電波で無電源センシング、液晶でメカレス可変レンズ…大学発の先端技術が切り拓く未来―九州大学・秋田大学【JPCA2026レポート第3回】

2026/08/25

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最先端の電子回路や実装技術が一堂に会する電子機器トータルソリューション展「JPCA Show 2026」。会場では、次世代の産業を牽引する「大学発の革新技術」が多数紹介されていました。今回の展示会レポートでは、実用化と社会実装に向けて着実に歩みを進めている大学発の先端技術にフォーカスします。電波をエネルギーに変換して電池不要のセンシングを実現する九州大学の金谷研究室と、液晶の特性を活かして機械的な可動部なしに焦点を変えられるレンズを開発する秋田大学の河村研究室、この2つのブースから最新の研究成果をお届けします。

電波で無電源センシングが実現する未来へ――空間の電波をエネルギーに変える「環境発電」の可能性
⁠(九州大学 金谷研究室)

九州大学の金谷研究室が強みとしているのは、無線通信用のLSIやアンテナ、フィルタなどの設計から評価までを一貫して行う高度な実装技術です。また,設計する中で、身の回りには目に見えない電波があふれていることに着目。空間を飛ぶ電波を電気エネルギーに変換してセンサーを動かす「環境発電(エネルギーハーベスティング)」の技術へと、研究を展開させていきました。

同研究室の高度な技術を象徴するのが、半導体基板の上に直接作り込まれた極小のアンテナです。テラヘルツ波(300GHz帯や1THz)を受信するアンテナは、肉眼では確認が難しいほどの極小サイズです(図1)。

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図1 実際に展示されていた極小アンテナ(赤丸:素子)
⁠(撮影:編集部)

エネルギーハーベスティングの応用例の1つが、医療分野への展開です。医学部との連携により、腹腔鏡手術で用いる目印用のクリップを開発しています。手術室の電気メスから発生する電磁波を体内に通し、クリップに接続された受信回路でLEDを光らせることで、X線画像で位置を確認する手間や被ばくリスクを軽減します(図2上)。

別の応用例として、インフラ・防災・農業分野もあります。屋外環境では、テレビの電波を利用し、約10km離れた電波塔から電波をキャッチして電池なしでセンサーを稼働させる実験を実施しており、コンクリートの劣化診断や水道メーターの自動検針などへの応用が期待されます。また、防災分野の斜面崩壊監視センサーや、農学部と連携した牧場での家畜の健康管理(ソーラーパネルとセンサーを活用した体温測定)など、幅広い社会課題の解決に役立てられています(図2下)。

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図2 エネルギーハーベスティングの応用
⁠(提供:九州大学 金谷研究室)

金谷研究室が描く今後の夢は、スマートフォンを「その辺の電波」で充電できる未来です。充電切れを心配することなく、空間にある電波でいつの間にかバッテリーが満たされる――そんな夢のようなエネルギー社会の実現に向け、研究室の挑戦はこれからも続いていきます。

電圧でピント調整! 液晶を用いた「メカニカルフリーレンズ」
⁠秋田大学 河村研究室

秋田大学の河村研究室が披露したのは、ディスプレイでお馴染みの液晶を使ってレンズの働きを持たせる技術です。展示会場で「メカニカルフリーレンズ」として紹介されたこのデバイスは、一見すると薄く透明なガラス板ですが、電圧をかけることで凸レンズにも凹レンズにも自在に変化する画期的な「可変焦点レンズ」として機能します。

円形パターンなどの透明電極がついた2枚のガラス基板の間に、液晶を封入したシンプルな構造をしています。電極に不均一な電圧を加えることで液晶分子の配向(向き)が変わり、光の屈折率が連続的に変化します。これにより、機械的な駆動部を一切必要とせず、電気的な制御のみでレンズパワーを変える仕組みです。

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図3 展示されていたメカニカルフリーレンズと動作原理(上)。
⁠電圧のオンオフで任意にピントが変えられる(下)
⁠(撮影:編集部、画像提供:秋田大学 河村研究室)

さらに同研究室では、電極を細かく分割することで、より高度な光のコントロールを可能にしています。具体的には、電圧の掛け方を円状に動かしたり、1枚のレンズの中で「左上だけ」「右上だけ」といったように特定の部分にのみピントを合わせたりすることが可能です。これにより、光を任意の方向へ曲げる複雑な制御も電気的に行えます。

最大の利点は、機械的な可動部を持たない「メカニカルフリー」と「圧倒的な省電力」です。レンズを動かすモーターが不要なため、デバイスの劇的な小型・軽量化が可能になります。応用先としては、小型カメラのオートフォーカス機能や、自動運転車に不可欠なLiDAR(レーザーの照射方向を変えるビームステアリング)部品としての活躍が期待されています。

社会実装に向けては、長寿命化や安定化といった課題のクリアに取り組んでおり、物理レンズの常識を覆す次世代の光学機器として今後の展開から目が離せません。

Chematels編集部

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