無溶剤型接着剤に新方式! CO2削減と品質向上を実現 DIC【Zoom up!企業ニュース】
2024/07/17編集長:ポテトチップスの袋とかシャンプーの詰め替え包装材って、何枚かのフィルムを接着剤で貼り合わせているんだよね。その接着剤の技術が、最近とても進歩しているらしい。
デスク:どんな風にですか。
編集長:接着剤の主流は有機溶剤系、つまりシンナーに溶かして塗る方式だけれど、そこで出る揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)は環境や作業者の健康によくないし、その溶剤を除くためエネルギーも使っているんだ。そこで、無溶剤の接着剤が登場した。ただし、品質はイマイチだったらしい。
デスク:それじゃあ普及しないじゃないですか。
編集長:それが、最近は無溶剤でもずいぶん高品質になってきて、有機溶剤で溶かして塗る接着剤より短時間で接着できるらしい。そんな接着剤を開発したDICは、受賞もしてるそうだよ。
デスク:カーボンニュートラルな高品質接着剤ですね! それは取材にいかないと。
CO2排出量削減に貢献する接着剤を開発
カーボンニュートラル社会を実現するため、DIC(本社東京都中央区)は2030年までに、二酸化炭素(CO2)排出量2013年度比50%削減を目指しています。
「DICが何で貢献できるかを念頭に開発したのが、エネルギー使用量を低減できる無溶剤接着剤『DUALAM』です」と説明するのは、DICパッケージングマテリアル製品本部接着剤製品マネジャーの川崎徳士さんです。

図1: DUALAM で接着した包装パッケージ
(画像提供:DIC)
軟包装材の製造で接着剤が関わるのは、フィルムを貼り合わせる「ラミネート」と、接着剤を硬化させる「エージング」の工程です(図2)。
接着剤は何に溶かして塗るかによって、溶剤型、水性型、無溶剤型に分けられます。溶剤型や水性型接着剤は接着工程で必要とするエネルギーが大きく、CO2削減の効果は見込めません。無溶剤型接着剤は溶剤を乾燥させるエネルギーは不要ですが、エージングの工程でのCO2削減効果は望めません(図2)。

図2:接着工程と各種接着剤のCO2など削減効果
(画像提供:DIC)
DICはエージング工程でのCO2削減を目指し、無溶剤型接着剤DUALAMの開発を始めました。
「分けて塗る」方式で課題をつぎつぎ解消
従来の無溶剤型接着剤には、エージングに多くのエネルギーを必要とする以外にも、いくつかの課題がありました。例えば、調合した接着剤がゲル化して品質劣化が起きるまでの使用可能時間を指すポットライフが短いため廃棄量が多くなってしまう、また、ラミネート直後の凝集力が弱くて小さな力でも接着した面がずれてしまうといった課題です。
これらの問題を全て解消したのが、無溶剤接着剤「DUALAM」です。
なぜ、いくつもの課題を解決できたのか。その秘訣は「分別塗工方式」にあります(図3)。無溶剤型接着剤では、A液とB液を混ぜると硬化が始まり、接着力が生まれます。従来は、2液を混ぜてから塗布していましたが、DUALAMでは、A液とB液をそれぞれの接着面に1液ずつ塗布し、貼り合わせた際に混ざる方式を採りました。

