経験×情報処理で材料開発が飛躍する【探れ! マテリアルズ・インフォマティクス 第1回】
2020/12/10
近年、社会のいたるところでAI(人工知能)や機械学習という言葉をよく見かけるようになりました。将棋や囲碁の相手をしてくれるだけでなく、スマート家電や画像認識技術、さらには医療にも利用されるようになっています。もちろん産業界においても、AI導入の流れは避けられません。化学業界でもAIを用いることでイノベーションを起こそうという動きが徐々に加速しています。
では、「MI」という言葉を聞いて、みなさんはピンと来ますか? もちろん、あの有名なスパイ映画の話をしようというわけではありません。これは、「マテリアルズ・インフォマティクス」(Materials Informatics)の頭文字をとった略称です。これまで材料開発の現場は主に、実験の積み重ねによる経験値と、科学や数学を基にした理論計算に支えられてきました。そこに、膨大なデータから意味ある情報を導き出すデータサイエンスや、人間を超える情報処理能力を発揮するAIのアプローチを組み合わせることで、材料開発を加速的に進めようというのがMIの本質です。
……え、そう言われてもまだピンとこないですって? 聞いたことはあるけど、なんだか難しそうですって? ややこしそうだから専門の人に任せようかな、ですって?
そんなあなたに朗報です。
このサイト「Chematels」(ケマテルズ)では化学製品や化学技術を取り上げていますが、化学の知識に長けている人だけの専門サイトではありません。化学品業界に関わるさまざまな人に広く見ていただくことを目指しています。
そこで筆者は、化学は専門外という人にも、これからますます耳にするであろうMIについて知るきっかけをつくろうと考えました。このサイトによりMIを知ることで、日々の仕事の中に新たな風が吹きますように。
そして、あなたがこのシリーズを読み終える頃には、「なんだかMIって、いろんな可能性を秘めてそうだな……ちょっと足を踏み入れてみようか」と思ってもらえるよう、筆者や編集者もがんばります!
MIが持つ可能性の広さを実感
さて、MIについて取り上げるシリーズを企画したのはいいけれど、どのあたりからMIを伝えたらよいか……。そう思っていたときに開かれたのが、リードエグジビションジャパンが主催する「関西高機能素材week」でした。

図1 2020年10月に大阪で開催された第8回関西高機能素材Weekの来場案内
高機能素材weekは、フィルムやプラスチック、金属、セラミックスなど、あらゆる高機能素材に関する技術が一堂に集まる展示会です。材料メーカーだけでなく、製造技術などを扱う加工業や、材料製品などを取引する商社も出展する大規模な展示会で、毎年、東京と関西で交互に開催されています。
会期中に、MIに関する講演会が実施されました。受講した筆者が感じたのは「MIが持つ可能性の広さ」でした。MIが化学材料開発のスピードを飛躍的に早めるということを感じ取ることができました。

図2 筆者が受講した講演
新しい材料や素材は、何もないところから突然の閃きで生み出されるものではありません。配合する材料の種類や分量の選択、実験器具の選定にはじまり、実験結果の評価に至るまで、長年にわたって数々の困難を乗り越えてきた職人たちの経験や勘が生かされる部分も多いのではないでしょうか。
しかし、いまや何ごとにもスピード感が求められる時代です。新製品を生み出すにも、技術を伝承するにも、あまり時間をかけてはいられません。これまで現場で蓄えられてきた膨大な経験値をデータ化し、大いに活用することを可能にするMIは、いままさに材料開発で直面している課題を解決するためのツールとして、注目されているのです。
加えてMIは、熟練技術者や働き手自体が減少していくという国内産業が直面する課題を解決し、また、産業全体のデジタル化という時代の流れにも適合するということも、この展示会で見通すことができました。
次回以降では、MIに携わる技術者や研究者たちへの取材を通じて、MIの可能性をお伝えする予定です。乞うご期待!
本田 隆行(ほんだ たかゆき)
科学コミュニケーター 神戸大学大学院 自然科学研究科 地球惑星科学専攻修了(理学修士) 。大学時代の専攻は地球惑星科学。大学院時代に探査機「はやぶさ」理学ミッションに携わる経験を持つ。その後、地方公務員事務職(枚方市役所)・国立科学館勤務を経て、国内でも稀有なフリーランスの科学コミュニケーターとして活動中。展示プランニングや科学実演の実施・監修、大学講師やイベントファシリテーター、サイエンスライティングなど様々な仕事をこなす。著書に「宇宙・天文で働く」(ぺりかん社)
