PFAS代替やウイルス除去、コーティング剤で食品分野へ 奥野製薬工業【ケミカルマテリアル Japan2024レポート 第3回】
2025/04/082024年11月に開催された「ケミカルマテリアル Japan2024」では、多くの化学メーカーが先端技術を生かした製品を出展しました。これまで第1回で東ソー、第2回で堺化学工業を紹介しましたが、第3回では奥野製薬工業(大阪市中央区)の出展内容をお伝えします。同社は、2025年に創立120周年を迎える老舗の化学メーカーです。金属、プラスチック、紙など多様な素材への表面処理技術を主力事業としながら、無機材料や食品分野にも事業を広げています。今回は、同社が展示するフッ素コーティング代替技術と、抗菌・ウイルス除去コーティング剤を紹介します。
PFAS規制や食品衛生法に対応したフッ素コーティング代替技術
炊飯器などの食品器具には、食品が付着しにくくするためにフッ素コーティング技術が広く使用されています。しかし、発がん性のおそれが指摘される有機フッ素化合物(PFAS:per- and polyfluoroalkyl substances)の難分解性や蓄積性が問題視され、規制が強化されつつあり、フッ素を使用しない代替技術が求められています。
特に、食品器具は口に触れるものであるため、安全性の高い製品や技術への切り替えが重要です。こうした課題に対応するため、奥野製薬工業が開発したのが、フッ素を使わない新しいコーティング剤「トップセラリリース FG-1」です。

図1:「トップセラリリース FG-1」の展示パネル
(編集部撮影)
「本製品はフッ素を一切使用せず、従来のフッ素コーティングと同等の非粘着性を持つのが特徴です。コーティングしたアルミ容器に米飯を入れても、フッ素樹脂加工品と同じようにほとんど付着しません。さらに、耐熱温度はフッ素コート品と同等の260℃で、耐薬品性にも優れています」
そう話すのは、奥野製薬工業新事業推進部の加東隆さん。展示ブースで実際に施工されたアルミ容器を確認しましたが、中に入れた水滴が球状になってはじかれている様子が見られ、その撥水性の高さを実感しました。

図2:水滴をはじいている左側の施工品の様子
(筆者撮影)
さらに成分や施工方法について、加東さんは、「本製品はケイ素化合物を主成分とし、主剤、硬化剤、非粘着性付与剤の3液で構成されています。施工方法は、基材を前処理した後、スプレーで塗布し、200℃で30分間熱処理するだけです」と語ります。
また本製品は、改正食品衛生法にも対応しています。2020年に導入された「ポジティブリスト制度」により、食品用器具や容器包装に使用できる物質が限定されることとなりました。この制度は2025年6月から本格施行されますが、本製品はこの規制に適合しています。現在、食品器具メーカーからの問い合わせも増えているとのこと。今後、さまざまな食品器具への活用が期待されています。
食品原料だけで作られた抗菌・ウイルス除去コーティング剤
環境への配慮から、プラスチックに代わる素材として、紙製品の需要が増えています。さらに、コロナ禍以降は衛生管理への関心が一層高まり、特に食品用の製品には「安全」と「安心」が強く求められるようになりました。
こうしたニーズに応えるため、奥野製薬工業が紙製品向けに開発したのが、食品原料だけで作られた抗菌・ウイルス除去コーティング剤「TOP NOBAC LB」です。その特徴について加東さんは次のように説明します。
「本製品は、食品添加物として使用されるε-ポリリジンと酵素で構成されています。100%食品用原料なので、口に入っても安全です。ε-ポリリジンは食品の保存料に使われるアミノ酸の一種です」
すべての菌やウイルスに効果があるわけではないものの、同社の評価によると、黄色ブドウ球菌や大腸菌を99.9%以上除菌し、さらに酵素の働きでウイルスを99.9%以上不活性化できるとのことです。

図3:「TOP NOBAC LB」の展示パネル
(編集部撮影)
また、コーティング剤ならではのメリットもあります。「アルコールは蒸発しやすく、持続効果が期待できません。しかし、コーティング剤は簡単に剥がれ落ちることがなく、長期間にわたって効果を発揮します。パルプ紙、インクジェット紙、合成紙などの表面に塗布することで、抗菌・ウイルス除去機能を持つ紙を作成できます」(加東さん)
本製品は2022年に開発されましたが、当時は市場の関心を集めませんでした。しかし、近年の抗菌需要の高まりを受け、再び注目を浴びています。現在は主に食器向けの用途を想定していますが、同社は画用紙など子どもが触れる製品への展開も期待を持って視野に入れています。同社のコーティング技術は、さまざまな分野で新たな付加価値を提供する可能性を秘めています。
「ケミカルマテリアル Japan2024レポート」は今回で終わりです。お読みいただきありがとうございました。
和地慎太郎(わちしんたろう)
ライター(元技術系公務員)。東北大学大学院応用化学修了後、大手製造業で電子材料などの製造開発に従事。その後、地方公務員の化学技術職として、製造業者など多数の企業に対し、廃棄物処理など環境分野での施策を実施。環境省認定制度脱炭素アドバイザー、公害防止管理者、廃棄物処理施設技術管理者の各資格を保有。ビジネス系webメディアや製造業者のwebサイトなどで主に執筆。新著に『ビジネス教養として知っておくべきカーボンニュートラル』(ソシム)がある。

