工業材料における不純物対策 第1回 不純物とは何か:材料・分析・設計をつなぐ視点

2026/05/13

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Chematelsの新連載「工業材料における不純物対策」をお届けします。

近年、不純物対策に関しては要求基準がますます厳しくなっていく傾向にあります。この連載では、工業製品において品質上の問題となり得る不純物の対策について取り上げます。

第1回では、不純物とはなにか、その定義と本質について解説します。

目次
⁠第1回:不純物の本質(支配原理)
⁠第2回:分析 — 測定限界が品質を決める
⁠第3回:分離精製 — 差を拡大する工学
⁠第4回:混入防止 — 設計思想としての品質
⁠第5回:材料別ケース(PVC+先端材料)

1. はじめに

【不純物の定義】

不純物とは、材料のバッチ内に存在し、主成分ではなく、材料の意図した効果や性質を変える可能性のある異物元素や物質を指します。不純物は原材料の欠陥、製造過程、保管条件、さらには取り扱いや輸送中など、複数の原因から生じることがあります。本質的に、物質の意図された組成からの逸脱は不純物とみなすことができます。

【本シリーズでの不純物】

工業材料における「不純物」は、単なる不要物ではありません。同一の物質であっても、用途・濃度・環境によっては有害にも有用にもなり得ます。例えば、半導体ではppbレベルの金属不純物が致命的な欠陥となる一方、化成品ではppmレベルの残存物は問題とならない場合もあります。すなわち、不純物とは物質ではなく、目的と量によって定義される概念です。本シリーズ全体の基盤として、「不純物の本質」を整理し、以降の分析・分離・防止技術の枠組みとして整理します。

2.不純物問題の本質

工業材料における不純物問題は、以下の3点に集約されます。

(1)不純物は相対概念であり 「目的」と「量」で決まる

同じ物質でも、「微量であれば問題ない」「一定濃度を超えると問題になる」という性質を持ちます。

したがって、純度とは絶対値ではなく、要求性能に対する適合度で決まるのです。

(2)分析技術が不純物を“発見”してきた

不純物問題の多くは、分析技術の進歩によって初めて認識されました。例えば、

⁠半導体:Na汚染(ppbレベル)

⁠医薬品:ニトロソアミン(ppbレベル)

⁠などです。

これらは、検出可能→問題化→管理・規制対象化という過程を経ています。すなわち、不純物とは「存在するもの」ではなく、検出され意味付けされたものなのです。

(3)不純物問題は工程全体の問題である

不純物は特定工程で発生するものではなく、原料、製造、保管・輸送のすべてに関係します。したがって、不純物対策は後工程の精製ではなく、工程全体の設計問題です。

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図1:不純物の概念と工程

分析・分離・防止技術はすべてこの枠組みに帰着します。

3.不純物の分類(基礎フレーム)

不純物は発生要因により、以下の3種に分類されます。

(1)反応由来:未反応物、副生成物、分解物

(2)外来由来:設備材料、空気、水、作業環境

(3)時間由来:酸化、吸湿、重合、微生物

この3分類は、分析・分離・防止のすべての基盤となります。

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表1 :医薬・食品・半導体・化学品の比較

4.分野による違い

同じ「不純物」でも、その意味は分野によって大きく異なります。

  • 半導体:電気特性を支配する極微量元素
  • ⁠医薬品:安全性に関わる微量成分
  • 食品:安全性と品質のバランス
  • 化学品:機能・加工性・コストの最適化

ここから導かれる結論は、不純物の厳しさは材料の種類ではなく、要求機能によって決まるという点です。

5.純度とコストの関係

一般に、純度を高めるほど分離・精製工程は増加し、コストおよびエネルギー消費は急激に増大します。

これは、純度向上が指数関数的にコストを押し上げることを意味します。したがって、不純物対策において重要なのは、必要十分な純度の設定、過剰品質の回避です。

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図2:純度とコストの関係図

最適な不純物対策とは、必要十分な純度を最小コストで達成することです。

6.まとめ

不純物とは除去対象ではなく、 目的・量・分析によって定義される設計変数です。かつ、不純物対策は単なる精製工程ではなく、定義(第1回講義)、測定(第2回講義)、分離(第3回講義)、防止(第4回講義) によって構成されるものです。次回は、「測定限界が品質を決める」という観点から、分析技術の役割とその限界について整理します。

鹿子島 達志(Tatsushi Kagoshima)/ SCE・Net

1949年生まれ。九州大学工学部卒。鐘淵化学工業(株)(現カネカ)他2社を経験。生産技術や調達部門にて多くの大型海外工場建設の責任者として従事。マレーシアにエンジ会社のMD(社長)として2年間駐在。化学工学会のコストエンジニアリング部会員で活動、SCE・Net会員。現在、生産技術コンサル業のイーグレテック代表。