次亜塩素酸ナトリウムと次亜塩素酸水はどう違うのか【細菌とウイルス 第4回】
「細菌とウイルス」シリーズの第4回のテーマは、塩素系の消毒、除菌について取り上げます。次亜塩素酸ナトリウムと次亜塩素酸水の違いをしっかりと理解して、消費者に誤解を与えることのない表示を心がけてください。
なお、記事中の「消毒」「殺菌」「除菌」の用語の違いについては、【細菌とウイルス】第2回「消毒」「殺菌」「除菌」「滅菌」「抗菌」……これらの違いは?をご覧ください。
次亜塩素酸ナトリウムはアルカリ性で漂白作用もある
次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸ソーダ、NaClO)は、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ、NaOH)と塩素(Cl2)を原料として作られます。物質としては不安定なので、水溶液として保管、使用されます。次亜塩素酸ナトリウム水溶液には漂白作用があるため、キッチン向けの漂白剤として使用されています。
溶液中には次亜塩素酸(HOCl)と次亜塩素酸イオン(OCl-)が存在し、いずれも幅広い細菌やウイルスの活性を弱める効果があります。特に次亜塩素酸のほうが強い作用をもち、酸化作用によって細菌やウイルス表面のタンパク質を破壊することで、毒性を失わせることができます。
溶液中の次亜塩素酸濃度はpHによって変わります。pH5〜6付近の弱酸性で最も濃度が高くなり、これよりpHが高いと、作用がやや弱い次亜塩素酸イオンが増加します。ただ、pHが低いと塩素ガス(許容濃度を超えると死に至ることもある刺激性の気体)が発生しやすくなるため、キッチン用漂白剤などの一般向けの次亜塩素酸ナトリウム水溶液はアルカリ性の状態で販売されています。
除菌目的で使用するときには、次亜塩素酸ナトリウム濃度が0.05%(500ppm)で使用するのがよいとされています。しかし、アルカリ性のため、皮膚に害を与える可能性があり、手指の消毒には不向きです。テーブルなど物品の除菌のために使い、その際には必ず手袋をつける必要があります。
次亜塩素酸水は弱酸性
次亜塩素酸水は、食塩水や塩酸を電気分解して作られる弱酸性の溶液です(次亜塩素酸ナトリウムを希塩酸でpH調整するなど、他の製造方法もあります)。次亜塩素酸ナトリウムと次亜塩素酸水は、製造方法も水溶液の性質も全く異なるものであることに注意してください。
次亜塩素酸水の中にも次亜塩素酸が含まれており、酸化作用によって細菌やウイルス表面のタンパク質を破壊する作用があります。食品業界では、生野菜に付着している細菌やウイルスの殺菌のために、食塩水や塩酸を電気分解して作られた次亜塩素酸水で殺菌処理することがあります。この製造法で作られた次亜塩素酸水は、食品添加物として使用が許可されています。
しかし、「食品添加物だから人体に安全である」と安に主張することはできません。食品添加物としての次亜塩素酸水は、最後に水で洗い流して「最終製品に残ってはいけない」としているからです。食品添加物としての次亜塩素酸水は、口から摂取したり皮膚につけたりすることを想定していません。
有効塩素濃度80ppm以上であれば、拭き掃除としてウイルス量を減らすことができると、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)で確認されています。一般向けに販売する際には、この濃度以上であることが求められます。
ただし、次亜塩素酸水は紫外線で分解されやすく、店頭販売時や保管時に有効塩素濃度が大きく低下する場合があります。つまり、使用期限があるということです。そのため、製品本体に有効塩素濃度やpH、使用方法などを表示し、さらに表示の有効塩素濃度やpHが保証される使用期限も設定し、製品に表示することが求められます。
また、安全性試験と有効性試験の結果を商品パッケージまたはウェブサイトなどで表示することも必要でしょう。
なお、手指を消毒する目的を設定すると、医薬品または医薬部外品の承認を得ていない場合、医薬品医療機器等法(薬機法)違反に問われる可能性があります。薬機法規制の対象外である「除菌」という用語でも、手指や口腔など人体に対して使用することはできません。次亜塩素酸水を除菌グッズとして製造、販売する際には、参考資料に記載した経済産業省の資料などを確認してください。広告表記については、日本広告審査機構や国民生活センターの資料を熟読し、消費者に誤解を与えないようにすることが必須です。
「細菌とウイルス」の連載は今回が最後になります。これまでにないほどウイルスに注目が集まり、急に専門用語や対策製品が多く登場しました。事業者として用語や成分機能を正確に理解し、消費者に正しい情報と製品を届ける責任をもっていただきたいと思います。
【参考資料】
新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)、マスク・消毒液に関するもの問3|厚生労働省
厚生労働省・消費者庁と合同で、新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について取りまとめました (METI/経済産業省)
新型コロナウイルスに有効な界面活性剤を公表します(第二弾) (METI/経済産業省)
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島田 祥輔(しまだしょうすけ)
サイエンスライター 1982年生まれ。名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻修了。特に遺伝子に興味があり、遺伝子の研究によって医療や生活がどう変わっていくのかに注目している。また、腸内細菌検査サービス「マイキンソー」のオウンドメディア「Mykinsoラボ」の編集長を務める。