水電解用の新触媒!「脱イリジウム」で水素製造コスト減へ 東ソー【ケミカルマテリアル Japan2024レポート 第1回】
2025/03/132024年11月、国内最大級の総合展示会「ケミカルマテリアル Japan2024」が、東京ビッグサイト(江東区有明)で開催されました。化学メーカーを中心とする出展企業と来場者が直接情報交換できる貴重な場で、今回は5年ぶりの対面開催となりました。過去最多の193社が出展。来場者は2万6541人に上り、大盛況でした。Chematelsは、出展した3社に取材を行い、各社“イチオシ”の製品について話を聞きました。各回でその内容をお届けします。第1回は、東ソー(本社東京都中央区)です。同社はカーボンニュートラルの実現に向けて注目される「グリーン水素」の製造に用いる新規触媒の開発に取り組んでいます。この触媒の特徴や機能について、無機材料研究所主任研究員の三島崇禎氏に話を聞きました。
グリーン水素普及の鍵を握る“脱イリジウム”電極
再生可能エネルギーを活用し、水電解、つまり水の電気分解で生成される「グリーン水素」は、燃焼時だけでなく製造時にも二酸化炭素(CO2)を排出しないクリーンなエネルギーとして注目されています。
グリーン水素の普及には、量産化技術の確立やコスト削減などの課題を解決する必要があります。その鍵を握るのが、水電解の電極に使用する触媒の開発です。
「グリーン水素の製造方法には、固体高分子(PEM:Polymer Electrolyte Membrane)型水電解という方法があります。この電解槽のプラス側の電極であるアノードには、希少金属であるイリジウムが触媒として使用されます。しかし、イリジウムは世界的に資源量が限られており、高コストであることが難点です」と、東ソー無機材料研究所主任研究員の三島崇禎さんは説明します。
イリジウムは高い耐腐食性と触媒活性を持ち、水電解の電極触媒に不可欠な材料です。しかし、世界のイリジウムの約9割は南アフリカで産出されるという地域的偏りがあり、しかも年間採取量は7万トン程度にとどまります。さらに、白金を精製するときの副産物として得るため、生産量を急増させることは難しいのが現状です。2025年1月時点の平均価格は1g当たり2万1768円と非常に高価であり、水素の量産化やコスト削減の大きな障壁となっています。
「将来的な水素需要の拡大に応えるには、イリジウムの使用を最小限に抑えた“脱イリジウム”電極の開発が必要です」と、三島さんは強調します。
90%以上のイリジウム削減に成功、マンガンで触媒活性が向上
東ソーは、新たな電極触媒を開発するため、国立研究開発法人理化学研究所・株式会社カーリットとともに新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトに参画し、共同研究を進めてきました。
そこで注目したのがマンガンです。
「東ソーは国内唯一の電解二酸化マンガンのメーカーであり、マンガンの製造技術と豊富な実績を持っています。数年前からイリジウムとマンガンを複合した電極触媒の開発に取り組んできました。その結果、イリジウムの使用量を90%以上削減しながら、耐久性を維持し、効率的に水素を発生させることに成功しました」(三島さん)

図1:PEM型水電解用陽極触媒の展示パネル
(筆者撮影)
従来の電極では、イリジウムの使用量を減らすと耐久性が著しく悪化し、触媒の活性も低下して水素の発生量が大幅に減少するという課題がありました。しかし、今回開発されたイリジウム含有マンガン酸化物では、少量のイリジウムでも高い触媒活性と長寿命を両立できるようになりました。
「二酸化マンガンの表面にイリジウムを均一かつ高分散で配置することで、イリジウムの高活性化を実現できることが分かりました。これにより、イリジウムの使用量を大幅に削減できたのです」(三島さん)
スケールアップして実用化を目指す
今後の展望について、三島さんは、「2023年から新たにNEDOの委託事業に採択され、電極触媒の大型化に取り組んでいます。電極サイズを工業レベルまで拡大し、2020年代には実用化させたい」と語ります。

図2:東ソーが開発した電極触媒の展示物
(筆者撮影)
今後も世界の水素需要は増加しつづけると予想され、日本では「水素基本戦略」や「水素社会推進法」が策定されるなど、水素社会の実現に向けた取り組みが加速しています。特に化学業界などでは、高温熱利用を必要とする生産プロセスがある場合、電化による脱炭素化が難しいため、水素の導入が重要です。
東ソーの電極触媒が社会で活用されれば、水素のコスト削減に大きく貢献するでしょう。水素社会の実現に向けた今後の展開に注目が集まります。
次回は、化学品メーカーの展示ブースより、放熱材などの各種製品と技術をレポートする予定です。
和地慎太郎(わちしんたろう)
ライター(元技術系公務員)。東北大学大学院応用化学修了後、大手製造業で電子材料などの製造開発に従事。その後、地方公務員の化学技術職として、製造業者など多数の企業に対し、廃棄物処理など環境分野での施策を実施。環境省認定制度脱炭素アドバイザー、公害防止管理者、廃棄物処理施設技術管理者の各資格を保有。ビジネス系webメディアや製造業者のwebサイトなどで主に執筆。新著に『ビジネス教養として知っておくべきカーボンニュートラル』(ソシム)がある。
