脱・経験と勘の試行錯誤!「溶ける?」をAIで予測 Material Doors【Zoom up!企業ニュース】
2024/03/19編集長:マテリアルズ・インフォマティクスとか、機械学習を使う研究開発手法をよく聞くようになったよね。
デスク:実験しなくてもコンピュータ上でずいぶんと研究開発を進められるようですね。
編集長:経験と勘の研究開発から脱せそうだな。そういえば、学会の懇親会で、AIを使ったクラウドサービスを提供するスタートアップの社長に会ったよ。「よく溶ける溶媒を提案します」って。高分子の混ざり具合なんかも予測できるって言ってた。無料のお試し版もあるらしい。
デスク:お? そのサービスは、混ざり具合を調整するような機能性材料の開発にも関係してきそうですね。何やら新しい風を感じます。特派員を送り込んで、報告してもらいましょう。
編集長:そうしよう。君の勘は鋭いからね……。ん?
候補となる溶媒をAIで提案
ある物質が溶媒に溶けているか溶けていないかで、その物質の扱いやすさは全く違ってきます。「溶けてくれないと始まらない」「いったいどの溶媒になら溶けてくれるのか」という経験した方も多いことでしょう。
そうしたとき、これまでは経験と勘を頼りにいろいろな溶媒を試してみたり、溶けやすそうな溶媒と溶かしたい溶媒を混合してみたりと試行錯誤が続いていました。そんな試行錯誤のかわりに人工知能(AI:Artificial Intelligence)を使ってこうした課題の解決を図るサービス「SoluVision」を作り出したのがMaterial Doors(大阪府大阪市)代表取締役の白瀧浩志さんです。
白瀧さんは、SP(Solublity Parameter)値とも呼ばれる溶解度パラメータの値を用いることで、調べたい物質が溶けるか溶けないか推測できることに着目しました。SoluVisionでは独自に開発したデータベースとアルゴリズムで、物質や溶媒の溶解度パラメータを推定したり、実験値から計算することができます。
「専門的な知識がなくても使えるように配慮したデザインも特徴です」と、SoluVisionの特長を説明する白瀧さん。調べたい物質の分子構造などを入力すると、数秒から数分で候補となる溶媒を最大8種類提案してくれます。また、分子構造などを入力しなくても、物質がどの溶媒に溶けたか答えていくだけで、候補溶媒を提案してくれる機能もあります。

図1:SoluVisionの計算結果の画面イメージ。分散項・極性項・水素結合項という3成分から成るSP値を算出する。SP値を3次元空間の座標と考えたとき、調べたい物質と溶媒のSP値の座標の位置が近ければ溶ける。その物質を溶かすことのできる溶媒の範囲をグレーの球で表示する。画面右側では、候補溶媒を提案。2023年10月時点の取り扱い溶媒種数は155。2種の溶媒を5%刻みで混合する想定のため、約20万通りの溶媒から提案することに
(画像提供:Material Doors)
樹脂などの高分子も溶解度パラメータを持っています。そのため溶媒の探索だけでなく、異なる固体の材料も均一に混ざりやすいか、2種が偏在してしまうかといった相溶性の予測にもSoluVisionを利用できます。
「SP値はインクや接着剤の業界でよく使われてきました。溶けるかや、溶け合うかの指標が重視されるからです。何種類もの材料を積層するようなデバイスでは、基材となる高分子材料には溶けないものの、塗布する材料は良く分散するといった溶媒が求められたりします。そのような場面でもSoluVisionを活用していただけます」と、白瀧さんは説明します。
SoluVisionでは、後にデータ検索できるよう、解析結果を自動的に保管しておくことができ、組織内での情報共有もしやすくしています。「結果を実験ノートに記録しておくだけでなく、組織内で共有すれば、研究開発を効率化できるでしょう。Material Doorsはサービスを通じて研究開発にかかる莫大な時間とコストを削減するだけでなく、日々の検討のレベルアップだったり、新しいアイディアの創出に貢献したいのです」と白瀧さん。
情報管理の安全性についてはどうでしょう。白瀧さんは、「セキュリティ面の審査を経た上で、大企業から中小企業まで各社に導入していただいています。大阪大学や産業技術総合研究所でもご活用いただいています」と話します。
ここまで、反響の大きさに手応えを感じており、「お客さまから、溶媒探索以外にも、マテリアルズ・インフォマティクスに入力する物性値としてSP値が使えそうだとのお声もいただいています。組織的に使える状態のデジタルデータの蓄積が今後、非常に重要な取り組みになりますが、SoluVisionはそのような取り組みの一助になりたいと思っています。」
機能性溶媒・機能性材料の営業ツールとしての役割も
SoluVisionには、界面活性剤の疎水性部分と親水性部分それぞれのSP値を表示する機能もあります。これを、溶媒と溶質のSP値と比較すれば、界面活性剤が溶質と溶媒との混ざりにくさ(SP値の離れ具合)に対して、どう橋渡しをしてくれるかが視覚的に分かります。
「溶質と溶媒のSP値の距離が16だったとします。16では混ざり合いません。しかし、界面活性剤の疎水性の部分と溶質の距離が8、また界面活性剤の親水性部分と溶媒の距離が8であればSP値の差が16から8へと減少するので、この界面活性剤を使えば溶質が溶媒に溶けると予測できます」と白瀧さん。

図2:界面活性剤のSP値の計算結果。界面活性剤のSP値は2個の球で示される。ここでは、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル(PEL:Polyoxyethylene(23)Lauryl Ether)という界面活性剤を評価している
(画像提供:Material doors)
「イオン性液体や、新規の界面活性剤、相溶化剤などの機能性材料をSoluVisionから共有すれば、材料の分子構造を提示することなく、顧客にとって重要な提案をすることができます。営業ツールとしてお使いいただけるのではないかとも考えていますので、ご興味がある方は、ぜひ弊社にお気軽にお問い合わせください」
進化し続けるデジタルサービスの強みを生かして
SoluVisionは、2023年の2月にα版を提供開始してから約1年で、複数回のアップデートを重ねてきました。例えば、沸点や粘度などの物性や、消防法などの法規制を考慮して溶媒の探索範囲を絞り込む機能などが追加されています。
「SP値という物性値だけではなく、普段お客さまが選定の基準にしている法規制などのさまざまな視点をサービスに盛り込んでいくことが重要だと思っています」という白瀧さん。利用者からの要望を反映しながら改良を加えてきました。

図3:SoluVisionのあゆみ
(画像提供:Material doors)
白瀧さんは、「各種ビジネスコンテストでの受賞で社会的な信頼を蓄積しつつ、お客さまの意見を聞きながらサービスを作り上げてきました。これからはお客さまがSoluVisionの機能を最大限に引き出していただけるようにするための取り組みにも力をいれていきたい。そして蓄積した情報を科学界が最大限利活用できるよう、マテリアルズ・インフォマティクスにつながるデータプラットフォームとしての役割も果たしていきたい」と抱負を語ります。
SoluVisionには、機能・利用期間限定ながら無料で試用できるプランもあります。興味を持った方は、以下のサイトをチェックしてみてください。
村上 華子(むらかみ はなこ)
早稲田大学大学院応用化学修了、社会人経験後、早稲田大学大学院科学技術ジャーナリスト養成プログラムを修了。LION株式会社の技術ジャーナル、NEDO実用化ドキュメント、計算基礎科学連携拠点の月刊JICFuSなどで研究紹介取材記事を執筆。工学・化学・計算科学・生物学を中心に執筆。

