言語データからの問題分析を試みる【自分で作るAI 第3回】

2023/06/22
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連載の目次

庭にいるのは「私」か「少女」か

人工知能(AI:Artificial Intelligence)による翻訳をめぐる有名な文章があります。

I saw a girl in the garden with a telescope.

多くの読者は、「私は望遠鏡を覗いて、庭にいる少女を見た」と翻訳すると思います。一方、AI翻訳では「私は庭で望遠鏡を覗いて、少女を見た」と訳出されても間違いではありません。人間が、「私」と「少女」の関係性を文脈から捉えて、何をどうしたか理解できるのは、「私」と「少女」の行動パターンが暗黙知として人の記憶に含まれているからです1)。

俳句ではさらに難しく、17文字の中に多くの暗黙知と形式値が含まれています2)。情景、季語、読み手、時代背景などの隠れた情報が必要だとわかります。

今回は、AIは文字をどのように扱っているか、また、その技術の課題は何かを考えていきたいと思います。

言語データをもとに腐食時の傾向を把握する

第2回「最低限の道具を揃え、ソフトを使ってみる」で示した住宅問題の表は、すべて数値情報でした。

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表1:例題:調査データから腐食時の傾向を把握

一方、表1は、腐食問題の各事例について、その環境と原因を調査したデータを示したものであり、入出力データはすべて言語です。これらのデータから、腐食が起きるときの傾向を把握することにします。

ここでの入力の要素は、「設備」「部品・配管系」「部品・配管形状」「主要流体」「材質」「発生部位」「損傷形態」です。これに対し、出力の要素は「損傷メカニズム」「損傷メカニズム詳細」です。

入力の要素の「主要流体」については、常温海水ですが、「約3.5%の塩化物と微生物を含む水溶液の複合体」といったような腐食劣化に関与する基本情報が欠落しています。これら腐食に関与する分子や複合体は少なくとも1000種類程度あるのではないかと考えます。一方、ここでAI学習するデータは2000個程度ですので、その環境が出現する事例は平均2です。他の入力の要素についても、関与する基本情報が欠落気味であり、圧倒的にデータ不足であるとわかります。

データ不足には情報補足や数値化分析を

データ不足という課題を解決するには、化学物質の機能をシートに含ませることがとりうる手だてとなります。例えば、「塩酸は強酸性で塩化物イオンは大部分の金属を腐食させる」といったことをコンピューターに入れる必要があります。化学の教科書に載っている情報の最低10倍以上は入れる必要があるでしょう。

さらに、その情報を極力、数値化することも大切です。図1は、表1と同様の塩酸腐食の事例について、AIによる決定木分析を行った結果です。決定木分析とは、木構造を用いて目的変数に影響を及ぼしている説明変数を見つけだす分析手法です。何が塩酸腐食の原因かを樹木で表現することができます。

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図1:塩酸腐食事例に対する決定木分析

この決定木分析から、塩酸腐食は、「① 塩ビモノマープラントの場合に起こる」、「② 材料が炭素鋼の場合に起こる」、「③ 材料が炭素鋼でも繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)でもない場合に起こる」という常識的な結果が出てきました。この解析結果はある程度満足できます。

しかし、さらに分析内容を改善するには、他の物質との相互作用の影響を加えるなど、現実的な環境を模擬できるようにデータを追加することが重要であることを示しています。

次回は第4回「できることを整理し、業務変革の戦略を立てる」の予定です。

参考資料

1)GLOBIS知見録「人工知能の未来~ディープラーニングの先にあるもの Part1/2 ~東京大学・松尾豊氏~」
⁠https://www.youtube.com/watch?v=GbmKWY7SLng

2)Sapporo AI LAB「AI一茶くん」Project(2017)
⁠https://www.s-ail.org/works/aihaiku/

松田 宏康(Hiroyasu Matsuda)/SCE・Net

⁠合同会社設備技術研究所代表社員。1956年生まれ。前身の三井東圧化学時代を含め、三井化学で主に設備管理に従事。とりわけ、腐食防食関連の知識を生かして、化学環境と設備の劣化に対する現場解析および改良を行ってきた。現在は、設備劣化のモニタリングやAIを用いて解析技術の発展に貢献したいと考えている。