MIでまぐれ当たりを必然に(船津公人教授インタビュー前編)【探れ! マテリアルズ・インフォマティクス 第2回】
2021/01/06
近年、「MI(マテリアルズ・インフォマティクス)」が注目を集めています。でも、「聞いたことあるけど、なんだか難しそう…」とか、「機械学習を使う? アナログ人間なもので、そう言われても…」なんて呟いてしまいがちな方々も多いのでは?
そんな方々にこそお届けしたい! ChematelsプレゼンツのMIインタビュー企画です。
映えあるお一人目は、情報を駆使した化学研究の第一人者、東京大学の船津公人教授です。MIの技術的な特徴などを解説していただきました。
第1回はこちら:経験×情報処理で材料開発が飛躍する
そもそもMIって、なにもの?
新しい分子や材料を生み出す化学研究の現場では多くの場合、これまでの研究結果や経験を基にして実験が行われます。求めていた機能を持つものを誕生させるまでには、失敗を数多く重ねることも少なくありません。もちろん研究者はこれまでにない実験領域を探して研究を進めるわけですが、人の思いつきや考えが及ぶ範囲には、当の本人もあまり気づかない制約があります。「セレンディピティ(serendipity)」と呼ぶような、偶然性の高い成功を果たすこともあるでしょうが、これは奇跡的なものですよね。
MIは、この「探索領域」を広げてくれるような技術です。欲しい特性や機能をインプットすると、「それはこんな条件でできるこんなものじゃないですかね」と返してくれる。用いるデータの量や多様性にもよりますが、ときには研究者がこれまで思いつかなかった領域まで探索してくれるので、極端にいえば「セレンディピティがなくなる技術」とも言えます。
従来の理論計算とMIの計算では、何が違う?
従来行っていた理論計算は、材料の構造や組成を入力すると、そのものが持つ機能や特性といった詳細情報を出してくれるというものでした。実験して出てくる成果物を使って計算するということは結局、欲しいものを見つけ出すまで手探りの実験を続ける必要がありますよね。もちろん、そこには資源的にも時間的にもロスが発生します。

図1 船津教授が示す今後のMIのビジョン
一方、MIはその逆で、欲している機能や特性から、それを満たす材料を見つけ出すというものです。従来の理論計算が「成果物を解釈してくれる順方向のもの」だとすると、MIの計算は「成果物を設計するための逆方向のもの」という関係性です。今まで試行錯誤してきたプロセスを一気に飛び越して、狙いを絞って実験を進めることができる、省エネで時短な手法ということですね。
化学関連企業にとってMI導入のメリットはどこにある?
今お話しした、「省エネで時短」という部分は大きいのではないでしょうか。試行錯誤には人手も時間もかかりますし、その結果として出てきた成果物が使えないものだと物理的なロスも出ます。MIを使えば目的に近い実験を行うだけで良くなり、様々な面で効率化が図れます。
ただ、こうなると化学者は必要なのかと気になる人も出てくるでしょう。確かにMIで行う逆方向の計算による「逆解析」では、使用したデータからつくり出したモデルの範囲内で、狙いの中に入るような物質を網羅的に提案してくれます。しかし、実際のところ使えない提案も出てくるわけです。この判断を行なった上で、出てきた結果が使えるか判断するのは、化学者の重要な役目です。計算機が出す結果を化学者がこれまでの経験と知識を総動員して評価するという、両者のコラボレーションが大事になるわけです。
もしMIが出してきた提案が、過去に誰も手を出していない空白地帯を突いたものだったとき、そこには新たな知見が眠っているかもしれませんよね。こうなると、これまでとは研究のやり方も変わってくることでしょうし、MIの利活用が戦略的な武器になります。現状は、いかに使いこなせるようになるのかを考えて、おのおのが人を育てたりノウハウを貯めたりしているところだと思います。
船津公人(ふなつ・きみと)教授
東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻
兼務・奈良先端科学技術大学院大学
データ駆動型サイエンス創造センター・研究ディレクター
・分子・材料設計、合成経路設計、製造プラントの監視と制御におけるデータ駆動型化学の学術的な礎を築くとともに、その応用・実証研究も進め、化学産業界に対して大きな影響をもたらすことで、現在のマテリアルズ・インフォマティクス、プロセス・インフォマティクスの潮流を確立した。
・2007年から国際シンポジウム“Autumn School on Chemoinformatics”を隔年で主催し、海外から著名な研究者が多く参加。わが国のデータ駆動型化学の世界的認知度を高めた。
・CRESTビッグデータ応用領域において「医薬品創薬から製造までのビッグデータからの知識創出基盤の確立」を推進。研究代表者(平成25年度~令和元年度、6.5年)を務めるなどし、国内外におけるデータ駆動型化学研究の開拓に対して主導的な役割を果たしてきた。
・これらの功績に対して、 2019年、データ駆動型化学の学問分野で最も権威と歴史のある、アメリカ化学会Herman-Skolnik Awardを受賞。本賞の50年の歴史の中で、欧米以外から初の受賞となった。
本田 隆行(ほんだ たかゆき)
科学コミュニケーター 神戸大学大学院 自然科学研究科 地球惑星科学専攻修了(理学修士) 。大学時代の専攻は地球惑星科学。大学院時代に探査機「はやぶさ」理学ミッションに携わる経験を持つ。その後、地方公務員事務職(枚方市役所)・国立科学館勤務を経て、国内でも稀有なフリーランスの科学コミュニケーターとして活動中。展示プランニングや科学実演の実施・監修、大学講師やイベントファシリテーター、サイエンスライティングなど様々な仕事をこなす。著書に「宇宙・天文で働く」(ぺりかん社)
