工業材料における不純物対策 第2回 測定限界が品質を決める

2026/05/21

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近年、不純物対策に関しては要求基準がますます厳しくなっていく傾向にあります。この連載では、工業製品において品質上の問題となり得る不純物の対策について取り上げます。 

第2回では、不純物の分析技術の進歩について解説します。 

⁠目次 
⁠第1回:不純物の本質(支配原理) 
第2回:分析 — 測定限界が品質を決める 
第3回:分離精製 — 差を拡大する工学 
第4回:混入防止 — 設計思想としての品質 
第5回:材料別ケース(PVC+先端材料) 

1.はじめに 

⁠不純物対策において、分析技術は単なる「測定手段」ではありません。何を不純物と認識するかを決定する基盤技術です。歴史的に見ても、不純物問題は、分析技術の進歩によって初めて顕在化してきました。すなわち、測れない不純物は、実質的に存在しないのと同じなのです。 ⁠

2.「検出できる」と「許容できる」は異なる

⁠分析において重要な概念は、「検出できる」と「許容できる」は別であるという点です。 

分析技術が不純物を定義するという考え方であり、分析の目的は測定ではなく、 品質判断のための情報を得ることです。半導体におけるNa、医薬品におけるニトロソアミンは、分析技術の進歩によって初めて問題化した代表例です。不純物とは、検出されて初めて意味を持つのです。 

 分析の役割・分析技術の3機能: 

  1. 検出(Detection)存在の有無を確認→ スクリーニング  

  2. 定量(Quantification)濃度を数値化→ 規格との比較

  3. 判断(Decision)許容可否の決定→ 品質・安全性  

分析の最終目的は測定ではなく意思決定です。検出・定量を経て初めて品質判断に至ります。 

3.不純物分析の階層構造 

⁠分析技術は対象濃度に応じて明確に階層化されます。特に半導体・医薬では、ppb以下の領域の分析が実質的な品質を決定します。 

重要な視点:分析の高度化とは、単なる感度向上ではなく品質概念の変化そのものです 

表1 不純物分析の3階層

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【表中の用語】 

GC:gas chromatographyガス・クロマトグラフィー 
⁠HPLC:high-performance liquid chromatography●高速液体クロマトグラフィー 
⁠ICP-MS誘導結合プラズマ質量分析法 
⁠LC-MS液体クロマトグラフィーと質量分析法を組み合わせた分析装置 
⁠TOF-SIMS:飛行時間型二次イオン質量分析法 
⁠TXRF: 全反射蛍光X線分析  

4.分析値の計算・精度・信頼性 

1)分析値はどのように決まるか 

分析結果は、装置が直接「濃度」を測定しているわけではありません。多くの場合、検出されるのはピーク面積や信号強度であり、それを標準物質と比較することで濃度に換算しています。例えばクロマトグラフィーでは、概念的に次の関係で表されます。 

  • 濃度 =(試料のピーク面積 ÷ 標準のピーク面積)× 標準濃度 × 補正係数 

ここで重要なのは、分析値が直接測定値ではなく換算値である点です。 

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基本式 例(クロマトグラフ分析)

A:ピーク面積 
s:標準 
⁠相対応答係数(RRFRelative Response Factor) 

 

検出器は物質ごとに応答が異なるため、補正が必要です。RRFとは、装置の“見え方の違い”を補正する係数ですこれは分析精度を左右する重要要素です。 ⁠

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[数式] 精度・信頼性の本質とは

分析値は一つの確定値ではなく、誤差を含んだ推定値です。そのため、分析には以下の概念が不可欠です。 

  • 繰返し精度:同一条件でのばらつき 

  • 再現性:条件が変わった場合のばらつき 

  • 検出限界(LOD):存在を確認できる最小値

  • 定量限界(LOQ):数値として扱える最小値 

したがって、測定値とは真値ではなく、信頼区間を持った情報です 

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 図1 分析値の誤差概念(イメージ図)

測定値は単一の値ではなく、誤差を伴う分布として理解する必要があります。

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図2 RRF(相対応答係数)(※数値はイメージです) 

同一濃度でも物質異なるピーク高さ→(補正)RRFにより濃度換算が必要です。 

5. 工程との関係 

⁠生産工程では、原料 → 製造 → 製品の各工程に分析が存在します。 

  • 原料受入検査
  • 工程管理(PAT) 
  • 最終製品検査 

分析は最終検査だけでなく、工程全体に組み込まれています。近年は、リアルタイム分析(PAT)、インライン測定により、「測ってから判断」→「測りながら制御」へと進化しています。 

6.コストの視点

分析精度が向上すると、より低濃度の不純物が問題となり、結果として精製工程の追加やコスト増加につながります。すなわち、分析精度の向上は要求純度の引き上げを誘発してしまいます 

したがって、不純物対策においては、必要十分な分析精度、過剰品質の回避が重要です。 

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図3 分析とコストの関係(イメージ図)

⁠7.分析技術の進展と産業別差 

⁠1)分析技術の進展 

近年の分析技術は、主に以下の3方向で進展しています。 

(1)高感度化:ppbからpptレベルへと検出限界が向上し、半導体や医薬品分野では超微量不純物が品質を支配するようになっています。 

(2)多成分同時分析:LC-MS/MSなどにより、複数成分を同時に測定することが可能となり、さらに「何が含まれているか分からないもの」を検出するノンターゲット分析も実用化されつつあります。 

(3)インライン化(PAT):製造工程中でリアルタイムに分析を行い、品質をその場で制御する手法が広がっています。 

 

2)産業別の違い 

分析技術は共通ですが、“何のために測るか”は産業ごとに異なります。 

・半導体:超微量元素による欠陥防止 

・医薬品:安全性評価と規制対応 

・食品:安全性と品質のバランス 

・化学品:工程管理と実用的品質 

 8.まとめ 

⁠「分析」は単なる測定ではなく、意思決定のための情報を生成する行為です不純物対策においては、分析結果をどのように解釈し、どこまで信頼し、どのように活用するかが本質です。「分析技術は、不純物対策の出発点であり、品質・コスト・環境のすべてに影響を与える基盤技術です 

 次回は、「分離とは差を拡大する操作」という観点から、分離精製技術を整理します。 

鹿子島 達志(Tatsushi Kagoshima)/ SCE・Net

1949年生まれ。九州大学工学部卒。鐘淵化学工業(株)(現カネカ)他2社を経験。生産技術や調達部門にて多くの大型海外工場建設の責任者として従事。マレーシアにエンジ会社のMD(社長)として2年間駐在。化学工学会のコストエンジニアリング部会員で活動、SCE・Net会員。現在、生産技術コンサル業のイーグレテック代表。