MIはデータなしではならぬもの(船津公人教授インタビュー後編)【探れ! マテリアルズ・インフォマティクス 第3回】
2021/01/07
第2回はこちら:MIでまぐれ当たりを必然に(船津公人教授インタビュー前編)
情報を駆使した化学研究の第一人者、東京大学の船津公人教授に、MI(マテリアルズ・インフォマティクス)について解説していただいています。後編では、MI活用に向けて必要な人材像、またMI関連分野の将来性や課題について船津教授にお話を聞きます。
MIを進めていくには、どんな人材が必要?
単刀直入に言えば、私は化学者がMIの勉強をするのが一番だと思っています。化学の知識・経験は一朝一夕で身につくものではありませんが、情報技術はそうでもありません。手法は検索すれば出てくるし、実例もごろごろとあります。適切に使うことさえできれば、あっという間に自分のものにできるでしょう。それが難しければ、情報科学分野の人とコラボレーションすることです。この場合、それぞれが使う専門用語については、互いに勉強する必要が出てきますね。
また、実際にMIを企業で導入するということになれば、現場だけがMIに詳しくてもいけないでしょう。経営者のような立場の人が、どの部門でどんな風に活用するのかを研究開発の枠組みの中で戦略的に考える必要が出てきます。どのくらい使える技術なのか、また、どう使えば全体的な波及効果が狙えるのかといった全体のことを、ビジネス的な視点から捉えるセンスが必要になります。化学者は「恋する材料へぞっこん」となりがちですが、経営者はそういきませんね。
将来的にはMIはどう発展し、どんな人材が求められますか?

図1 船津教授が示す「自動化化学」のビジョン
私は、将来的に「自動化化学(Automated Chemistry)」が進むと考えています。これは、欲しい機能を入力すれば、MIが出す提案をもとに合成ロボットが材料を作り、作った材料の計測も自動で行って分析データを出してくれるというものです。出てきた新しい分析データをMIの計算データとして追加してモデルの再構築を行えば、より良いロボット制御が可能になります。ロボットとMIを組み合わせて自動化することで、さらなる材料開発の高速化が図れます。
ここで大事になるのは、ただ実験を行うだけの人が要らなくなり、代わりにロボットや計算機にどのような作業をさせるかを能動的に考える役割の人が必要になるということでしょう。
現在MIが抱える一番の課題はどんなものですか?
MIを使うときに直面する最大の壁は「必要なデータがない」ということです。MIは既存のデータからモデルをつくりますので、少ないデータでは成果が十分に上がってきません。現状では、利用するデータを海外から借りることも多く、今後のデータ戦略を考える上でも、充実したデータセットを国内で構築していく必要があります。
もちろん長らく基礎研究を行っている企業も少なくありませんが、データの蓄積があるかといえば、そうでもありません。デジタル化されたデータベースがなく、フォーマットもばらばら、さらには部署間での共有がされていないところも多く、潜在的なポテンシャルはあっても生かせていません。データは財産。かけがえのない宝なんです。
重要なのは、着実に一つ一つのデータを積み重ねていくことです。必要なデータ、多様性のあるデータ、そして個性的なデータを均一なフォーマットで独自に格納するしくみを構築することで、ようやく国内でMIを駆使した開発を推し進めることが可能になります。
近年さかんに叫ばれるデジタルトランスフォーメーションの流れもあり、業界内の意識も変わってきました。以前はMIの活用なんて絵空事としか思われていませんでしたが、今では確実に結果が出るということが知られてきています。国レベルでも経済産業省や文部科学省の戦略として、MIの基盤確立に向けた大きなプロジェクトが動いています。
データの大切さにいち早く気づいてMIを使いこなせたものが、この分野の材料開発を制することにつながります。データを持つものが、MIを制するのです。
船津公人(ふなつ・きみと)教授
東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻
兼務・奈良先端科学技術大学院大学
データ駆動型サイエンス創造センター・研究ディレクター
・分子・材料設計、合成経路設計、製造プラントの監視と制御におけるデータ駆動型化学の学術的な礎を築くとともに、その応用・実証研究も進め、化学産業界に対して大きな影響をもたらすことで、現在のマテリアルズ・インフォマティクス、プロセス・インフォマティクスの潮流を確立した。
・2007年から国際シンポジウム“Autumn School on Chemoinformatics”を隔年で主催し、海外から著名な研究者が多く参加。わが国のデータ駆動型化学の世界的認知度を高めた。
・CRESTビッグデータ応用領域において「医薬品創薬から製造までのビッグデータからの知識創出基盤の確立」を推進。研究代表者(平成25年度~令和元年度、6.5年)を務めるなどし、国内外におけるデータ駆動型化学研究の開拓に対して主導的な役割を果たしてきた。
・これらの功績に対して、 2019年、データ駆動型化学の学問分野で最も権威と歴史のある、アメリカ化学会Herman-Skolnik Awardを受賞。本賞の50年の歴史の中で、欧米以外から初の受賞となった。
本田 隆行(ほんだ たかゆき)
科学コミュニケーター 神戸大学大学院 自然科学研究科 地球惑星科学専攻修了(理学修士) 。大学時代の専攻は地球惑星科学。大学院時代に探査機「はやぶさ」理学ミッションに携わる経験を持つ。その後、地方公務員事務職(枚方市役所)・国立科学館勤務を経て、国内でも稀有なフリーランスの科学コミュニケーターとして活動中。展示プランニングや科学実演の実施・監修、大学講師やイベントファシリテーター、サイエンスライティングなど様々な仕事をこなす。著書に「宇宙・天文で働く」(ぺりかん社)
