世界最小エマルジョン! 安定で透明、化粧・医・食を開拓MORESCO【Zoom up! 企業ニュース】
2024/02/06編集長:決して混ざらないことを「水と油」っていうけれど、乳化剤を使えば、混ざっているかのように分散させられるんだよね。
デスク:牛乳とかマヨネーズとかもそうなっているんでしたっけ。水や酢などの液体の中に、乳化剤で囲まれた油の小さい粒が分散しているんですよね。そういう液体の状態をたしか「エマルジョン」といったような…。
編集長:そういえば、「世界最小のナノエマルジョン」のニュースを聞いたことがあるな。分散している粒が小さいから乳化しているのに透明らしい。
デスク:それは何か特別な機能もありそうですね。特派員を送り込んで、報告してもらいましょう。
合成化学研究者が「世界最小」を実現
ドレッシングはよく振って混ぜても、時間が経つと水と油に分離します。しかし、マヨネーズは酢と油成分に分離せず、乳化した状態のままです。酢のような水性の液体に油の粒が分散しているもの、あるいは液体と油の関係が逆のものを、どちらもエマルジョンといいます。粒の周りを界面活性剤のような構造をしている乳化剤が取り囲むことで、分散した状態を安定して保っていられるのです。
世界最小のナノエマルジョン化剤を発見し、製品化させたのがMORESCO(本社神戸市)です。 同社ライフサイエンス開発部部長の丸山真吾さんは、「開発のきっかけは、合成潤滑油の開発をしていた際に、副生成物として新規構造の物質ができたこと。なんとか使い道を探そうということになったのです」と振り返ります。
ナノエマルジョンの特長を生かす分野として、丸山さんはライフサイエンスの分野を選びました。さまざまな大学の医学部・薬学部の研究室へ相談に行くと、ある研究者から「小さな粒子径のエマルジョンを作るための界面活性剤として利用できないか。難吸収性の機能性成分をエマルジョン化することで、吸収効率の改善や、これまで届けられなかった生体内の部位まで運ぶことを検討してみては」と助言を受けます。
「当社は潤滑油と接着剤を主力製品としており界面化学研究者が多数おります。また潤滑油製品の中には乳液型の油剤もあり、長年の開発でエマルジョンに関するノウハウが蓄積されていました。大学の先生や他の事業部の研究者に教えを請い、よく分からないながらエマルジョンを作ってみたら、ずいぶん小さなサイズで。しかも、粒子径が揃ったものができて、驚きました」(丸山さん)
「生体に使用するには、広く使用実績のある既存物質であるほうが安心してお使いいただける」と考えた丸山さんは、発見した物質と似た構造を持つ医薬品添加物や医薬部外品原料等の材料で、ナノエマルジョンを作り出しました。
丸山さんが作り出したナノエマルジョンの大きさは12nm(図1)。化粧品分野で最近話題のリポソームで100~200nm程度、また脂溶性のデリバリーに使われていたエマルジョンで55 nmなので、これらよりはるかに小さいものです。一般的に50nm程度のマイクロエマルジョンは高温環境下で粒子径が大きくなり分離してしまいますが、ナノエマルジョンは安定して小さな粒子の状態を保てます。

図1:世界最小のナノエマルジョン。粒子径が揃っていることも特長の一つ。粒子のサイズは材料の配合比率で4~20nmほどの間で調整ができる。乳化剤の分子構造を工夫し、長期保存安定性を担保している
(画像提供:MORESCO)
小さいエマルジョンを作る別の製法として、力技で分散させる「高圧乳化」があります。しかし、この製法は小さい粒子径を長期に保てません。また、製造時に大きなエネルギーを必要とします。
「化粧品メーカーでよく使われる高圧乳化に比べて少ないエネルギーで製造できるため、カーボンニュートラルやSDGsの観点でもご評価いただいています。また、牛乳のように乳化している液体はたいてい白濁しています。しかし、ナノエマルジョンは粒子径が小さいため透明です(図2)。化粧品会社の方にはクリアな見た目の乳液を無色透明な容器で販売できると喜ばれました。そこにも価値を感じていただけるとは意外でした」と営業もしている丸山さんは言います。

