化学研究室でフロー合成! 利用者の要望に応え装置を開発 DFC【Zoom up!企業ニュース】
2024/05/14編集長:最近、「フロー合成」っていう言葉をよく耳にするようになったね。
デスク:新しい合成手法ですか?
編集長:工程を一回ごとに繰り返す「バッチ式」に対して、工程を流れるよう進められるから「フロー式」ということらしいよ。人が操作をしなくても機械がどんどん合成実験をしてくれるみたい。
デスク:研究室に行かなくても実験が進むのなら、働き方改革にもつながりそうですね。これは気になります。特派員を送り込んで、報告してもらいましょう。
編集長:そうしよう。いよいよ、研究者も在宅ワークができるようになるのかな?
「最先端の研究現場なのに人による作業が多い」という課題意識
「化学の研究室では、人が試薬をはかりとったり、注射器でガラス容器にチューッと入れたりしている。機械屋の私は、『最先端の研究をしている現場だけれど人による作業が多いな』と感じてしまったのです」
こう話すのは、理化学機器の製品開発と販売をするDFC(Device for Flow Chemistry、京都府宇治市)代表取締役の松本一希さんです。機械工学が専門の松本さんは「機械の加工であれば、金属の塊から製品まで自動で加工するのが当たり前。機械の力で、もっと化学研究の現場は効率化できるはず」と言います。
松本さんはかつて企業に所属してフロー合成装置を開発していましたが、「もっと小回りが効く立場のほうが良いものを早く提供できる」と考え、2014年にDFCを創業しました。社名にFlow Chemistryが入っていますが、フロー合成装置の開発・販売だけでなく、液体クロマトグラフィーの受託開発や理化学機器全般の設計・提案もしています。
フラスコからチューブへ、フロー合成
フロー合成は、有機合成反応を効率的に行う方法で、フローケミストリーとも呼ばれます。従来は、実験したい条件の数だけガラスのフラスコを用意して合成反応を行っていましたが、フロー方式では、チューブ内で合成反応を行います。ガラスだけでなく、テフロンやステンレスなどの樹脂や金属のチューブをY字型やT字型にジョイントして液体を混合させ、反応容器として使用します(図1)。これにより、2種の液体の混合割合や反応温度、時間など、さまざまな反応条件の実験を連続して行い、その反応条件ごとに反応後の液を取り分けていきます。

図1:バッチ方式とフロー方式の合成手法。フロー方式はマイクロリアクタと呼ばれる小スケールの反応器を用いた合成反応でよく使われる。しかし、マイクロリアクタの場合、少しでも固体が析出すると反応容器として使えなくなるので、DFCはより大きなスケールの反応器も採用している。
(画像提供:DFC)
フロー方式では、表面積が大きいことから精密に温度管理することができ、液体の混合もバッチ方式よりも素早く行えます。反応時間は、流速で制御します。
DFCが開発し、販売しているフロー合成装置「Optim Flow」は、大手製薬メーカーからの要望をヒアリングして作り上げた、創薬研究に特化した合成装置です。現段階では、4種のサンプルをセットでき、最大3段階の合成反応を行うことができます。合成反応を終えたチューブを高速液体クロマトグラフ(HPLC:High Performance Liquid Chromatography)につなぐこともできるので、分析まで自動で行えるのも特長です。

図2:自動合成装置Optim Flow。貴重な試薬を扱うことも多い創薬研究に合わせて少量・多検体を扱える装置にした。自動合成装置は海外製のものが多く、輸入費用もかさんで高価格になりがちだが、Optim Flowは汎用スペック品で1500万円ほど
(画像提供:DFC)
松本さんは、「温度はマイナス80度からプラス500度を越える温度まで制御できますし、背圧弁を付ければ、1.5MPa程度の高圧下での反応も可能です。ですから、沸点以上の温度でも液体で反応させることができます」と、Optim Flowの特長を説明します。
Optim Flowのユーザーから「Optim Flowで実験をして分析も自動で行い、その結果を機械学習が学習して次の実験条件を導き出し、その実験条件も自動で行うといった使い方はできないか」と要望が寄せられ、すでに開発に着手しています。
ユーザーの要望に応え、次々と装置を開発
DFCには、「こんなものも自動化できないですか」という問い合わせが寄せられます。コロナ禍や働き方改革の影響を受け、人が実験室にいなくても研究を進められる「ラボオートメーション」への要望が高まっていると、松本さんは感じています。
そうした声を受けて、同社はプロセス検討用合成装置「Alta Flow」(図3)や、安価にペプチドを合成できるペプチド固相合成装置「CYCROSS」を開発、商品化しました。

図3:プロセス検討用合成装置AltaFlow。OptimFlowから派生した装置で、一般的な合成反応を扱える。ポンプから試薬を吸って合成する。最大100個の実験条件を設定可能。価格は500万円ほどから
(画像提供:DFC)
特殊な反応への要望にも応えており、小スケール・大スケールの光反応リアクター、超臨界水を用いた微粒子合成装置の納品実績も重ねています。京都大学で使われている微粒子合成装置(図4)は、納品から1年半あまりで数多くの微粒子を合成してきました。

図4:超臨界水を用いた微粒子合成装置。1日20サンプル合成できる
(画像提供:DFC)
開発した製品には、製造現場で生産機として利用されているものもあります。こうした大型の装置については大手エンジ二アリング会社と協業して開発しています。
機械の力で化学に貢献していく
DFCは、「機械の力で化学に貢献」という企業理念を掲げています。「こういった場合に使用できるジョイントがどこかにありえませんか」といった小さな問い合わせに対するコンサルティングもしながら、実験現場の要望を掴んでいるのだそうです。
松本さんは、「私の夢は、弊社の商品を使った研究でノーベル賞を受賞するような研究をしていただくこと」と思いを語ります。
そのような想いを抱くDFCは、新しい研究のアイデアを実現するような装置や、ラボオートメーションに寄与する装置の開発に意欲的です。「実験室で『困ったな』『不便だな』と思うことがあったら、お気軽にご相談ください」と松本さん。無理難題であるほどワクワクするそうです。目下、合成後の濃縮を高速で行う自動濃縮装置や粉体を自動秤量する装置の開発に取り組んでいます。
DFCが次に発売する装置には、Chematelsの読者の皆さんのリクエストが取り込まれているかもしれません。
村上 華子(むらかみ はなこ)
早稲田大学大学院応用化学修了、社会人経験後、早稲田大学大学院科学技術ジャーナリスト養成プログラムを修了。LION株式会社の技術ジャーナル、NEDO実用化ドキュメント、計算基礎科学連携拠点の月刊JICFuSなどで研究紹介取材記事を執筆。工学・化学・計算科学・生物学を中心に執筆。