図3:分別塗工方式のラミネート工程。既存のラミネーター(塗工加工機)に後付けできるDUALAM供給ユニット(赤点線部)をラミネート加工機メーカーと共同開発した
(画像提供:DIC)
従来の方式では、2液を混ぜた液のポットライフを長くするために、ある程度ゆっくり硬化するような分子設計をしていました。そのため、エージングには高温・長時間といった条件が必要でした。これに対して分別塗工方式であれば、混ざったらすぐ硬化するような設計ができます。2液を混ぜなくてよいためポットライフに配慮した設計が必要ありません。エージングも室温で1日放置するだけで十分です。
こうしてCO2削減効果の高い接着剤DUALAMができました。全世界で稼働している6000台の溶剤型ラミネート機のうち、400台をDUALAM製造用に切り替えれば、約8万トンのCO2排出量削減に貢献できるという試算があります。
接着品質も向上
短い硬化時間にしたことで、接着品質も向上しました。
まず、外観の向上です。従来の無溶剤型接着では、接着面の気泡がエージング中に集って大きくなってしまい外観不良が発生していました。DUALAMでは、高いバリア性のフィルムを使用したり加工速度を上げたりしても気泡が目立たず、きれいな外観に仕上がります(図4)。

図4: DUALAMと従来の無溶剤型接着剤の外観比較
(画像提供:DIC)
ほかに、初期の接着力を指す初期せん断強度が従来の10〜30倍に向上しています。
また、接着したフィルムを巻き取っていく間にフィルムが浮いてしまうトンネリング性も大幅に改善しました。接着後のフィルムを巻き取る際に巻きずれが発生しませんし、塗り始めの巻芯部にできてしまうシワを100m程度から70m程度へ30%短くすることにも成功しています(図5)。

図5: DUALAMと従来の無溶剤型接着剤の不良削減比較
(画像提供:DIC)
川崎さんによると、導入されたお客さまから「巻きが従来機よりきれいになった」「ポットライフが伸びて管理が楽になった」「接着剤廃棄量を低減できた」「接着剤の飛び散り(ミスト)が低減して加工スピードが上がった」「エージングが短縮されて納期管理が容易になった」「エネルギーが低減できた」「外観不良になりやすい材料構成のフィルムも接着できるようになった」などの声を受けているといいます。「私たちの狙いをお客さまにも実感いただいております」と、川崎さんは胸を張ります。
これらが評価され、DUALAMは日本包装技術協会主催の第46回(2022年度)木下賞で「包装技術賞」を受賞しました。
難しかった3層連続ラミネート加工も可能、今後の用途拡大に期待
DUALAMは、すでに上市しているエーテル系で、従来の無溶剤型接着剤では難しかった3層連続ラミネート加工を可能にし、工程時間を短縮します。また、ポリエチレンテレフタレート(PET:polyethylene terephthalate)/蒸着構成などへ構成を拡大できます。DICはその後も、多用途の接着に対応できるよう、レトルト食品など耐熱性を要する無溶剤型接着剤や、バリア性を高めるなど機能性を付加した無溶剤型接着剤を開発しています。医療包剤や産業用にも用途が広がると期待されます。

図6: DUALAMの今後の展開
(画像提供:DIC)
DICグループは世界各地に現地法人を擁し、グループの海外売上高比率は約68%です。DUALAMを全世界に広めようと、海外でのマーケティングにも力を入れています。日本だけでなく、中国、マレーシア、タイ、イタリアですでに導入実績があり、米国でも導入の予定があります。
「ラミネート接着では溶剤型がいまだに主流です。DUALAMに置き換えると、CO2排出量削減、環境へのVOC排出低減、コストダウン、加工スピードアップ、接着品質アップが実現できます。弊社は、ラミネートの管理温度や加工条件などのご相談に乗り、立ち上げをサポートするチームを設置しており、トラブル対応なども国内外で実施しております」と川崎さん。
無溶剤型接着剤が当たり前になり、「以前はラミネート工場といえばシンナーが付きものでしたね」などと話す日も近いのかもしれません。
村上 華子(むらかみ はなこ)
早稲田大学大学院応用化学修了、社会人経験後、早稲田大学大学院科学技術ジャーナリスト養成プログラムを修了。LION株式会社の技術ジャーナル、NEDO実用化ドキュメント、計算基礎科学連携拠点の月刊JICFuSなどで研究紹介取材記事を執筆。工学・化学・計算科学・生物学を中心に執筆。
