品質は従来品と同等! バイオマスポリマーでSDGsに貢献 根上工業【Zoom up ! 企業ニュース】
2023/10/24編集長:最近、紙製のストローや紙の包装材をよく見かけるようになったな。
デスク:脱プラスチックの流れを感じますね。とはいえ、全て紙で代替するというわけにはいかないでしょう。
編集長:うん、確かに。となると、環境にやさしいプラスチックの出番か。そういえば、こんなニュースがあったな。
デスク:化学メーカーの根上工業の「植物由来原料を用いたバイオマスポリマー」の記事ですね。この会社、展示会にも出展していたんですね。
編集長:これまでのポリマーと同じように使えるのかな。
デスク:詳しい話を、記者に取材してもらいましょう!
開発のきっかけは「植物由来の製品は」との問い合わせ
根上工業は石川県能美市に本社のある化学メーカーで、主にアクリル系ポリマーと、ウレタン系ポリマーを製造販売しています(図1)。「社員数130名ほどの会社ですが、そのうちの3割が研究員という開発主導型の企業です」と同社営業部の鼎健太郎さんは企業としての特徴を話します。

図1:根上工業の事業内容と製品構成。アクリル系とウレタン系ポリマーから、樹脂や真球状架橋微粒子を製造販売する
(画像提供:根上工業)
製品の形態は、粉体、液体、ブロック体の樹脂と多様です。同社は、低分子の原料であるモノマーから、高分子のプラスチックであるポリマーを重合する技術に強みを持ち、さまざまな重合方法でポリマーを製造しています。なかでも、「水系懸濁重合」を得意としています。水系懸濁重合は、分子量1万〜200万というかなり分子量の高いポリマーを重合でき、かつ残存モノマーや金属塩などの不純物を少なくできる技術です。
同社製品は、塗料や接着剤、建材、コーティング剤、パッケージ材料などの主剤となる原料や機能性添加剤として利用されています(図2)。

図2:ポリマーの用途例
(画像提供:根上工業)
そんな同社に数年前から「植物由来の製品はないか」という問い合わせが増え始めました。持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)や、環境・社会・企業統治(ESG:Environmental Social Governance)といった環境面を配慮する意識の高まりに加えて、政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル」の宣言もありました。
植物由来の製品を使えば、植物が成長過程で二酸化炭素(CO2)を吸収しているので、たとえ製品を廃棄する時に燃焼したとしてもCO2排出の収支は実質ゼロになるという考え方がされます。
「お客さまの要望を受け止め、時代の要請に応えるべきだと、いち早く、バイオマスをベースとしたポリマーの製品開発を始めました」と、同社常務取締役の山澤義秀さんは当時を振り返ります。
採用実績が出てきたバイオマスポリマー

図3:バイオマスポリマー
(画像提供:根上工業)
根上工業のバイオマスポリマー(図3)は、植物由来のモノマーを重合して製造しています。同社が従来から扱ってきた製品のうち、アクリルアクリレート系樹脂以外の製品群全てでバイオマスポリマーの製品を開発しています。
製品の重量に対するバイオマス原料の重量割合を指すバイオマス度は24〜100%と、製品によって異なりますが、ウレタンアクリレート(図4)に見られるように、分子量や粘度、官能基数などのバリエーションを豊富に取り揃えています。

図4:ウレタンアクリレートの製品ラインナップ。バイオマスポリマー製で、塗料やコーティング剤、光学材料用の透明接着剤などの用途で使われ、問い合わせが多い。他にアクリルポリマー、メタクリル樹脂、真球状ポリマー微粒子などのバイオマスポリマー製品も
(画像提供:根上工業)
「石油由来のモノマーと同じ製造方法ではうまく重合できず、バイオマスポリマー用の製造方法の探索を重ねてきました。サンプル製品を試していただいたお客さまからは『石油由来のプラスチックと同等品質として取り扱える。よくできている』といったお声をいただいています」と山澤さん。
石油由来のポリマーより価格は上がるものの、化粧品用をはじめとする容器・パッケージなどで、すでに採用例も出てきています。「需要が高まり、量産できるようになれば、価格も下がっていきます」と山澤さん。
ウレタンアクリレートはまた、紫外線を短時間照射するだけ硬化できる樹脂です。何時間も熱をかけなければ硬化できない熱硬化樹脂に比べて、製造時に必要なエネルギーを大幅に削減でき、熱効率よく架橋体をつくることができます。つまりウレタンアクリレートは、バイオマスポリマーであるという点と低エネルギーで硬化できるという二つの点で環境にやさしいポリマーなのです。
植物由来以外の環境配慮プラスチックも製品化
根上工業は、植物由来以外の環境配慮製品も取り揃えています。
その一つが、揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compound)の含有量が低い製品です。大気中へのVOC排出を抑制できるという点で環境に配慮した商品になっています。
水系ウレタンアクリレートエマルジョンWEH-1(図5)は、有機溶剤ではなく、水系の液体にウレタンアクリレートが50〜100μmの平均粒子径で分散している白濁液体です。大気中にVOCを排出しないだけでなく、製造工程で溶剤を揮発させるためのエネルギーを使わないで済むという点でも環境にやさしいポリマーです。

図5:水系ウレタンアクリレートエマルジョンWEH-1。有機溶剤を使用していない低VOC材料
(画像提供:根上工業)
挑戦は続く、モノマーの充実に期待
根上工業では、生分解性を有するセルロース微粒子も上市しています。プラスチックは自然界でなかなか分解されません。とくに、微細なプラスチックごみを指すマイクロプラスチックは、海洋生態系に深刻な影響をもたらすと問題視されています。生分解性プラスチックは自然界で分解が進むため、マイクロプラスチック問題を回避できる材料となりえます。
山澤さんはバイオマスポリマーの今後について「環境に配慮した製品の売上は大きく伸びています。しかし、モノマーの種類は現状ではまだ少ないながら、今後、種類は増えてくると思います。バイオマスをベースとした新しいモノマーが出てきたら、新たなポリマーをさらに取り揃えていきたいと考えています」と抱負を語ります。
「根上工業は、社員数が少ないながら研究員数は多く、それだけに小回りの効く会社です。お客さまからのご要望に応じてオリジナルのポリマーを試作し、受託製造することもできますので、お気軽にお問合せをいただけるとうれしい」と鼎さん。
バイオマスポリマーは今後さらに種類が増えていくことでしょう。環境負荷を低減する材料として、ますます注目が集まりそうです。
村上 華子(むらかみ はなこ)
早稲田大学大学院応用化学修了、社会人経験後、早稲田大学大学院科学技術ジャーナリスト養成プログラムを修了。LION株式会社の技術ジャーナル、NEDO実用化ドキュメント、計算基礎科学連携拠点の月刊JICFuSなどで研究紹介取材記事を執筆。工学・化学・計算科学・生物学を中心に執筆。

