【化学業界の基礎知識 -品質管理と製品規格編-】連載がスタートします!
2021/10/07
Chematelsの「化学業界の基礎知識」は、化学業界に入って間もない方や、興味を抱いている方、業務スキルをさらに高めたい方に向け、役に立つ基礎的な知識・情報をお届けする企画です。これまで「契約書類編」「製品安全編」「輸出入業務編」で、好評をいただきました。
このたび、「品質管理と製品規格編」がスタートします。全4回の連載に先立ち、今回はその予告として、少しだけ本編の内容に触れてみることにします。
「品質」「規格」は耳慣れた言葉だけど…
「品質」や「規格」はよく耳にする言葉で、日本が得意とする分野であると理解されている方も多いと思います。しかし、「品質管理」や「製品規格」となると、しっかり理解されている方は少ないのではないでしょうか。これらの言葉は、日本の先進工業技術の根幹を支えてきたキーワードとも言えます。ここでは、品質管理や製品規格に関連する「JIS」や「ISO」といった規格について、触れていきたいと思います。
「品質管理」に狭義と広義の二つの意味
品質管理とは、製品やサービスの品質を好ましい形に管理していくことです。「品質管理」という言葉には、広義の意味と狭義の意味の二つがあります。
狭義の品質管理は、企業の生産現場における「モノ(製品)の品質の管理」を指している言葉です。一方、広義の品質管理は、「マネジメントとしての品質の管理」を指しており、「品質マネジメント」として知られています。
三つの「品質」が要求される
生産現場での品質管理には三つの品質、すなわち、設計品質、合致品質、適合品質が要求されます。
設計品質とは、 設計者が目標とする品質規格のことであり、狙った品質ともいえます。設計品質については、規格を高く設定するほどコストも上昇するため、利益を得られる範囲で仕様を設定する必要があります。
合致品質は、買い手の要求を満たす品質のことです。
また、適合品質は、製品特性やサービスの水準が規定や需要に適合しているかという実際的な品質のことを指します。適合品質を高めるには検査が必要となりますが、検査基準を過剰に厳しくすれば、コストが上昇することになります。
このように、設計品質や適合品質はコスト面での改善はできますが、そのコントロールは品質マネジメントという広義での品質管理が鍵となります。
戦後、発展した日本での品質管理
「品質管理」(QC:Quality Control) という言葉は、1931年に米国ベル研究所のウォルター・シューハートが、統計学を基礎にした品質管理図を提唱した際に使ったのが始まりといわれています。

表1 キーワードに見る日本の品質管理の歴史
日本では、戦後飛躍的に品質管理が進みましたが、国内における品質管理の歴史を表1にまとめました。1950年代初期まで、メイド・イン・ジャパンは「安かろう、悪かろう」という粗悪品の代名詞であり、製品の品質向上が多くの企業にとって課題でした。そこで、1946年に創立した日本科学技術連盟は、米国よりウィリアム・エドワーズ・デミング氏やジョセフ・ジュラン氏を招聘し、管理図や抜取検査などの統計的手法のセミナーを開催しました。ジュラン氏は、製造や検査の範囲に限られていた統計的品質管理(SQC:Statistical Quality Control)の考え方を拡大し、経営の道具として位置づけ、日本の産業界に多大な影響を与えました。
1960年代に入り、東京大学工学部教授だった石川馨氏により『現場とQC』誌が創刊されるとともに、小集団活動であるQCサークルが多くの企業で導入されました。これにより統計的品質管理が製造現場を中心に根付き、日本製品の品質が飛躍的に向上したのです。
1970年代の後期、品質管理活動は、製造業以外の建設業、通信業、サービス業など多くの業種でも導入・推進されるようになりました。1980年代に入ると、日本は経済成長を遂げるとともにコスト競争力を失いましたが、日本企業の多くは、質のよい製品・サービスをつくり上げることで、コストに代わる競争力を獲得しようとしました。
こうした経緯を経て企業が品質を総合的に捉え、組織全体でこれをよくするべく活動した結果、全社的品質管理(TQC:Total Quality Control)が誕生しました。
