カーボンネガティブへ、バイオマスの価値をつなげる技術を開発―ダイセル【サスマ展レポート2024 第1回】
2025/01/15第4回サステナブルマテリアル展(通称:サスマ展)が、2024年10月29〜31日に幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催されました。出展企業の中から、Chematels編集部が注目した3社を、今回から3回シリーズで紹介していきます。第1回はセルロイド製造から始まって2019年で創立100周年を迎えた化学メーカーのダイセル(本社大阪市北区)です。カーボンニュートラルを超え、温室効果ガス排出量が森林などによる吸収量を下回る「カーボンネガティブ」を目指しています。同社の「バイオマスバリューチェーン構想」の取り組みを紹介します。
バイオマスバリューチェーン構想を打ち出す
ダイセルは、バイオマス由来の酢酸セルロース、酢酸や有機合成品、エアバッグ用インフレータ、キラルカラムなどを開発・製造・販売する化学メーカーです。

図1: バイオマスバリューチェーン構想
(画像提供:ダイセル)
セルロースを扱う会社だけあって、林業との関係も深いダイセル。木材や農水産廃棄物などの未利用資源を原料として活用することで林業や農業など1次産業を活性化し、森の再生を通じて、河川や農地、海の生態系の回復に寄与するという「バイオマスバリューチェーン構想」を打ち立てています(図1)。この構想には、自社で製造する化成品に二酸化炭素(CO2)を利用するバリューチェーンも含まれています。

図2:「CAFBLO®」で作られた構造物。3Dプリンタで作られている。穴を開けても割れないので、ねじ止めできる(右上)。EXPO 2025 大阪・関西万博で来場者が休憩するための仮設建築物「森になる建築」に使われる予定
(筆者作成)
展示ブースには、同社製の酢酸セルロース樹脂「CAFBLO®」による3Dプリンタ構造物が展示されていました(図2)。透明性が高いため、光を通し、自在に着色もできます。海洋生分解性があるCAFBLOは、ダイソーで購入できる魚釣り用ルアーにも採用されているそうです。
森や農地に「木材の地産地溶」かなえるバイオマス液化工場を

図3:超穏和溶解技術を用いて作った、木材溶解物と木粉からなる複合材
(筆者撮影)
通常、木材を液化、例えばパルプ化するには高温・高圧の大掛かりな設備が必要です。一方、ダイセルが京都大学と共同開発する「超穏和溶解技術」では、50℃程度・常圧で木材の液化が可能です。簡易な設備で運用できるため、「地産地溶」設備を全国各地の農地や森につくることもできるのです。

図4:フィルム状に成形。材料の色を生かしてデザイン性の高いナチュラルな雰囲気に
(編集部撮影)
すでにスギ、コナラ、樹皮、サトウキビの搾りかすのバガス、ハーブ、タケ、雑草などを溶解できることを確認しています。溶解液はフィルム状、モールド状、糸状など、さまざまな形状に加工できます。また、植物によっては、香りが残る場合もあります。「廃棄される漁業残渣、稲藁、籾殻などの農業残渣もいずれは付加価値化していこうとしています」と、同社開発担当者は説明します。

図5:液化に用いる有機酸で分解されない香り成分が残っており、蓋を開けるとサトウキビの甘い香りやカモミールの爽やかな香りがする
(筆者撮影)
また、里山で実際に使えるよう、温和な条件でバイオマスをリグニンとセルロースに分ける技術も京都大学と共同開発しています。この技術の特徴は次の3点です。
1. 温和な条件で反応していること
2. ほぐす際のエネルギーが少ないこと
3. 化学修飾をせずに4ナノメートル程度までほぐせること
ダイヤモンドと太陽光でCO2を製品の原料に
ダイセルは、自動車のエアバッグを膨らませるためのインフレータなどの火工品を製造しています。この火工品事業で培った火薬類の取り扱い技術を基に、ダイセルは爆薬を原料にした人工ダイヤモンドの研究開発を行っています。爆薬を起爆させて発生したエネルギーを使って爆薬自体の炭素から合成されるダイヤモンドは、数ナノメートルと非常に小さく、さらに爆薬由来の窒素原子を含んでいます。
この爆轟法(ばくごうほう)で得たナノダイヤモンドは、太陽光でCO2を一酸化炭素(CO)に還元する反応の触媒として働きます。ナノダイヤモンドを触媒として使う場合、反応表面に原料が吸着しない非接触状態で反応が進みます。そのため、触媒の劣化がほとんどないのが強みとなります(図6)。

図6:(左)CO2をCOに還元する「太陽光超還元」の説明パネル(右)ナノダイヤモンド電極上でCOの気泡が生じている様子。展示動画より
(筆者撮影)
「バッチ型の装置でCO2をCOに変換できることを検証し、ナノダイヤモンド電極上でCOの気泡が生じる様子を確認できました(図6右)。また、実装化のための初期検討として金沢大学と共同でCO2を連続的に処理することを目的としたフロー型の装置を組みました。COは有毒であるという印象を抱かれるかもしれませんが、弊社はこのCOを主力製品である酢酸セルロースの原料として有効利用する考えです。このような循環型のプロセスを構築して、CO2の削減に貢献していきたいと思っています」と、開発担当者は説明します。
「弊社はカーボンニュートラルではなく、カーボンネガティブを目指しています。今年はどこまで進みましたかと毎年ブースを訪れてくださるお客さまも多くおられます」と、展示会担当者が続けます。
カーボンニュートラルを超える積極的な取り組みに、期待が寄せられているようです。同社の今後の技術開発から目が離せません。
次回は、リチウムイオン電池に使用する部材を紹介するメーカーの展示ブースよりレポートする予定です。
村上 華子(むらかみ はなこ)
早稲田大学大学院応用化学修了、社会人経験後、早稲田大学大学院科学技術ジャーナリスト養成プログラムを修了。LION株式会社の技術ジャーナル、NEDO実用化ドキュメント、計算基礎科学連携拠点の月刊JICFuSなどで研究紹介取材記事を執筆。工学・化学・計算科学・生物学を中心に執筆。

