燃料なのに燃やさず発電【燃料電池の基礎知識 第1回】
2020/07/21
■古くて新しい燃料電池
燃料電池とは、名前の通り、燃料の持つ化学エネルギーを電気エネルギーに変えて出力する装置のことです。2014年にトヨタ自動車から発売されたMIRAI(ミライ)が「世界初」(同社)の量産型燃料電池乗用車として話題を集めたことから「未来の電源」というイメージを持つ人が多いと思いますが、「グローブ電池」と呼ばれる初期型のものは1839年には開発されているので、実は180年近い歴史があります。しかし、電源として利用するには性能が安定しないなどの問題点があり、なかなか実用化されませんでした。1960年代になると「排気がなく、長期間の使用が可能」という長所を生かしてアメリカの宇宙船に多く採用されるようになるものの、一般的にはあまり知られる存在ではなかったのです。
ところが、1970年代のオイルショック以降、より効率的な発電システムへの期待が高まると、燃料電池が注目されるようになってきます。火力発電のように排ガスや廃棄物(*1)を出さない点も魅力でした。その後、地球温暖化が新たな問題になってくると、二酸化炭素を発生しないことも評価され、研究・開発に拍車がかかります。
20世紀後半は材料革命と呼ばれるほどに多くの新素材が誕生した時期でした。それに後押しされるかたちで燃料電池の性能も大きく向上していきます。今はまさにそんな時代の真っただ中であり、だからこそ、もっと多くの人に正しい知識を持ってほしいのです。
■うまい話には裏がある?
燃料電池の最大の魅力は、火力発電に比べて、高い効率が期待できるところです。どうしてそんなことが可能なのでしょうか?

図1 従来の発電と燃料電池の違い
火力発電の手順はかなり複雑です。まず、石炭や天然ガスなどの燃料をボイラーで燃やし、熱エネルギーを取り出します。次にその熱で蒸気や高圧ガスを発生させてタービンを回し、その動力で発電機を動かすのです。手間が多い分、ロスも大きくなり、大型の火力発電所では燃料に含まれるエネルギーの半分以上が無駄になってしまいます。最近ではエネルギー変換効率を70%近くまで高めた新しい火力発電システムの開発が進んでいるものの、まだ一般的とはいえません。
一方、燃料電池の場合は燃料の化学エネルギーを、直接、電気と熱エネルギーに変換するので、ロスはかなり少なくなります。既に実用化されたものでも50%以上の効率を実現しているだけでなく、将来的には70~80%といった高いレベルが期待されるのです。

図2 燃料電池の仕組み
燃料電池の仕組みを簡単な図にしてみました。電池内に入れられた水素分子は燃料極というブロックで水素イオンと電子に分離し、その電子が回路を流れることで電池として機能します。さらに反対側から空気を取り込むと、含まれる酸素と電池内を移動してきた水素イオン、回路を移動してきた電子とが結合し、水となって外に排出されるのです。この反応を連続的に行うことで、長期間、安定した電源として稼働します。
実に理想的な発電システムなのですが、うまい話には必ず裏があることを忘れてはいけません。要するに、「労働時間は半分なのに給料は倍、そのうえ、世間からの評価も上がる仕事をしませんか?」と誘われても信じてはいけないのと同じで、燃料電池を実用化し、広く社会に普及させていくには解決しなければならない技術課題がたくさんあるのです。
次回以降、より具体的な事例を紹介しながら、読者の皆さまが燃料電池をより身近に感じられるようにしていきます。
*1排ガスや廃棄物
火力発電では二酸化炭素に加えてSOxやNOx、煤(すす)や塵(ちり)、燃焼灰、使用済みの潤滑油などが大量に排出されます。もちろん、これらは適切に処理されますが、その手間も含めて環境負荷はかなり高いのは事実です。
石川 憲二(いしかわけんじ)
ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。
