の両面に困難があり、汎用プラスチックの大部分の代替には至っていません。
そのため、生分解性プラスチック製品はプラスチック廃棄物管理の主流とはならず、省資源・省エネルギー(3R)に加えて、エネルギー回収(Recovery)を中心とした取り組みが資源有効活用(Resource Efficiency)の観点から推進されています。

現状、生分解性プラスチックは、その機能を有効に活用できる分野を軸に、例えばマルチフィルムなどの農園芸用資材や、回収再利用の困難な使い捨てプラスチック製品、化粧品関連のマイクロプラスチック粉末素材などの用途に限定的に使われています。
一方、ヨーロッパをはじめ海外では、工業的な大型堆肥化処理装置の整備と、有機資源ごみの分別回収システムが整備されている国で、食品残渣、植物廃棄物資源などの収集袋等に活発に使われています。日本では、一部の地方都市の自主的な取り組みにとどまっています。
海洋プラ問題の切り札となるか?
世界的な課題である海洋プラスチック汚染。その解決に向けた取り組みとして、生分解性プラスチックの活用が注目されており、世界的に、開発を促進する動きがあります。

日本でも、経済産業省が「海洋生分解性プラスチック開発・導入普及ロードマップ」を作成しているほか※2、環境省が関係事業者(容器包装等の素材製造事業者、加工事業者、利用事業者)の連携を強化する「クリー ン・オーシャン・マテリアル・アライアンス」(Clean Ocean Material Alliance; CLOMA(クロマ))が設立する※3などの取り組みが報告されています。
しかし、海洋プラスチックゴミ問題解決策のなかで、生分解性プラスチックが寄与できる分野は、量的にも分野的にも限定的です。より効果的な取り組みとして、使い捨てプラスチック製品や、化粧品配合のマイクロプラスチック粉末など、環境流出が避けられないような製品分野で、生分解性プラスチック素材への置き換えが進むことが望まれています。
【参考文献】
※1 三菱ケミカル 生分解性樹脂 BioPBS™(バイオPBS)
https://www.m-chemical.co.jp/products/departments/mcc/sustainable/product/1200364_7166.html
※2 経済産業省 海洋生分解性プラスチック開発・導入普及ロードマップを策定
https://www.meti.go.jp/press/2019/05/20190507002/20190507002.html
※3 環境省 海洋プラスチックごみ対策に係る取組について
猪股 勲(Isao Inomata)/ SCE・Net
東京大学工業化学修士課程修了。三菱ケミカル(株)で、石油化学関連の技術開発・事業開発、企画業務に従事。その後、日本バイオプラスチック協会に奉職。石油化学全般、バイオプラスチック、プラスチック廃棄物管理、気候変動などの環境問題に広く精通。2015年よりSCE・Net所属。ITIコンサルタント事務所チーフコンサルタント。
