これからの化学にバイオは不可欠!—『バイオ技術者・研究者になるには』【厳選! Chematels Book Review】

2023/02/07

高校生のとき、「化学は得意だったけど生物はイマイチだった」という方はいないでしょうか。「化学と生物は違う分野であり、ビジネスでも違う業界」と思っている方もいるかもしれません。

しかし、現代では化学と生物は融合しており、この先の化学業界は、生物学やバイオのことを知らずに語ることができないところまで来ています。

バイオ業界にはどんな仕事があり、どのような歴史があってこれからどうなるのか。いまから勉強しておこうというときの入門書としておすすめなのが『バイオ技術者・研究者になるには』(ぺりかん社)です。本書は中高生向けに世の中のさまざまな職業を紹介する「なるにはシリーズ」の1冊で、バイオ業界でどんな人がどんな仕事をしているのか、大人でも楽しめます。

かつて当コーナーで取り上げた『化学技術者・研究者になるには』(ぺりかん社)と同様、著者はChematelsでも記事を書いている科学コミュニケーター・サイエンスライターの堀川晃菜さんです!

図1:堀川晃菜著『バイオ技術者・研究者になるには』(2018年8月、ぺりかん社刊)

バイオ人材が活躍するフィールドは広がっている

バイオ業界で働いている人たちへのインタビューをもとにした「ドキュメント」では6人が登場します。ビール会社、しょうゆ会社、種苗会社、化粧品メーカー、日用品メーカーで働く技術者・研究者たち、そして製薬企業出身の大学研究者です。

一見するとどれもバイオとは直接関係なさそうですが、例えばビールをはじめ飲料などを製造するキリンビール、しょうゆなどの調味料や食品を製造するキッコーマン食品と、どちらも微生物なくしては製品を作ることができません。これらの生産工場で働く人たちは、まさにバイオ技術者です。種苗会社であるタキイ種苗の例では、苗の性質を知るためにDNAを調べるということをしている人が登場します。

化粧品メーカーのコーセーでは、安全性評価でバイオ技術者・研究者が大きく関わってきます。特に最近では動物実験を減らすために、細胞を使った評価系の確立が急務とされています。日用品メーカーのバイオ研究者としては、花王で口腔内細菌に注目しながら歯みがき粉や洗口液の開発をしている方を紹介。化学とバイオの垣根を超えた製品開発や品質管理が求められています。

このように、さまざまな業界でバイオの知識をもつ人たちが働いており、バイオ人材が活躍するフィールドはさらに広がっているのです。

図2:『バイオ技術者・研究者になるには』裏表紙

新規素材の開発担当者は微生物!?

本書ではバイオの歴史や、バイオテクノロジーともいわれる遺伝子工学などが紹介されています。Chematelsでも取り上げたゲノム編集、それに培養肉といった最先端技術の解説もあります。

本書で触れられているバイオテクノロジー関連の話題で、個人的に掘り下げたいのが「合成生物学」という新しい分野です。製造業においては、DNA合成技術を駆使して、生物にいままでにない物質を作らせようという目的で応用されています。

例えば米国のスタートアップ企業であるザイマージェンは、微生物の遺伝子をランダムに変え、その微生物が作る物質をデータベースとして蓄積するところまで自動化していて、顧客が望むものを提供しています。「顧客が望むもの」とは、香料や塗料、果てはディスプレイ用光学フィルムや戦闘機用コーティング強化材まで。2019年には、住友化学が新しい高機能材料の開発に向けた同社との業務提携を発表しています。いままで化学業界が担っていた新規素材の開発に、バイオ業界が参入しているのです。

なお、ザイマージェンは2022年10月に、同じく合成生物学的手法で新規素材を探索するアメリカのギンコ・バイオワークス社によって買収されており、合成生物学の業界でも著しく再編や発展が進んでいます。

今後、化学とバイオの境界はますます曖昧になってくるのは間違いないでしょう。そうした時代に向けて、バイオのことを改めて理解しておきたい化学業界の皆さんに『バイオ技術者・研究者になるには』はおすすめの一冊です。

島田 祥輔(しまだしょうすけ)

サイエンスライター 1982年生まれ。名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻修了。特に遺伝子に興味があり、遺伝子の研究によって医療や生活がどう変わっていくのかに注目している。また、腸内細菌検査サービス「マイキンソー」のオウンドメディア「Mykinsoラボ」の編集長を務める。