品質管理に用いられる手法については従来、人の目による検査が一般的でした。しかし近年では、品質管理のデジタル化が進んだことで、表2にまとめたような手法が一般的となりました。

表2 品質管理に用いられる手法
規格と標準化により利便性は向上する
JIS規格、ISO規格、IEC規格といったものをよく耳にすると思います。「規格」とは、工業製品の寸法や形状、材質などの標準を決め、その「取り決め」を文章化したものです。規格には、用語・記号・単位・標準数など、共通事項の規定である基本規格、試験・分析・検査および測定の方法・作業標準などの規定である方法規格、それに製品の形状・寸法・材質・品質・性能・機能などの規定製品規格が挙げられます。
標準となる取り決めを定義することを「標準化」とよびます。もし、工業製品の設計・生産で、それぞれが自由にものづくりをすれば、多様化、複雑化、無秩序化をもたらし、効率の悪化によるコストアップが生じてしまいかねません。そのため工業製品の統一や単純化を図る必要が生まれてきます。
標準化することの利点は、消費者の利便性の向上にあります。つまり、異なるメーカーの商品、また機械部品や電気製品を使用した場合でも、消費者が同じように使うことができることが標準化の意義といえます。それ以外にも、利便性や相互性の確保、生産コストの低減、開発のスピードアップ、安全の確保、環境保全への配慮、などの利点が挙げられます。
JIS規格・ISO規格・IEC規格の関係性
日本産業規格(JIS:Japanese Industrial Standard)は、工業標準化の促進などを目的に制定された工業標準化法に基づき、1949年に制定された日本の国家規格です。2019年7月までは日本工業規格とよばれていました。JISは国内規格ですが、国際規格であるISO規格やIEC規格などの国際規格とも整合性が図られています。物・サービスの国際取引が増大し、世界経済のボーダレス化が進んでいるからです。例えば、多くの製造事業者が取得している「JIS Q 9000:2015 品質マネジメントシステム-基本及び用語」という規定の文書を見ると、括弧書きで「(ISO 9000:2015)」と、ISO規格にも通じていることが明記されています。
ISO規格は、国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)はスイスの非営利法人が定めた規格のことです。ISO規格にはさまざまな分野のものがありますが、よく知られたISO9001は品質マネジメントシステムに関する規格です。これは“ものの品質”ではなく“組織の品質”と理解されています。
IEC規格は、国際電気標準会議(IEC:International Electrotechnical Commission)が定めた規格です。IECはISOで取り扱っていない、電気・電子技術分野の国際規格の策定を行っている国際標準化機関です。1906年に13か国で発足し、「電気および電子の技術分野における標準化のすべての問題および規格適合性評価のような関連事項に関する国際協力を促進し、これによって国際理解を促進すること」を目的にしています。2020年3月現在、正会員と準会員を合わせて88か国が参加し、7,500以上の規格を管理しています。
連載の目次
- 第1回:規格があるから電池ホルダにパナ製もソニー製もはまるー日本産業規格(JIS)
- 第2回:顧客満足のためISOにイソしもう!ーISO9001
- 第3回:自動車は品質管理のカタマリ!ーIATF16949
- 第4回:環境保全時代における企業のパスポートーISO14001
次回は第1回「規格があるから電池ホルダにパナ製もソニー製もはまる―日本産業規格(JIS)」です。ご期待ください。
中尾 眞(Makoto Nakao)/ SCE・Net
1948年生まれ。東京大学大学院化学工学修了。旭硝子(株)にて研究開発部、化学品営業部などに在籍し、イオン交換膜法食塩電解技術関連の開発・営業およびPEM燃料電池開発に従事。2006年より(公社)化学工学会SCE・Netの活動に参加し、現在代表幹事を務める。
