「発電するインク」で世界を塗り未来を照らす! ソーラーパワーペインターズ【Zoom up ! 企業ニュース】

2023/11/14
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編集長:トイレの電気がつけっぱなしだって、また家族に怒られちゃってさ。

デスク:あー…、まぁホッとしてしまうと忘れてしまうこともありますよね。

編集長:無人のトイレを照らしていた電気、なんとか回収できていたら…。

デスク:何を夢みたいなこと言ってるんですか。次から気をつけましょ、ね。

編集長:いや、実はそんな夢のような技術、あるらしいんだよね。

デスク:……へえ。この記事、新しい光発電技術についてですか。

編集長:そう。これで家族から怒られなくて済むようになるかな。

デスク:いや、そこはちゃんと気をつけて電気をこまめに消してください。

編集長:お願い! お願いだからそう言わず、詳しく調べてきて!

高専発「発電するインク」で起業

家の屋根や山の斜面まで、至る所で太陽電池パネルのある風景が当たり前になってきています。そうした中、既存の太陽電池パネルよりフレキシブルな光発電技術を開発している企業が、ソーラーパワーペインターズ(栃木県小山市)です。

開発している光発電技術はもともと、小山工業高等専門学校(小山高専)機械工学科教授の加藤岳仁さんが研究を重ねてきたもの。この技術をいち早く実用化すべく、加藤さん、それに旧知の仲だった小山高専出身の下山田力さんにより同社は2022年3月に設立されました。代表取締役である下山田さんは「技術面は加藤がメイン、私は主に営業や経営を担当する形で関わっています」と話します。

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図1:「発電するインク」から作る発電フィルム。フィルムには透過性がある
⁠(画像提供:ソーラーパワーペインターズ)

開発を進めている技術を同社は「発電するインク」と呼んでいます。「ざっくりいえば太陽電池の一種です。すでに普及が進んでいる太陽電池は主にシリコン型太陽電池と呼ばれるものですが、それ以外にも化合物系や色素増感型や有機薄膜型、最近話題のペロブスカイト型などのさまざまな種類があります。私たちの発電インクは薄膜型に属するものにはなるのですが、他と一線を画す大きな特長があります。その一つが、大気中で作れるという点です」(下山田さん)

下山田さんが話すこの特長こそ、「発電するインク」と呼ばれる一番のゆえんです。「例えばペロブスカイト型太陽電池などの場合、製造にクリーンな環境が必要です。しかし私たちの発電インクは、加藤が研究してきたレシピに基づく材料を市販のエアブラシに入れて、ザーッと吹き付けて塗るだけで完成するのです。製造時、ある程度のラフさは許容できる。この点が、私たちの『発電するインク』の大きな特長です」

低価格、塗れる、透過性など多くの特長あり

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動画1:発電インクを塗ると発電が始まる様子。ここでは筆でインクを塗っている
⁠(動画提供:ソーラーパワーペインターズ)

ある程度ラフにであっても製造できるとなれば、製造工程を簡易化できるためコスト抑制につながります。また、エアブラシなどの塗布技術は多くの企業がもっているものであり、パートナーシップを組むハードルを下げることになります。

「他の薄膜系太陽電池に比べてコストメリットの出る材料を使ったレシピになっているなど、コスト面で工夫をしています。また鉛を使っておらず環境や安全の面での優位性もあります」と下山田さん。他の太陽電池とは違う特長を組み合わせることで、ユーザーに選択してもらえるようにしたいと話します。

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図2:「発電するインク」の特長
⁠(資料提供:ソーラーパワーペインターズ)

塗るだけでよい「発電するインク」の利用シーンは、塗布できる面の数だけ広がります。「例えば、窓際のカーテンに塗布すれば、遮光すると同時に発電できます。研究室レベルでは、下地を塗った上にではありますが、紙や布地の表面に発電インクを塗布できています」(下山田さん)。

発電インクに透過性があり、また材料由来の色を選択できる点も使う側としては嬉しいポイントかもしれません。

発電効率の低さを「時間の長さと面の多さ」でカバー

開発上の課題もあるようです。ソーラーパワーペインターズが力を注いでいるのが発電効率の向上です。普及しているシリコン型太陽電池の発電効率が20%ほど。一方、発電インクの効率は現在3%ほど。下山田さんは、ロードマップではまず5%を目指して改良を進めていると話します。