図2:透明なナノエマルジョン。トコフェロールをナノエマルジョンで乳化。原体は分離しているが、ナノエマルジョン化剤を使うと、乳化して均一で透明な液体になる。グラフはエマルジョンの粒径と散乱強度(頻度に相当する指標)の関係性を示したもの。シャープなシングルピークになるので、均質なエマルジョンを作れる
(画像提供:MORESCO)
化粧品・医薬品に期待大のデリバリー性能
丸山さんは、ナノエマルジョンがどのようなデリバリー性能を持つのかを皮膚モデルで調べてみました。すると、粒子サイズが24nmより小さいと、時間が経つほど吸収力が上がるようになりました。他社の55nmのエマルジョンに対して最大で40倍(24時間後)もの高い浸透量を誇ります(図3上)。「蛍光色素を閉じ込めて光るようにしたナノエマルジョンが浸透する様子を見てみると、高吸収型ナノエマルジョンではかなり深く浸透していました」と丸山さんは胸を張ります

図3:ナノエマルジョンの浸透効果。ナノエマルジョンには界面活性剤の化学構造により高吸収型と非浸透型があり、浸透力を調整できる。蛍光像は露光時間が異なっており、高吸収型の露光時間は短い。同じ露光時間であれば高吸収型はさらに強く発光するはず
(画像提供:MORESCO)
ナノエマルジョンの中に閉じ込めた機能性成分が浸透して実際に機能するかという試験も行っています。美白機能を持つことで知られているビタミンC誘導体(VCIP:Vitamin C tetra-isopalmitate)をナノエマルジョン内に閉じ込めた上で、ナノエマルジョンをモデル皮膚に振りかけ、紫外線を照射。すると50nmのマイクロエマルジョンや非浸透型のナノエマルジョンを使用した場合は、シミの元であるメラニンが産生されたのに対し、11nmの高吸収型ナノエマルジョンを使用した場合はメラニンができにくくなっていました。
高吸収型のナノエマルジョンは、浸透させてを機能発現させたい成分に応用することができます。一方、紫外線吸収剤といった日焼け止めの成分には、肌に浸透し刺激につながることが懸念されています。そこで、非浸透型のナノエマルジョンに紫外線吸収剤を閉じ込めることで、肌の内部へ浸透することなく、小さなエマルジョンが肌の表面の細かな隙間までムラなくカバーすることが可能です。これにより、少ない薬剤量で高い日焼け止め効果を期待することができます。

図4:ナノエマルジョンの機能性評価。メラニンの産生を抑えるVCIPをナノエマルジョンに閉じ込めて評価。メラニンが産生されやすい黒人ドナーでも十分に効果があった
(画像提供:MORESCO)
化粧品以外に、抗がん剤のドラッグ・デリバリー・システム(DDS:Drug Derivery System)剤としてナノエマルジョンを使えないかという研究も長崎大学と共同で進めています。また食品分野でも、機能性物質などを運ぶナノエマルジョンの製品化・量産化を検討しています。「エマルジョンの粒子が小さいことで、腸管からの吸収性能が飛躍的に向上します。吸収性能が上がれば、希少で高価な機能性物質の量を減らしても十分な効果が得られるかもしれません」(丸山さん)
自社の化粧品ブランドを立ち上げ
MORESCOはナノエマルジョンを使用した化粧品を自社販売しようとしています。化粧水と美容液「イリグラシア」に使われるのは18nmのナノエマルジョン。角質層に浸透していき、肌の調子を整えます。
丸山さんはブランド設立について、「これまでにない小さな粒子径のナノエマルジョンを化粧品原料として販売することを進めていきます。ナノエマルジョン配合化粧品の使用感や満足度といった化粧品ユーザーの生の声を聴き、ナノエマルジョンをさらに改良することで、当社の顧客となる化粧品メーカーの皆さまに安心してご利用いただきたい」と説明します。
化粧品開発をするうちに、化粧品に使用される保湿剤や増粘剤、防腐剤といった成分の中には、エマルジョンを不安定化させるものがあるという課題があると分かりました。そこで同社は、そうした化粧品成分と共存させても安定性を損なわないナノエマルジョンを見出しています。
MORESCOは、これまでにないナノエマルジョンの応用分野を探しています。「ナノエマルジョンの基本特許(特許第6667043号、第6622950号)も保有しています。ナノエマルジョンに関する特許は乱立していますが、当社から提供するナノエマルジョンは知的財産面で安心してご利用いただける状況にあります。MORESCOでは、ご要望の機能性成分をナノエマルジョン化することもできます。お気軽にお問い合わせください」と丸山さん。
世界最小のナノエマルジョンがどのように活躍の場を広げていくのか、今後の動向から目が離せません。
村上 華子(むらかみ はなこ)
早稲田大学大学院応用化学修了、社会人経験後、早稲田大学大学院科学技術ジャーナリスト養成プログラムを修了。LION株式会社の技術ジャーナル、NEDO実用化ドキュメント、計算基礎科学連携拠点の月刊JICFuSなどで研究紹介取材記事を執筆。工学・化学・計算科学・生物学を中心に執筆。
