「ニオイの可視化」で品質管理や防災をサポート アロマビット【Zoom up! 企業ニュース】

2024/03/05
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編集長:ついに新車を買っちゃったよ。新車の匂いはいいものだよね。

デスク:新車の匂いってよくいいますけど、どういう匂いって表現すればいいんでしょうね。

編集長:それは……新車の匂いだよ。

デスク:それでは堂々巡りですよ。

編集長:でも、色とか温度とかと違って匂いの数値化は難しそうだしなあ。

デスク:そういえば匂いをデジタルデータ化して客観的に評価できるようにするセンサーがあるって聞いたことがありますよ。

編集長:そんなことができるのか。アロマビットっていう会社か。

デスク:記者を派遣して詳しく調べてみましょう。

ニオイを目で見えるようにデータ化する

私たちが香りを感じることができるのは、匂い物質が鼻にある受容体というたんぱく質に結合して、脳の中で情報を処理できるからです。匂い物質は数え切れないほどあり、「この匂い物質があるといい匂い」と単純に決められるものではなく、匂い物質の組み合わせによって心地よさや不快感を覚えます。

その“ニオイ”を見えるようにして、ビジネスや生活シーンに活用しようとしているのがアロマビット(本社東京都中央区)です。

同社は、ニオイセンサーの開発・製造・販売、そしてニオイセンサーから得られたデータを活用したソリューションの提供をしています。最高技術責任者の橋詰賢一さんは、「私どもの開発したニオイセンサーは、匂いの品質を評価してデータ化するものです。一般的なニオイセンサーというと、空気清浄機に搭載されているものをイメージするかもしれません。しかし、空気清浄機のセンサーは香水にも料理の匂いにも反応してしまいます。なぜなら、単に『ニオイがするもの』として扱っているからです。また、ガスセンサーが検知できるのは特定のニオイ物質のみです(図1)。私たちのニオイセンサーは多くのニオイ物質を一度に検出して、まとめてデータ化してニオイのパターンとして分類し、目に見えるかたちで提供できる。この点が特長です」と、話します。

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図1:従来のガスセンサーと、アロマビットのニオイセンサーの違い
⁠(画像提供:アロマビット)

ニオイのパターンを分類して可視化できれば、香水やフレグランス製品がどのような香りを呈するのか、私たちも想像しやすくなるかもしれません。食品開発や製造では、香りの品質管理が属人的にならずに済むと期待できます。

また、橋詰さんは、「香りに対する印象は国や地域によって変わります。ある国の人たちには心地よい香りでも、他の国の人たちには不快ということがあります。製品をグローバルに販売するときに、ニオイに関する共通の物差しのようなものを作ることに私どものニオイセンサーが貢献できればと考えています」と話します。

アロマビットが力を入れている分野の一つが、ケーブル火災の早期検出です。ケーブル火災はいつ起きるかわからないものの、そのために24時間警備をするわけにはいきません。「電源系のケーブルが焦げ始めると焦げたニオイがします。それを検知できれば、より早い段階で対応でき、被害を最小限に抑えることができるはずです」

2種類のセンサーと独自開発の吸着膜で検知

アロマビットのニオイセンサーは、生物の嗅覚を模倣した「e-Nose型センサー」とよばれるタイプのものです。センサーの表面に同社が独自開発したニオイ物質吸着膜が覆われていて、膜の性質が異なると吸着する分子の種類も変わります。

「例えば、親水性の強い膜には酢酸やアンモニアといった親水性分子が吸着する一方、疎水性の強い膜には灯油に含まれるニオイ物質が結合します」(橋詰さん)。何種類もの膜を一度に使ってニオイを嗅ぎ分けているということです。

膜への吸着を検知するセンサーには2種類あります。ひとつは水晶振動子(QCM:Quartz Crystal Microbalance)型で、ニオイ物質が膜に吸着したときの質量変化を共振周波数の変化として検知します(図2)。「原理的にはどんなニオイ物質も検知できるので幅広く測定でき、業務用の分析装置に向いています」

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図2:QCM型でのニオイ検知の原理。QCMの表面にニオイ吸着膜があり、ニオイ物質が吸着すると物質の質量に応じて周波数が変化する
⁠(画像提供:アロマビット)

もう一つのセンサーが、スマートフォンのカメラにも使われている相補型金属酸化膜半導体(CMOS:Complementary Metal Oxide Semiconductor)型で、膜にニオイ物質が吸着したとき(図3)の電荷量の増減を数値データに変換します。いまのところ、開発された膜の種類はQCM型のほうが多く感度も優れてはいるものの、それらの点は開発が進むと解消できると考えられています。また、CMOS 型の特徴として、「小型化しやすいので、スマートフォンや家電製品など一般消費者向けの製品への搭載に適しています」と、橋詰さんは説明します。

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図3:CMOS型でのニオイ検知の原理。吸着膜にニオイ物質が吸着したときの電荷量の変化を測定する
⁠(画像提供:アロマビット)

QCM型もCMOS型も、吸着膜を介して得られたデータの中から最大値や経時変化の傾きなどを特徴量として抽出し、データ処理することで、グラフなどの形としてニオイを可視化します(図4)。

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図4:ニオイのグラフ化。QCM型センサーの場合。いわゆる不快臭や悪臭とよばれるものも、ニオイの特徴が違うことがわかる
⁠(画像提供:アロマビット)

同社はまた、センサー単体だけでなく、センサーを搭載した測定分析機器も販売しています。「Aroma Coder V2 Plus 一式」は、40種類の吸着膜を搭載したQCM型センサーを搭載したもので、すでに食品・飲料メーカーや、海外の化粧品メーカーで採用されています。

さらに、まもなくリリース予定としているのが匂い判定をする人工知能クラウド「ScentifAI」です。ニオイセンサーを用いて判定するニオイデータを取得して、クラウド上でニオイ判定モデルを作成するというもの。ニオイを学習させることで、例えば冒頭で紹介したケーブル火災の焦げ臭を的確に検知できるようになると期待できます。

ニオイのプラットフォーマーを目指して

アロマビットの強みについて、橋詰さんは、「ソフトウェアとハードウェアの両方がそろっていてソリューションまで提供しているのは、日本では私どもだけです。世界を見ても数える程度でしょう。ニオイについては、私たちにお任せすればすべてサポートします」と、自信を見せます。

今後の抱負を聞くと、短期目標としてはセンサーやデータ解析装置といったソフトウェアとハードウェアを普及させたいとのこと。その上で橋詰氏は、「中期目標は、ニオイ分析においてソフトウェアもハードウェアも私たちの製品がデファクトスタンダートとなることです。そうなれば、ニオイのデータベースが構築されるので、長期的にはニオイのプラットフォーマーとしてニオイのデータそのものを提供するような事業を展開したい。これが私たちの夢です」と将来像を描きました。

島田 祥輔(しまだしょうすけ)

サイエンスライター 1982年生まれ。名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻修了。特に遺伝子に興味があり、遺伝子の研究によって医療や生活がどう変わっていくのかに注目している。また、腸内細菌検査サービス「マイキンソー」のオウンドメディア「Mykinsoラボ」の編集長を務める。