「各種の太陽電池には、それぞれの強みを生かした適材適所な使い方があるはずです。発電インクの強みはどこでも発電できるようになるということ。発電する時間の長さと発電面の多さでまずは発電量を稼ぎたい」

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図3:「発電するインク」を使えば、昼は屋外からの光、夜は室内からの光で発電できる

例えば、屋外タイプのシリコン型太陽電池では、「発電時間イコール日照時間」となります。これに対して「発電するインク」は室内光による発電も少量ながら可能なので、昼夜問わず光が当たるところであれば発電しつづけられます。「学校やオフィスの窓ガラスの内側に設置しておけば、日中は太陽光で発電できますし、天気が悪い日や日没後でも室内の照明で発電できます。微弱でも長時間の発電を続けることで、トータルで発電量を稼げるような使われ方を考えています」(下山田さん)。

5%の変換効率を目指して、これまでは回収されていなかった光の力を「発電するインク」でできるだけ回収し、再利用することを想定しているのです。

発電量の「1%」を塗り続けたい

2022年3月の会社設立からまだ1年半ほどですが、「発電するインク」は多くのメディアに取り上げられるなど注目を集めています。「関心をもたれた企業からコンタクトをいただけています。本格的な面談をし、実験や共同研究まで進んだ案件もあります」(下山田さん)

今後、製品化を目標に開発を加速させたいと下山田さんは話します。「いくつかの企業と共同研究開発を進めさせていただいています。世界中で注目を集めるペロブスカイト太陽電池をベンチマークとしながら、それに遅れることなくこちらも製品を出していきたいと考えています。そのために、いま一番必要なのが人材と資金です」

立ち上がったばかりのテックベンチャーとして次のステップを目指すには、開発に関わる人材確保と資金調達が喫緊の課題です。さまざまなファンドや支援事業からの資金調達を目指して挑戦を重ねる先には大きな目標があります。それは、世界の年間電力消費量の「1%を塗って占める」というものです。

「私たちは震災時に、電気が使えない状況を体験しました。その時と同じように、世界を見渡せば、地理的事情や経済的な背景から電気が自由に使えない国や地域も少なくありません。研究者である加藤は以前、非電化地帯を訪れた際に『全ての人々が電気を平等に使えるようにする技術には、地域が抱えるさまざまな格差を克服する可能性があると実感した』といいます。私たちが起業に踏み切ったのは、その思いを実現させるためでした。一方で、世界の年間電力消費量は増え続ける一方です。なので、できるだけ安価で、誰でも気軽に使えるような電気を手に入れるための技術を広めることで、世界を元気にしていきたい」(下山田さん)

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図4:太陽電池市場規模と「発電するインク」の潜在需要。市場では多種の太陽光発電技術がせめぎ合うが、「発電するインク」の強みを生かせれば新たな需要が見えてこよう
⁠(資料提供:ソーラーパワーペインターズ)

紙や布地、立体物など、これまでの太陽光発電では対象とならなかったものへの応用に、新たな市場創出の可能性があります。パートナーを組みやすい技術だからこそさまざまな相手とタッグを組んで、「1%を塗って占める」を目指していきたいと下山田さんは力を込めます。

「発電するインク」は、これからの世界をどのように明るく塗っていくでしょうか。楽しみです。

本田 隆行(ほんだ たかゆき)

科学コミュニケーター 神戸大学大学院 自然科学研究科 地球惑星科学専攻修了(理学修士) 。大学時代の専攻は地球惑星科学。大学院時代に探査機「はやぶさ」理学ミッションに携わる経験を持つ。その後、地方公務員事務職(枚方市役所)・国立科学館勤務を経て、国内でも稀有なフリーランスの科学コミュニケーターとして活動中。展示プランニングや科学実演の実施・監修、大学講師やイベントファシリテーター、サイエンスライティングなど様々な仕事をこなす。著書に「宇宙・天文で働く」(ぺりかん社)

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