低温、小型、低価格化への道【燃料電池の基礎知識 第2回】

2020/09/01

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燃料電池に関して解説する連載第2回の今回は、低温・小型・低価格化に向けた技術について解説いたします。

 第1回はこちら:燃料なのに燃やさず発電

■工場やビルの業務用電源として

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表1 燃料電池の種類

既に実用化され、現在も開発が進んでいる主な燃料電池について、表1で紹介しました。これらのうち、一番、右にあるAFC(Alkaline Fuel Cell、アルカリ電解質形燃料電池)はアポロ計画やスペースシャトルなどの宇宙船に搭載された特殊なもので、一般的ではありません。しかし、「コストを考えずに超高性能を目指した」燃料電池の理想の1つではあるので、参考までに載せておきます。

表の中で特に注目したいのが、運転温度の違いです。左に行くほど高くなり、SOFC(Solid Oxide Fuel Cell、固体酸化物形燃料電池)では700~1000℃に及びます。ちなみに、実験などで使うアルコールランプの炎の温度は約1000℃で、ほぼ同等ですから、「本当はこっそり燃料を燃やしているんじゃないか?」と疑ってしまいそうです。もちろん、そんなことはありません。火力発電用ボイラーの燃焼温度は最高で1500℃に達します。それに比べたらはるかに低温であり、このくらいの温度でもちゃんと発電できるところが燃料電池のすごさなのです。

それでも、SOFCやMCFC(Molten Carbonate Fuel Cell、溶融炭酸塩形燃料電池)のように内部が高温になる燃料電池では、発生した熱を利用することでさらにエネルギー効率を高めるシステムや、保護のための冷却システムが必要になるため、装置全体としてはかなり大きくなってしまいます。このため、当初は工場やビルの業務用電源として開発が進められてきたのです。

■小さくするにはコストがかかる

SOFCやMCFCは施設用電源として実用化され、性能面では評価されたものの、数百万~数千万円という導入コストの高さ(*1)がネックとなり、広く普及するには至っていません。今後、100万円クラスの家庭用製品の開発が期待されていますが、補助金頼みの商品であるのは事実でしょう。

そこで、燃料電池の市場を拡大しようと続けられてきたのが、低温化への挑戦です。低い温度で運転できれば装置を小さくでき、家庭用だけでなく、自動車用、さらにスマホやノートPCなどの携帯端末の電源としても利用できる可能性があります。そうなれば量産効果によって価格も下がり、一気に普及していくでしょう。

燃料電池における運転(発電)とは化学反応ですから、その速度は温度に依存します。ほとんどの場合、高温であるほど速く反応するのですが、それを低温でも可能にしてくれるのが、理科の授業で習った触媒です。触媒はそれ自体、変化せず、接触することで反応中間体を形成してくれます。それにより、活性化エネルギーが低くてもスムーズに反応できるようになるのです。

触媒は実に便利な存在ですが、PEFC(Polymer Electrolyte Fuel Cell、固体高分子形燃料電池)やPAFC(Phosphoric Acid Fuel Cell、リン酸形燃料電池)で使われる触媒はプラチナ(白金)を主成分にしたもので、非常に高価(*2)です。このため、初期の燃料電池自動車では、触媒のコストだけで数千万円かかるといわれたほどでした。

ただし、触媒は燃料などとは違い、「量があればいい」というものではありません。少量でも反応する物質に効率よく触れていればいいので、開発が進むうちにプラチナの使用量はかなり少なくなっていきました。最新の情報では、燃料電池車1台当たり10万円程度で済むということです。

将来、プラチナ以外の安価な触媒材料が開発され、さらに装置全体の小型化が進めば、燃料電池はもっと身近な存在になるでしょう。実際、乾電池並みのサイズの製品を開発しようという動きもあるので、その成果に期待したいと思います。

次回は、水素社会の実現をテーマとして解説します。第3回もぜひお付き合いください。

*1導入コストの高さ

工場やビルでは停電時などのバックアップ用として非常用電源を備えるケースが多いのですが、重油などを燃料とする発電機が一般的である上、価格も5分の1程度であるため、特別な理由がない限り、燃料電池は選ばれません。

*2非常に高価

プラチナは産出量が金の20分の1という希少物質であるため、従来は、金よりも高値で取引されていました。しかし近年、さまざまな経済的な不安により金の資産価値が高まり、プラチナの価格との逆転現象が起きています。それでも1グラム当たり3000円以上もする高額商品であるため、使わないで済めばそれに越したことはありません。

石川 憲二(いしかわけんじ)

ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。

公式サイト http://www.ne.jp/asahi/happy/golucky/