細菌とウイルスの違い【細菌とウイルス 第1回】

2020/10/12


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今回から「細菌とウイルス」と題し、全4回(予定)にわたって解説します。細菌とウイルスは、従来より食品の製造現場では衛生管理において重要なポイントでしたが、今年(2020年)に入ってからあらためて注目されています。

第1回は、細菌とウイルスの違いについて取り上げます。

細菌とウイルスの発見の歴史

細菌とウイルスは、研究の歴史的な流れから見ると「大きさ」で分類されます。

人類が初めて細菌の姿を見た正確な記録は残っていませんが、オランダのアントニ・ファン・レーウェンフック氏が顕微鏡で観察したことで、細菌の存在が広く認識されたといいます。ここでいう顕微鏡とは、小学校の理科の実験で使うような光学顕微鏡であり、0.2μm(0.0002mm)以上のものを見ることができます。

細菌の大きさは種類によってバラバラですが、0.5〜5μmの大きさであるものがほとんどです。ヒトの細胞は直径20μmくらいなので、細菌はそれよりも1〜2桁小さいことになります。

もし、細菌が含まれている液体を、メッシュの大きさが0.2μmフィルタでろ過すれば、細菌を除去できます。ところが、ろ過した液体でも他の生物を病気にさせることができます。これは、「細菌よりもさらに小さい、病気にさせる何か」がいることを示します。

20世紀になると、光学顕微鏡よりもさらに小さいものを見ることができる「電子顕微鏡」が開発されました。さらに1935年、電子顕微鏡で初めて、「細菌よりもさらに小さい、病気にさせるもの」を見つけることができたわけです。これが現在、ウイルスと呼ばれているもので、人類がそれを初めて見た瞬間ということになります。ちなみに、この発見をしたアメリカの研究者ウェンデル・スタンリー氏は、1946年にノーベル化学賞を受賞しました。

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図1 光学顕微鏡で見る細菌とウイルスの大きさの違い

まとめると、20世紀半ばの基準では、「肉眼では見えないが光学顕微鏡で見える」ものが細菌、さらに「細菌の10分の1以下のサイズである」ものがウイルスです。

細菌とウイルスの決定的な違い

20世紀の後半になると、細菌とウイルスに関する研究が盛んに進み、両者の決定的な違いが明らかになってきました。

その違いとは、「自力で生きて子孫を残せるかどうか」です。

「生きている」をどう定義するかはとても難しいので、ここでは生物を構成する「細胞」の定義を考えます。細胞とは、次の3つの性質を持つことであると多くの研究者が同意しています。

1. 自分と周りを分ける境界がある

2. 自分の中の環境を自ら維持できる

3. 自分自身で増殖できる

1について、細菌は脂質に、ウイルスはタンパク質などに囲まれています。問題は2と3です。細菌は細胞分裂ができ、そのためのエネルギーを自分の力で作ることができるので、2と3の条件を満たします。しかしウイルスは、自分の中でエネルギーを作ることができず、他の細胞に侵入し、その細胞の中で初めて自分を増やすことができます。

そのため、「ウイルスの体は細胞ではない」、つまり「生命の構成要素である細胞をウイルスは持たない」、よって「ウイルスは生き物ではない」としています。

ウイルスは本当に「生き物ではない」のか

「ウイルスは生き物ではない」と言われても、直感的には「生き物っぽい」と受け止められても仕方がないと思います。実はそれくらい、私たちはウイルスのこと、さらには細菌のことを知らないということなのです。

最初に、「歴史的に細菌とウイルスの違いは大きさ」と書きましたが、実は細菌よりも大きいウイルスが21世紀になってから多く見つかっています。例えば、パンドラウイルスは大きさが1μmと、小さめの細菌であるといわれるマイコプラズマ(サイズは0.2〜0.8μm)より大きいのです。

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図2 電子顕微鏡で見る細菌とウイルスの大きさの違い

逆に、ウイルスのような細菌もいます。性感染症で有名なクラミジア・トラコマチスは、自分自身でエネルギーを作り、細胞分裂をすることができません。ヒトなどの細胞の中に寄生して、細胞の中にあるエネルギーを借りて自分を増やします。これはまさにウイルスの増殖方法です。

クラミジアを細菌として、つまり生き物としてみなすなら、ウイルスを「生き物ではない」とするのは矛盾しているように見えます。細菌やウイルスの研究が進むほど、「生き物とは何か」という簡単に思える問題が、実は多くの研究者を悩ませているのです。

また、細菌は、食品業界で食中毒を引き起こす原因として敵対視されている一方で、腸内細菌やビール酵母など、私たちに有益なものもあります。ウイルスも、今見つかっているもののほとんどが病気を引き起こすものだといわれますが、今後、さらに研究が進めば、もしかしたら私たちの味方であるウイルスも発見されるかもしれません。

次回は、衛生管理における細菌・ウイルス対策を考えていきます。どうぞお楽しみに。

【参考資料】

池上 彰、岩崎 博史、 田口 英樹『池上彰が聞いてわかった生命のしくみ 東工大で生命科学を学ぶ』(朝日新聞出版) 2020年

Claverie JM, Ogata H. Ten good reasons not to exclude giruses from the evolutionary picture. Nat Rev Microbiol. 2009;7(8):615. doi:10.1038/nrmicro2108-c3

島田 祥輔(しまだしょうすけ)

サイエンスライター 1982年生まれ。名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻修了。特に遺伝子に興味があり、遺伝子の研究によって医療や生活がどう変わっていくのかに注目している。また、腸内細菌検査サービス「マイキンソー」のオウンドメディア「Mykinsoラボ」の編集長を務める。