CO2をモノづくりの原料に!独自開発の触媒でCOに変換―積水化学【ケミカルマテリアルJapan2025レポート第1回】
2026/03/10化学企業とその周辺産業が一堂に会する化学の総合展示会「ケミカルマテリアルJapan」が、東京ビッグサイトにて2025年11月27日・28日に開催されました。主催者発表の合計来場者数は2万4274人に上るなど、大いに盛り上がりました。Chematelsでは出展企業のうち3社に注目し、3回にわたってレポートを送ります。第1回は、二酸化炭素を「資源」と位置づけて、モノづくりの原料に変換する事業を目指す積水化学です。
CO2をCOに変換、さまざまな化学品の中間原料として利用
現在の気候変動対策の主流は二酸化炭素(CO2)排出抑制であり、そのアプローチの一つにCO2回収・貯蔵(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)があります。CCSは、回収したCO2を地下深くの地層に閉じ込めることで、大気中への放出を抑制しようという試みです。
これに対して、今回の「ケミカルマテリアルJapan」で積水化学(本社・大阪市北区、東京都港区)が紹介したアプローチが、CO2回収・利用(CCU:Carbon dioxide Capture and Utilization)です。これは、回収したCO2を直接利用または別の分子に変換して利用するもの。同社はCO2を一酸化炭素(CO)に変換し、合成燃料や炭素製品、ポリマー製造の原料に利用することを目指しています。
ケミカルルーピングプロセスと独自開発した金属触媒で反応を繰り返す
安定した分子として知られているCO2を別の分子に変換することは容易でありません。そこで同社が開発したのが、独自の金属触媒および「CO2→CO変換ケミカルルーピング技術」と呼ぶ反応プロセスです。
このプロセスにおける触媒は、貴金属を含まない金属酸化物で構成されています。反応プロセスとしては、まず触媒と水素が反応することで触媒から酸素原子が切り離され活性化します。その状態でCO2を送り込むと、酸素原子を失っている活性化触媒がCO2の酸素原子を引き抜くため、CO2からCOが生成されるというメカニズムです(図1)。この一連の反応プロセスをケミカルルーピングと呼称しています。

図1:水素と金属触媒を使用する反応メカニズム
(画像提供:積水化学)
この反応を繰り返すために、水素とCO2のガスを切り替えるシステムを用います。具体的な設備としては反応管4本を設置し、このうちの3本には水素ガス、残り1本にはCO2ガスを送り込みます。一定時間ごとにCO2ガスを送るタンクを切り替えることで、触媒からの酸素原子の切り離しとCO生成の反応を切り替えています(図2)。

図2:ケミカルルーピングプロセスのイメージ
(画像提供:積水化学)
CO2からCOに変換する反応収率は、一般的に50〜60%とされています。これに対して、同社の触媒とケミカルルーピングプロセスによるCO収率は90%を超えたとのこと。さらに4本の反応管を駆使した独自プロセス技術の開発により水素の転化率も80%を超える高い水準を達成。水素を無駄なく使いこなすプロセスを実現しています。同社R&Dセンター先進技術研究所次世代技術開発センターグリーンケミストリープロジェクトの西山悠さんは、「これは世界トップレベルの水準と言っても過言ではありません」と胸を張ります。
西山さんは、「もともと当社にケミカルルーピングプロセスの技術があったわけではありません。しかし当社には新しいことでも必要であれば積極的に開発をするという機運が強くあり、化学メーカーとしてCO2排出抑制に取り組む中で生まれてきた技術です」と話します。
欧州の製鉄所で技術実証済み、2030年の商用利用を目指す
研究開発は2018年ごろから始まり、現在は実証フェーズに突入しています。2021年から2024年にかけて、欧州最大の鉄鋼メーカーであるアルセロール・ミタル社のスペイン製鉄所から実際に排出されているCO2を原料に用いた技術実証が完了しており、1日あたり1キログラムのCO2処理性能が示されました。
現在は積水化学の社内施設で1日あたり100キログラムのCO2処理性能を目指して実証中。さらに2026年以降、バイオプロセスを核にCO2からポリマー原料へ有価転化する一連の技術確立を目指し、90%以上の収率でCOに変換するケミカルルーピング技術を活用したCO2→CO変換反応の試験設備を茨城県ひたちなか・東海クリーンセンターに建設中とのことです。西山さんは、「2030年には1日100トン以上のCO2処理性能をもつシステムとして商用開始することを目指しています」と展望を述べます。
同社は2025年、東京大学および東京科学大学とともに新エネルギー‧産業技術総合開発機構(NEDO)の「水素不使用高エネルギー効率CO2由来導電性カーボン材大規模製造技術の研究開発」の実施先として採択されました。この事業では水素を使わずにCO2からCOを生成し、導電性カーボン材を製造するための技術開発に取り組んでおり、関連する新規技術開発にも取り組んでいます(図3)。

図3:水素非使用のCO2由来導電性カーボン材製造プロセス
(画像提供:積水化学)
CO2を資源として利活用するCCUはサーキュラーエコノミー実現に向けた重要な要素の一つであり、積水化学のアプローチはそれを後押しするユニークな技術になりそうだと感じました。
次回は、粘着・接着剤用樹脂など中間素材を得意とする企業を紹介します。
島田 祥輔(しまだしょうすけ)
サイエンスライター 1982年生まれ。名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻修了。特に遺伝子に興味があり、遺伝子の研究によって医療や生活がどう変わっていくのかに注目している。また、腸内細菌検査サービス「マイキンソー」のオウンドメディア「Mykinsoラボ」の編集長を務める。
