化学業界の「いまの仕事」がここにある—『化学技術者・研究者になるには』【厳選! Chematels Book Review】

2022/10/25
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Chematels読者のみなさんの多くは、化学業界で働いていることと思います。

しかし、いざ「化学とは何か」と聞かれると、答えるのに意外と困るかもしれません。また、化学に携わる仕事には多くの種類があり、同じ会社でも他の部署が何をしているのか、いまいち想像できないということはないでしょうか。ましてや、分野の離れた会社の技術者や研究者が何を考えながらどのような仕事をしているのかを知る機会はなかなかありません。

そこでおすすめの本が、『化学技術者・研究者になるには』(ぺりかん社)です。中高生向けに世の中のさまざまな職業を紹介する「なるにはシリーズ」の1冊ですが、すでに化学業界で働いている人が読んでも、「同じ業界にはこんな人たちがいるのか!」と刺激になるはずです。

著者は、Chematelsでも記事を書いている科学コミュニケーター・サイエンスライターの堀川晃菜さんです!

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図1:堀川晃菜著『化学技術者・研究者になるには』(2022年6月、ぺりかん社刊)

化学は広い! だからこそ同業者の仕事を知っておきたい

「化学」と一言にいっても、有機化学と無機化学という分け方もあれば、染料や農薬など用途例を挙げて分野を説明する方法もあります。話題の小惑星リュウグウに含まれている成分の分析も立派な化学です。それくらい、化学は幅広い分野にまたがっています。

本書では、化学のことを「あらゆる物質の性質・構造・反応を研究する学問」としています。そして、その研究成果からある物質が有用であるとわかったら「材料」と呼ばれるようになると述べます。材料は例えば、断熱材のようにそのまま使われることもあれば、触媒のように別の製品の製造のために使われることもあります。

化学の領域は非常に幅広いものです。本書では中高生が最終製品でイメージしやすいよう「衣食住」を中心に8ジャンル、すなわち衣類、農業、食品、水資源、衛生・医療、化粧品、建築、自動車に分けています。また、部署については7つ、研究・開発、化学物質の管理、知的財産、設計・建設、生産技術・生産管理、品質保証・品質管理、技術営業を紹介。自分がどのジャンルで働いていて、どの部署の仕事をしているのかを客観視することで、業界全体の立ち位置を改めて理解できると思います。

すでに化学業界で働いている方にとって読み応えのあるコーナーが、実際に働いている人たちに取材した「ドキュメント」です。旭化成でリチウムイオン電池より瞬間的に多くの電気エネルギーを取り出すことができる次世代電池「リチウムイオンキャパシタ」の技術開発職に就いている人、クラレで電子部品向けのプラスチックを開発する人、三菱ケミカルで生分解性樹脂の研究開発に携わっている人が冒頭に登場。本の中盤では、東京エレクトロンの半導体開発者、東ソーのバイオ医薬品開発者、物質・材料研究機構(NIMS)のマテリアルインフォマティクスに携わる人も取り上げています。

第一線で活躍している人たちがどのような仕事をしており、どのような信念をもっているかを知ることができる、貴重なコーナーです。子どものころの夢や、就職活動をしていたときのエピソードなどについて本音で語られているので、「そういえば自分がどうだったか」と今一度、振り返ってみてはいかがでしょうか。

「化ける産業」で世界を変えよう

ドキュメントに登場する人たちが共通して述べていることは、「仕事とはチームワークであり、人の話を聞くことが重要」ということです。これは化学業界に限らず、あらゆる仕事に共通することではないでしょうか。本書では技術職と研究職にフォーカスしていますが、営業職でも同僚との情報共有や助け合いが業績アップにつながることはいうまでもありません。

業績アップの先にあるのは、化学の力で世の中に新しい価値を提供し、世界を変えるということ。一つの会社や一人の人間ができることはささやかかもしれませんが、業界全体が一丸となって各社のオリジナリティあふれる製品が集まったときに世界を変えるようなプロダクトが誕生するのが化学業界なのでしょう。まさに「化ける産業」が化学業界、といったところです。

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図2:『化学技術者・研究者になるには』裏表紙

本書の前書きでは、著者の堀川さんの言葉として、次の文が書かれています。

「この本に登場する化学技術者、研究者のみなさんのいきいきとした眼差しは、職務に対して使命感をもちながらも、仕事を通じて知的好奇心が満たされているからだと私は感じました」

読者のみなさんも、職務に対して使命感をもち、知的好奇心を満たしながら仕事をしているでしょうか。自分を見つめ直し、自分の仕事で世界を変えるためには何ができるのか、改めて考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

島田 祥輔(しまだしょうすけ)

サイエンスライター 1982年生まれ。名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻修了。特に遺伝子に興味があり、遺伝子の研究によって医療や生活がどう変わっていくのかに注目している。また、腸内細菌検査サービス「マイキンソー」のオウンドメディア「Mykinsoラボ」の編集長を務める。