CNTの欠点「分散の難しさ」を独自技術で克服し、製品化 大日精化工業【Zoom up!企業ニュース】

2024/06/04
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編集長:君は「カーボンナノチューブ」って知ってるかい?

デスク:カーボンナノチューブ、通称CNTですよね。軽くて丈夫で、電気や熱をよく通す優れた素材だと聞いてます。

編集長:そうだ。CNTは多くの分野で応用が期待されてるが、その優れた特性を引き出すのは簡単じゃないらしい。なんでも、CNTを樹脂や液体中に均一に分散させるのが難しいんだとか…。

デスク:コーヒーに砂糖を入れた後、きちんとかき混ぜないとおいしく飲めないのと同じですかね。

編集長:相変わらず君は甘党だな…。そこで今回は、CNTの分散技術に強みを持つ大日精化工業にスポットを当てたらどうかと思ってね。最近、CNTを使った新製品を次々と発表しているらしい。

デスク:それは興味深いですね! 早速、記者に取材してもらいましょう!

夢の素材CNT、その鍵は「分散」にあり

カーボンナノチューブ(CNT:Carbon Nanotube)は、炭素のみで構成されるチューブ状のナノメートル寸法の材料です。炭素原子が六角形状に結合したシートであるグラフェンを筒状に丸めた構造をしており、グラフェンの層数によって、1層のシングルウォールCNT、2層ダブルウォールCNT、多層のマルチウォールCNTに分類されます。現在広く用いられているのは、マルチウォールCNTです。

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図1:CNTの構造。多層のもの
⁠(写真作者:Eric Wieser)

CNTの主な特徴は、その「強度」と「軽さ」です。鋼鉄の約20倍もの強度を持ちながら、密度はなんとアルミニウムの半分程度しかありません。また、CNTは優れた電気伝導性や熱伝導性を持つため、樹脂や液体に導電性・熱伝導性を付与する手段としても期待されています。

このように多くの優れた特徴を持つ「夢の素材」CNTですが、実はその能力を最大限に発揮させるのは簡単ではありません。通常、CNTの持つ特性を樹脂や液体などの素材に付与するには、各素材にCNTを添加して均一に分散させる必要があります。しかし、CNTは非常に細く、互いに絡まりやすいため、一般的な方法ではうまく分散しないのです。これでは、CNTの特性を十分に引き出すことはできません。

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図2:CNTの分散状態を撮影した走査型電子顕微鏡像。白い部分がCNT。CNTが互いに屈曲し、凝集している
⁠(画像提供:大日精化工業)

このCNT分散技術の開発にいち早く着手し、多くのCNT関連製品を世に送り出しているのが、今回、紹介する大日精化工業です。

顔料・樹脂の分散技術をCNTに適用し、事業化

大日精化工業の創業は1931年。当初は顔料やインキを製造していましたが、1960年代後半以降は樹脂合成などにも事業を拡大しました。現在は、IT・エレクトロニクス、機能性材料、ライフサイエンス・パーソナルケア、モビリティ、パッケージングなどの幅広い分野に進出しています。

そんな同社がCNT事業に参入した理由は、創業から一貫して大切にしてきた「分散」技術を生かすことにあります。顔料からインキを製造したり、樹脂を着色したりするには、液体やプラスチックに色の素となる顔料を分散させて均一に混ぜる必要があります。同社は創業以降、このような色彩関連の分散技術を開発・改良しつづけ、多くのノウハウを蓄積してきました。

「当社が培ってきた分散技術を応用すれば、CNTの分散問題をうまく解決できるのではと考えたのです」と、同社機能材開発部課長の作田憲崇さんは語ります。

「CNTをうまく分散させるため、混ぜ方を工夫したり、新たな分散剤を開発したりと、多くの検討を続けました。その結果、CNTを凝集させず、かつ折れないように“優しく”分散させる技術を生み出すことができました」

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図3:通常方法と独自方法でのCNTの分散状態の比較。走査型電子顕微鏡写真。独自の方法では、CNTがより緻密に分散している
⁠(画像提供:大日精化工業)

20年来のCNT開発で、コーティング材、樹脂、粘着剤などを投入

大日精化工業がCNTの研究開発に着手したのは、2000年代前半。当時はいまよりもCNTの値段が10倍近く高かったものの、CNTの将来性に着目して思い切って開発に踏み切ったと、同社機能材開発部部長の土居誠司さんは言います。

「CNTは非常に面白い素材だったため、なんとか使いこなせないかと検討を開始しました。その結果、CNTを折らずに分散させる技術を他社に先駆けて開発・特許化することに成功したのです。これが、後々多くのCNT関連製品を生み出す原動力となりました」

同社は現在、さまざまなCNT関連製品を開発・販売しています。

その一例が、CNTを液体に分散させて塗料化した「フレキシブル導電塗膜用コーティング材料」です。この塗料は変形に強く、塗装品を圧力などで加工しても導電性が維持されます。従来のカーボンブラックを使用した塗料は変形に弱かったため、その欠点を補う塗料として多くの顧客から評価されています。

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図4:フレキシブル導電塗膜用コーティング材料の使用例。フィルムに塗った後、そのフィルムに圧力をかけて成型したもの。加工後も導電性が保たれる
⁠(画像提供:大日精化工業)

また、「導電性熱可塑性ウレタン樹脂」は、柔らかさが特徴のウレタン樹脂にCNTで導電性を付与した製品です。体に貼り付けるウェアラブルなセンサーなどに活用できると考えられています。

さらに、新機能性材料展2024でも展示した「導電性紫外線硬化型粘着剤」もCNTの分散技術を活用した製品です。粘着剤はベタついているため内部に別の材料を分散させるのは難しいのですが、同社は独自の分散技術を活用し、CNTが均一に分散したUV粘着剤を開発しました。この粘着剤は剥がす時に静電気が発生しないため、半導体部品など静電気を嫌う分野での活躍が期待されています。

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図5:導電性紫外線硬化型粘着剤
⁠(画像提供:大日精化工業)

CNTはサステナブルな社会を目指せる材料

CNT製品の今後の展望について、大日精化工業広報部の加川真莉菜さんは展望を語ります。

「CNTは今後も低価格化が進み、より幅広い用途に使用されることが期待されています。CNTを使いこなすための分散技術がますます重要になるはずです。弊社は今後も、独自の分散技術を生かして、さまざまなCNT関連製品を開発していきたいと考えています」

CNTはサステナブル社会を目指す上でも重要だと、土居さんは続けます。

「樹脂などに導電性を付与する際には、レアメタルが使われるケースもよくあります。しかし、レアメタルは貴重ですし、採掘や精錬にともなう環境負荷も膨大となります。対して、CNTを構成する炭素は地球上に豊富に存在しますし、CNTはレアメタルよりも少量で導電性を付与できます。こうした意味で、CNTはサステナブルな材料だといえるのではないでしょうか」

時代の流れに合わせて進化を続ける同社は、今後どんなCNT関連製品を生み出すのでしょうか。その挑戦から目が離せません。

太田 真琴(おおたまこと)

サイエンスライター・広報 1988年生まれ、大阪大学理学研究科化学専攻修了。組込み系SEとして就職したものの、「技術を使うよりも技術を伝える仕事がしたい!」と感じて科学系のフリーランスに転向。現在は、サイエンスライターやディープテック企業の広報として活動している。